燃える男、コーイチ危機一髪! ケツに火が点きゃロケット噴射だ!! 君はイビツなロケット!!!
チートハーレムの主人公がこんな扱いでいいんだろうか。
目が覚めても、まだまだ寝足りなかった。目が開かない。体全体がまだ睡眠を欲している。頭の中に乳白色のもやがかかっている。死ぬほど眠い。
俺は二度寝を決意した。
身体が無意識に熟睡できる姿勢を探す。仰向けの姿勢から、ゴロンと左に寝返りを打った。
ゴツン、と何かにぶつかった。硬い。壁かなにかが立ち塞がっている。
仕方がないので、今度は反対側に寝返りを打つ。
またまた、ゴツン。
やはり、壁。
二度身体をぶつけて、そこでようやく、俺はここが我が家のベッドの上じゃないことに気が付いた。
俺のベッドは広く、左右にぶつかる壁なんて無い。もし、中心から左右に行き過ぎれば、ベッドから落ちるだけだ。
さすがに、自宅ベッドではない未知の場所で安穏と眠っていられるほど、俺は大胆じゃない。
目を開けた。そこには何もない。
いや、正確には一つだけあった。闇だ。真っ暗闇だ。
起き上がろうとして、今度は頭をぶつけた。頭上にも壁がある。
手当たり次第に手を伸ばすと、上と前後左右、壁に囲まれていた。
俺が寝ている床面には、柔らかい『何か』が敷き詰められている。
『何か』を手にとってみる。手触りからすると、どうやらそれは植物らしい。
花だ。花が敷き詰められている。一種類だけじゃない。あらゆる匂いの何種類かの花が、床一面に敷き詰められ、ふかふかなベッドを形成している。
なんだこの空間?
ちょっと意味がわからない。
もう一度、壁を触ってみる。叩いてみる。壁というよりは、これは板か? もしくは物凄く薄い壁か。
叩いてみる。ベニヤ板のような感触だ。ベニヤ板なら、頑張れば叩き破れるかも。
かと言って、素手でそれをやるには勇気がいる。俺はお世辞にも良い体格をしているとは言い難いし、力だって十人並みだ。いや、ステータスを見るに、こっちの世界の平均程度もない。
何か壁を破るにちょうど良いのはないかと、辺りを手でまさぐる。
ズボンの後ろポケットに錆びた短剣が入っていた。見つかったのはこれ一つ。後は花ばかりで何もない。
これでやるべきか。悩むなぁ。何せこいつは錆びてボロボロ。壁に叩きつけたらポッキリいってしまいそうだ。
これにはお世話になっているから、ぞんざいに扱いたくはない。
その件はひとまず保留にして、まずこの状況が何なのか考えてみることにした。
確か俺は、でっかい怪物と出会って、で、怪物に脅されて、気に入られて……、そうだ、黒い炎で燃やされたんだ。力を貸すとか言って。その後凄く眠くなって……、ダメだ。記憶があるのはここまでだ。
結局、何故こうなっているのかちっともわからない。
記憶がダメなら、現状から推理するしかない。
真っ暗で狭い空間。床には花がふかふかに敷き詰められている。俺は相変わらず上半身裸。
再び、壁をペタペタ触る。ひょっとして、これは箱か? 俺は箱の中にいるのか?
手足を壁に沿わせて、箱の大まかな寸法を割り出す。
どうやら、箱は長方形。俺一人がぴったりと納まるくらいの大きさだ。
ひょっとして、これはドッキリか?
