『燃え盛る怒りの剣』が、敵を屠り、活路を斬り拓く!
目を開ければ、そこは地獄絵図でした。
さて、いつまで倒れていればいいんだろう?
起きるタイミングがわからない。
正式に決着がついてるならいいんだが、下手に起き上がって、決闘再開になっても困るから、しばらく寝ておくしかないな。
だが、待てど暮らせど、劇場内の熱狂は冷めやらない。
歓声はますます高まる。うるさすぎるし、騒々しいったらありゃしない。
ゴング直後の『K・O』がそんなに面白かったのだろうか。
俺としては、あんまりあっさりすぎるのも、つまらないような気がするんだけど。
それはそうとして、暑い。
太陽光が容赦なく俺を灼き、地面から立ち上る熱気が俺を蒸す。
身体中から滝のように汗が流れ出るのがわかる。
おいおい、これヤバいぞ。このままだと熱中症になりそうだ。
だが、観客はまだ狂喜乱舞しているのか、歓声を上げ続ける。
そんなに騒いでよく疲れないな。つーか、もう充分騒いだだろ。もういいだろ。もうさっさと帰ってくれよ。
俺の願いも虚しく、いつまで経っても、観客の去る気配はない。
それどころか、テンションが上りすぎたのか、まるで獣の雄叫びのような、ちょっと異常な歓声も聞こえてくる。
もう限界だ。このままじゃ死ぬ。死んだふりしてる場合じゃない。
倒されてから、テンカウントはゆうに過ぎている。もう充分だろう。
かなりのダメージを受けたふりをしつつ、ゆっくりと上体を起こした。
胸に乗っていた短剣が股ぐらに落ちた。
それは一旦置いといて、周囲を見やった。
「お……?」
俺はてっきり、観客の注目が、ぶっ倒された俺、もしくは、勝者のジュリエッタお嬢様に集まっていると思っていた。
が、実際は違った。観客は皆、思い思いの違った方を見ている。こっちに注目する人は皆無に等しい。
観客の視線の先には犬がいた。沢山の犬。
いや、あれは犬じゃない。犬のような何かだ。犬型の化物だ。
化物は成人男性を一回り小さくしたような大きさ。つまり犬としては馬鹿でかい。
目が真っ赤に輝き、突き出した上下四本の犬歯がよだれでテカテカ輝いている。
「なんじゃこりゃ……」
俺が歓声だと思っていたのは、歓声じゃなかった。悲鳴だった。阿鼻叫喚。
化物の群れが、人を襲っている。
多くの人が逃げ惑っていた。
少数の人が化物と戦っていた。
地面に転がり、動かなくなった人も少なからずいた。
無傷の人はほとんどいなかった。目に入る人、ほぼ全てが傷つき、血を流していた。
寝て起きたら地獄絵図。ちょっと意味がわからない。
いや、ちょっとどころじゃない。全くもって意味不明だ。
何だコレ?
何が起きてるんだ?
何なんだあの化物は?
そんなことをボケっと考えている場合じゃない。何はともあれ、ここから逃げないと。
でもどうやって?
それができないから、化物に為す術もなく、襲われているんじゃないのか?
劇場は半円のすり鉢状。俺はすり鉢の底。化物はすり鉢の縁から下りてくる。
つまり劇場内の俺達は、袋のネズミというわけだ。
ここから脱出するには、化物の真っ只中を突っ切らなければならない。
絶望的状況だ。おしっこチビっちゃいそうなほど絶望的だ。
ただの運が良いだけの男には、ちょっと重すぎる案件だ。
だが、重すぎるからといって、簡単に諦めるわけにもいかない。なんたって命がかかっている。
やるだけのことはやってやる。それに、案外なんとかなりそうな気もしている。
こっちに来てから、幸運にステータスを全振りしてから、なんだかんだ言っても土壇場で切り抜けられた。
そう、俺は間違いなく、土壇場では運が良い。それを信じるしかない。
それに、俺にはコレがある。
俺は錆びた短剣を手に取り、強く握りしめた。
思った通り、持ち手の赤い玉がほのかに輝き、全体が熱を持っている。
あの時と同じだ。剣が意志を持ち、力を解放しようとしている。
剣が俺の心に語りかけてくる。
俺を手に取れ。俺の力を解放しろ。そして殺せ。敵を殺せ。燃やせ。全ての敵を灰にしろ。
剣から流れ込んでくる強烈な怒り、憎しみを、俺はあえて受け入れる。そうするしかない。そうしなければ、剣は俺に力をかしてくれない。
強烈な意志が剣から流れ込む。それが不思議と心地良い。剣の意志に身を任せる。
そうすると、剣が力の使い方を教えてくれる。剣が俺をアシストしてくれる。
剣の意志が全身に満ちる。俺と剣が一体となる感覚。
突然、胸が熱くなった。あの化物に対する怒りと憎しみが、胸の中で燃え盛る。
剣に火が点いた。剣の火は勢い良く燃え盛り、炎の刀身を形成した。
『燃え盛る怒りの剣』。敵を屠り、活路を斬り拓く炎の剣。
直後、視界の端に黒い影を見た。化物だ。俺に飛びかかってきやがった。そう思うと、身体は既に反応していた。
ほとんど無意識、反射的に、俺は剣を振り上げていた。
少しの抵抗もなく、炎の刃が化物を切り裂く。顔面から左右に両断される化物。
泣き別れた左右の身体が地面に落ちると、切り口が突如発火し、一瞬にして燃え尽きた。あとには骨も残らない。
これならやれる……!
揺らめく刀身を見つめ、確信した。
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