下心満載のいやらしい目で女神様の身体を鑑賞していたら、その女神様から「英雄」だ「ヒーロー」だ、なんて褒められた。
女神様の魅力について書いていたら、ほとんど話が進まなかった の巻
『女神』なんて名乗られて、そう簡単に飲み込めるものじゃない。
「えっ、女神……?」
はっきり『女神』と聞き取れていたが、一応聞き間違いの線を疑い、聞き直してみる。
「はい、女神です!」
やっぱり聞き間違いじゃなかった。
『ウアイラ』と名乗る女神は、屈託ない笑顔で俺を見つめる。
正直言って超カワイイ。
あんまりカワイイもんだから、俺は思わず目を逸してしまう。
アカンアカン、惚れてまう。
いや、俺が特別惚れっぽいわけじゃないと思うよ。
超一流のナイスバディにギャップのある、ちょっとロリ入ったベイビィ・フェイスのカワイイ娘に見つめられると、誰だってちょっとは心にクるだろう?
「ところでですね……」
「いや、ちょ、ちょっと待って下さい!」
俺は女神と名乗る女の子が喋りだすのを遮った。女神らしいから、一応敬語で。
俺はまだ女の子が『女神』というのを受け入れられていない。
受け入れるとか、それ以前にまず、この状況すら理解していない。
俺と女神様を除いては、相変わらず周囲の全てが制止しているし。
その上『女神』ってなんだ?
意味不明なことの連続で頭がパンクしそうだ。順を追って整理しないと……。
え~っと、俺がおばあちゃんを助けるためにその背中をぶっ飛ばしたら、そこにトラックがやってきて、あーこりゃダメだ。轢かれて死ぬわ。
って思ってたら、何故か轢かれなくて、目の前でトラックが停まってて、運ちゃんが目玉飛び出させてて、やっぱり運ちゃんも止まってると思ったら、俺も止まってて、そしたら上から黒パンツが降ってきて、いや、黒パンツを履いた女神様が降ってきて……、ううん、わけわからんぞ。
頭がおかしくなるというか、既におかしくなってるんじゃないか?
あっ! そういうことか!
俺、既に死んでるんじゃね?
これ、死後の世界で、女神様が迎えに来てるんじゃね?
ネロとパトラッシュみたいにさ?
あ、これ名推理だ。
「あら、どうかされましたか?」
突然女神様に声を掛けられ、俺ははっとなった。
気がつけば、女神様はさらに俺に近づき、その大きなお胸が俺の身体に当たりそうだった。
当たってほしかったが、そうは上手くいかなかった。
カワイイ顔が心配そうに俺を覗き込んでいた。
女神様は俺よりちょっぴり身長が低いため、俺はちょっぴり高いところから、女神様を見下ろす形になる。
そのおかげで、カワイイ顔から視線をほんの少し下にズラせば、まぁ、なんということでしょう! キレイなお胸の谷間が見えるじゃないですか!
俺、感激! 死んで良いこともあるもんだ! 俺はつくづく思った。
生きている間には拝めなかった、ナマの巨乳! それもカワイイ娘のときたもんだ!
そのあまりの迫力に、俺にはまるで、3D映画のようにおっぱいが飛び出してきているように感じられた。
うーむ、びゅーちほー。わんだほー。えくせれん。
いや、待て待て待て! 俺は頭をぶんぶん振った。
待て待て待て!
女神様の胸をいやらしい目で覗き込み、ふしだらな恍惚に浸ってる場合じゃねぇぞ!
失礼ってレベルじゃないぞ!
この女の子は、見た目はカワイイが女神様だぞ!
どんな神様か知らないし、名前も聞いたことないけれど、なんか周囲の動きが止まっているし、空から降ってきたりしたから、きっと凄い神様なんだぞ!
そんな凄い神様に無礼を働いたらどうなることやらわかったもんじゃないぞ!
ここでの印象が天国か地獄の分かれ道かもしれないんだぞ!
俺よ、呆けてばかりいるな!
態度を改めるんだ!
女神様に相応しい態度で臨むのだ!
俺はサッと後ろに跳び、女神様からしかるべき距離を取った。
両手で両頬をパンパン叩き、おそらく鼻の下が伸び切っていただろう、己のバカ面を修正した。それから、
「いえいえ、なんでもございません女神様! 女神様のような天上のお方が、私のような下賤の分際に何の御用がおありなのでしょうか……?」
と言って、俺はコメツキバッタのようにひれ伏した。
チラリと片目で女神様を見た。
女神様はポカンと口を開けて、少々困惑の様子で俺を見ていた。
どうやら俺はスベったらしい。
「あ、はい。用件ですね。実は私、上からあなたを見ていました」
女神様は空を指差した。
「私、感動しました! 老い先短い老人を、未来の有る若者が身を挺してかばう、これほど美しく、感動できることが他にあるでしょうか。私、いたく感じ入りました。多加賀幸一様、あなたは英雄です!」
女神様は天を差していた指をビシっと俺に突き付けた。
『多加賀幸一』とは俺のフルネームだ。名乗った覚えはないはずだが……。
神様というだけあって、何でも知っているのかもしれない。
ひょっとしたら何でもできるのかもしれない。
全知全能の絶対神なのかもしれない。
そう思うと、自然に畏敬の念がこみ上げてくる。
「い、いえいえ、褒めすぎです。その、別に助けようと思ったと言うよりは、何となく身体が動いたというべきでしょうか……、なんかよくわからないうちに、こうなっちゃってて……」
「んんん、やっぱりヒーローは言うことが違いますねぇ! 『考えるな、感じろ』ということですか! なんかちょっとカッコつけてるようにも聞こえますが、多加賀幸一様はカッコつけているわけではないでしょう、女神にはそれくらいお見通しです。ただ、素がそういう気質なんですよね。そういうところもヒーローっぽいですよね」
俺はなんと言っていいかわからず、曖昧な笑顔を作った。
女神様のことだから、見破られてしまうかもしれないが、それ以外にどうしようもなかった。
「あなたのような英雄を失うのはこの世界の損失です。普段は生きとし生けるものの運命を弄くり回さない女神ですが、多加賀幸一様の英雄的行動を目の当たりにすれば話は別です!」
女神様はつかつかと俺に歩み寄ってきた。
俺は慌てて襟を正した。
何故か思わず正座をしてしまった。靴を履いたままする正座は気持ち悪く、足が痛い。
「私、女神ウアイラは、あなたに今一度チャンスを与えようと思います!」
女神様は俺に、ビシっと指を突き付けた。
指を突きつけるのが好きなのだろうか。
あまりに勢い良く俺を指差したものだから、反動で女神様の盛大なお胸が盛大に揺れるのを至近距離で拝むことができた。
嬉しい半面、女神様をいやらしい目で見たことがバレたらヤバイとも思い、俺はすぐさま女神様から顔ごと目を逸らした。