昔そんなドッキリをテレビで見たことがある。
寝ている間に箱詰めされてビックリ、起きて、箱から飛び出したら、思いもよらない場所にいて、さらにビックリ、ってヤツだ。
だが、疑問がある。こんなドッキリを俺に仕掛ける理由があるのだろうか。
俺はリアクション芸人でもなければ有名人でもないし、そもそもこっちの世界にはテレビがない。
ただの悪戯の範囲で、こんな大掛かりなことをするだろうか。
そもそも誰がするんだろうか。こっちの世界での、俺の身近な人と言えばエランしかいない。
小さい女の子が、こんなテレビのバラエティ班がやりそうな、もしくは、ユーチューバーがやりそうなことをするだろうか。そもそもそんなことをやるような性格じゃない。
さすがに、ドッキリの線はないな。
サスペンス路線で考えると、最後に会ったヤツが一番怪しい。
となると、最重要参考人はあの怪物だ。確かヴェイロンとか言ったはずだ。
ヴェイロンが何らかの目的で、俺を箱詰めにした。
俺を脅したり、気に入ったり、褒めたり、力を貸し与えたり、よくわからないことをするヤツだから、こんなことをしても不思議はない。
ヴェイロンに会って、直後にコレだから、十中八九ヤツが犯人で間違いない、と見ていいだろう。
犯人の目星をつけたところで、今この状況を打破できなければ意味がない。
とりあえず、壁を押してみたりした。ビクともしない。叩いてみた。ちょっと手が痛いだけで、どうにもならない。
壊すなら、やはり短剣か。
とその時、突然、外が騒がしくなった。
外には沢山の人がいるらしい。足音、話し声、様々な雑音で溢れかえっている。
今が好機とばかりに、俺は壁を叩いた。
しかし反応は返ってこない。俺のノックは騒音に消されてしまっているらしい。
今度は呼びかけてみる。
「おーい、出してくださいよ。ねぇ!」
やっぱり、返事はない。
どうやら、俺と外の人たちとの間にはそこそこ距離があるらしい。外から聞こえてくる音は、距離があるせいか、どれもはっきりと聞こえない。
どうしたもんかな……。
考えてみる。即、結論が出た。
そう焦ることでもないか。かなりの人がいるみたいだから、すぐに気付いてもらえるだろう。
そのうちなんとかなるさ。そう、タカをくくって、俺は目を閉じた。もう一眠りしてやろう。そんな軽い気持ちだった。変な体勢で眠っていたせいか疲れていたし、やっぱりまだ眠い。
目を閉じ、寝入ろうとした時だった。
急に暑くなってきた。空気の弾ける音がする。床の方から熱が伝わる。
俺はハッとなった。床に敷き詰められた花。長方形の箱。ひょっとしてこれは……。
煙が箱の中に入ってきた。
それで確信した。
これは棺桶だ! 俺がいる場所は棺桶の中だ! そして今、火葬が始まろうとしている!
ボッと明るくなった。箱に火が点いた!
生きながらにして火葬なんて洒落にならんぞ!
パニック! パニック! パニック!
オイラが慌ててるッ!
このまま死んだらおバカな一日始まらないぞッ!?
「うおおおおおあああああああああああああばばばばば!!!!!」
俺は渾身の力で天井を殴りつけた。棺桶の蓋が吹き飛んだ。
これがホントの、火事場の馬鹿力ってやつだ。
俺は棺桶から飛び出そうとした。しかし、一瞬遅く、ケツに火が点いた。
「うおおあああああつちちちちちっっっ!!!」
俺は、HⅡ-Aロケットばりに火を吹き上げて飛び上がった。最高到達点は体感五メートル。ロケットじゃ低すぎるが、オリンピックなら金メダル。
沢山の人が少し遠巻きに、幾重にも列を作って俺を取り囲んでいた。皆、目を剥いて、ビックリ仰天って表情をしている。
その中の最前列正面に、エランがいた。
俺は飛び上がった勢いのままに、櫓に組まれた火葬場から脱出し、エランの前に降り立った。
エランの顔が驚きから、満面の笑みに変わる。その目には涙が浮かんでいる。
そんな笑顔を見せられると、俺はケツの熱さを忘れてしまう。
「ただいま、エラン」
エランが駆け寄り、ピョンと飛びついてきた。
俺はエランを優しく受け止めた。
読んで頂き恐悦至極に存じます。




