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未成年の飲酒は法律で禁止されています。

酔っぱらうとおかしくなるよね。

 上半身裸では寒かろうということで、ジュリエッタお嬢様が上着を従士に持ってこさせてくれた。

 白に濃紺のステッチの入ったシャツは新品だった。それに手触りが良い。きっと高級品だ。庶民には手の届かない代物だ。

 ジュリエッタお嬢様は俺へのプレゼントだと言った。

 最初は、そんな高級品もらえない。借りるだけだと遠慮したのだが、彼女の方も中々頑固だったので、こっちが折れ、ありがたく頂くことにした。


 どこからともなく、酒や食事が大量に運び込まれてきた。


 俺は即席の宴会席のど真ん中に据えられた。

 人々がわらわらと俺に群がり、助けたことへのお礼を言い、ついでに一杯お酌をしてくれる。

 元の世界で俺は一滴も酒を飲んだことがない。

 とくべつ飲みたいと思わなかったし、そもそも俺の年齢で飲酒することは法律で禁じられていた。

 だけど、微塵も興味がないと言ったら嘘になる。そりゃ思春期の男子高校生ですから、人並みに好奇心はある。


 それに、どうやらこっちの世界では俺の年齢で飲酒することに何の問題もないらしい。

 つまりこの状況は、合法的に飲酒する絶好の機会じゃないか。

 というわけで、俺は勧められるままに酒を飲んでみた。

 白く白濁した酒は、ほんのちょっぴり粘り気があり、口当たり甘く、後味にほんの少し苦味がある。

 個人的な感想を正直に言えば、あまり美味しくない。一体何故こんなものに大人がハマるのかよくわからない。


 そう思いながらも、勧められるままに飲んでいると酔ってきた。身体が宙にふわふわ浮くような感覚。地に足付かないような感覚。空気より比重の軽いガスの中を漂うな感覚。

 この感じも好きになれない。

 世の大人たちは何が良くてこんなのを好きになるんだ? こんなことで何を忘れられるんだ? 何を誤魔化せるんだ? ちっとも楽しくない。何だか嫌な気分になってきた。

 酔っぱらってからは、酒を勧められても固辞した。

 もうこんな飲み物は口にしたくないどころか、しばらく、いや、半永久的に、目にもしたくない。


 人々は俺が固辞すると、ありがたいことに無理に勧めてこなかった。お礼だけを懇切丁寧に述べると、すぐに仲間の席に戻っていった。

 俺の元いた世界では、酒を無理に飲ませる因習があった。上司によるパワハラ、仲間内での半強制的空気感。こんなマズイもの、他人に無理矢理飲ませて何が楽しいんだか。

 こっちにはそんな馬鹿な悪習がなくてよかった。

 お礼参りも終わり、皆、各々好きに飲み始めた。

 酔っ払い共が騒ぎ始めた。


 ちなみに、まだ真っ昼間だ。


 老若男女、顔を赤くし、馬鹿でかい声で盛り上がっている。

 そんな中、俺は気分があまり良くなかった。トイレにも行きたかった。

 立ち上がろうとして、フラついた。

 誰かが俺を支えてくれた。


 ジュリエッタお嬢様だった。

 ベールの越しの顔が心配そうに俺を見つめる。

 それもまた可愛い。

 お嬢様は喪服がよく似合っている。

 喪服ってのはシンプルにできているせいか、ボディラインが浮き出て見える。首、肩、胸、腰、足までの流れが、しなやかで美しい。全身真っ黒ってのも、どうしてなかなかセクシーじゃないか。

 やっぱり下着も黒だったりするのかな。

 酔いのせいか、ついつい不純なことを考えてしまう。


 「大丈夫?」


 ジュリエッタお嬢様が言った。

 ベールに隠された瞳が綺麗で、吸い込まれそうだった。

 どうやら俺は、かなり酔っ払っているらしい。


 「手洗いってどこかな?」


 「こっちよ。付き添ってあげる」


 俺は頷いた。礼を言うのも億劫だった。

 情けないことに女の子であるジュリエッタお嬢様に支えられ、トイレを目指した。

 俺たちのすぐ後ろをエランが付いてきている。

 きっと見知らぬ酔っぱらい共に囲まれるのが嫌なのだろう。その気持はよく分かる。俺だって酔っ払いの相手はしたくない。ま、今は俺も酔っ払いなわけだけど。


 「広いな、こっちの葬式場はこんなに広いのか?」


 俺は辺りを見回しながら言った。

 まるで庭園だった。手入れされた木樹、植え込み、池、芝生。大きな家があり、小屋がいくつもあった。家には煙突が付いていた。ひょっとしたらそこで本来は火葬するのかもしれないな。


 「ここは私の家よ。ハインライン邸といえば、地元では結構知られているのよ」


 「葬儀屋をやっているのか」


 「馬鹿ね。あなたを追悼するのに都合のいい場所がなかったから、私が敷地を提供したのよ」


 「奴隷には厳しいのに、意外と優しいところもあるんだな」


 どうしてか、俺は皮肉っぽく言ってしまった。きっとこれも酔いのせいだ。


 「私が特別厳しいわけじゃないわ。あれぐらい普通よ」


 「俺はそういうの嫌いだな。そもそも奴隷って制度が嫌だ。人が人を支配してコキ使うなんてどうかしてる」


 「奴隷が亜人でも?」


 「亜人ってなんだ?」


 「亜人も知らないの? 不思議な人ね。亜人というのはね、けものの耳が生えてたりする人間によく似た存在よ」


 「ダメだなぁ、耳ぐらいで差別して。俺たちだって、けもの耳のない亜人じゃないか」


 「おかしなこと言い出すわね」


 「俺は間違ってない! 大体なんだ! 耳があるかないか、奴隷だとか貴族だとかくだらないんだよ! 亜人がなんだ! 人間がなんだ! ただの動物だ! 『涙目のルカ』が良いこと言ってた。知ってるか? ルカを。知らないだろう? 知らなくても構わない。ルカが良いこと言ってたんだ。『三つのU』とかいってな。友情関係を築くのに必要なことなんだけどな、『三つ目のU』、『敬う』これが大事。コレ、俺は全生物に当てはまると思ってるよ」


 俺は酒乱の気があるらしい。自分でもわかる。わかってても止まらないのが酒乱だ。

 これが酒の恐ろしさか。


 「コーイチは私のこと……嫌い?」


 「奴隷を虐めるなら嫌い」


 「じゃあ、これからは大切に扱うわ!」


 「そうだな、そうした方がいいよ。君のためにも」


 「じゃあ、嫌いにならないでいてくれる?」


 「どうしたんだ、今日は随分雰囲気が違うなぁ」


 「あなたに嫌われたくないだけよ」


 ジュリエッタお嬢様の顔が真っ赤になっていた。彼女も酔っ払っているのだろうか。そんなに酒を飲んでいたようには見えなかったが。

 真っ赤なジュリエッタも可愛い。

 思わず、ジュリエッタを抱きしめたくなる。

 が、いくら酔っててもそれはしない。最低限の理性は残ってる。

 そうしているうちにトイレにたどり着いた。

 さすがにトイレの中まで付き添ってもらうわけにはいかない。


 「一人でできる?」


 ジュリエッタが、まるで母親のようなことを聞いてくる。母親でも、高校生にそんなことは言わない。隣のエランも心配そうに俺を見つめる。


 「大丈夫大丈夫」


 俺はトイレのドアを開け、中にはいった。ドアを閉める前に、振り返ってジュリエッタを見た。


 「今日の君はやけに可愛いな。じゃ、すぐ済ますから二人共大人しく待ってて」


 俺はドアを閉めた。

 酔っていると、こんな恥ずかしいことを面と向かってサラリと言えてしまうのが恐ろしい。

読んでくれてありがとう!

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