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仕事どころじゃないので家に帰ろう。疲れすぎた。家に帰れば、けもの耳少女が迎えてくれる。けもの耳が癒やしてくれる。

コトのあらましを、けもの耳少女エランに話す。

 そう思うと、途端にこれを持っているのが怖くなってきた。

 『指輪物語』に出てきた『ゴクリ』みたいにはなりたくない。

 だが、これのおかげで助かったのも事実だ。

 これを懐に持ち歩いていなければ、俺はジュリエッタお嬢様の魔法で丸焼きだ。やっぱり捨てるのは惜しい。

 捨てられないと思うことが既に、『ゴクリ』のように、これに魅入られてしまっている、ということになるだろうか。

 いつかこれを、『愛しい()と』なんて呼んだりするんだろうか。

 自分が『ゴクリ』のような姿になったところを想像し、笑った。

 でも、すぐに笑えなくなった。あんなのになるのは勘弁願いたい。


 そうだ、俺には『オーラスキャン』というとても便利な力があるんだった。

 しばらく使っていなかったから、つい忘れてしまっていた。

 この短剣には一回使ったことあるけど、今なら少し違った結果になるかも。

 そういうゲームがあったような気がする。

 ひょっとすれば、これの詳細がわかるかも?

 試してみる価値はある。


 「『オーラスキャン』」


 『錆ちらかした短剣』

 装備アイテム。錆びすぎていて攻撃力は期待できない。

 突っつかれるとちょっと痛いくらい。

 ある特定の条件を満たすと、隠された能力が解放される。


 期待したほどの結果は得られなかった。

 そこはわかってるんだよなぁ。

 俺が知りたいのは、隠された能力の詳細なんだよなぁ。


 充分に休息はできたので、とりあえず、エランの待つ宿に帰ることにした。

 短剣を捨てるかどうかは一旦保留して、現状維持。ズボンの腰に差しておく。

 路地裏を出て、最初に目についた出店の服屋で服を買った。

 昼食代しか持っていなかったから、激安のボロ中古だ。

 というか、基本的にこの街は――というよりは、この世界全体がそうなのかもしれないが、とにかく服が高い。

 新品なんて手が届かない。俺の給料の五日分くらいする。

 だから庶民は、基本的には古着を買う。

 上半身裸のおかしなヤツ相手にも、普通に接客してくれたありがたい店主に別れを告げ、ゆっくりと宿に戻った。


 宿の部屋に戻ると、エランがちょっぴり驚いた目をして俺を出迎えてくれた。


 「あら、おかえりなさいませ。今日は随分お早いですね。それに、今朝と上着が変わってますね」


 「いやぁ、ジュリエッタなんとかって貴族のお嬢様に俺の服燃やされちゃってさ」


 「えぇっ!?」


 エランは目と口を大きく開いて驚いた。けもの耳がピンと立った。けもの耳が感情のバロメーターだ。


 「酷いもんだよ。俺が蹴った石が頭に当たったからって、いきなり火の玉をドカーン! シャレにならないっての」


 「なんでまた、石なんか蹴ったんですか?」


 「いや、わざとじゃないんだよ。ちょうど俺の頭上を鳥が飛んでてさ。それがさ、俺に『落とし物』をしていきそうな予感があったんだよ。そういうの、長年の経験でわかるんだ。で、案の定だ。俺は『嬉しくないサプライズプレゼント』を華麗にかわした。その時に、小石に躓いちゃったんだ。躓いた勢いでそのまま小石を蹴り飛ばしちゃったってわけ」


 「……で、それがたまたま貴族様の頭に命中したというわけですね」


 エランはじっとりとした視線を俺に向ける。


 あっ、これは信じてないな。

 お嬢様の従士も信じてなかったし、ちょっと信じ難い話なのか……?

 うん、よくよく考えてみると、確かに嘘くさい話だわ。初っ端から終わりまでありえねーわ。

 いや、実際あったんだけどさ。こりゃわざと石を当てたと思われても仕方ないか。


 「やっぱり、嘘だと思うか……?」


 「あっ……。いえ、私は信じます! ええ、信じますとも! ちょっとにわかには信じがたい話ですが、私は信じます! 百人に訊けば百人が信じられないと言いそうな話ですが、私は信じます! 私はコーイチ様の味方です!」


 なんだか複雑な心境だがとりあえず、信じてもらえたらしいので、良しとしておこう。


 「それはどうも。百万の味方を得た気分だよ。ま、そんなことがあって、事故とは言え、石をぶつけちゃって、怒らせちゃって、火の玉ストレートが飛んできて、服が燃えたってわけ」


 「凄い! 流石はコーイチ様ですね!」


 目をキラキラ輝かせ、手を打って俺を褒めそやすエラン。ちょっと意味がわからない。


 「え、何が?」


 「コーイチ様にとっては普通のことなのかもしれませんが、私からしたらもの凄いことです! 私は火の玉を防御する魔法なんて使えませんから」


 あー、そういうことか。


 「違う違う違う、そうじゃない。俺もそんな魔法持ってないよ。これが俺を守ってくれたんだ」


 俺は錆びた短剣を手に取り、エランに見せた。


 「これはあの時の短剣ですね」


 「そう。これが凄かったんだ。お嬢様の火の玉を、これが防いでくれたんだ。何がどうなったのか、全然わからなかったんだけど、多分、この短剣に火の玉が当たったんだと思う。ひょっとするとこれは、魔法を中和、もしくは吸収する、いわゆるマジックアイテム的な何かじゃないかと思うんだけど、どうかな?」


 「ちょっと私にはわかりません。奴隷はそういうものに触れる機会もなくて……。お役に立てなくて申し訳ありません」


 エランがペコリと頭を下げた。


 「いやいや、全然良いんだ。俺の世界にはこういうのなかったからさ、こっちの世界の人だったら知ってるかな? って思って聞いてみただけだから」


 あんまり丁寧に謝られても困る。

 どうやらエランは、まだ奴隷気質が抜け切らないらしい。ちょっぴり馬鹿丁寧過ぎるところがある。

 ひょっとしたら、元々そういう気質なのかもしれないが、俺としてはもうちょっとフランクにやりたい。

 彼女はもう奴隷じゃないし、たとえ奴隷だったとしても、俺は対等にやっていきたい。友達なんだから。

 まぁ、対等を強制してもおかしな話だから、そこは自然の成り行きに任せるしかない。

 たぶんお互いにとって、自然体でいられることが、一番良いだろう。

読んでくださりありがとうございます!

ブクマや評価が増えてる! こんなにうれしいことはない!

これを励みにして、これからもがんばっていきます!

どうか応援よろしくお願いします!










感想とかもらえたら、もっと嬉しいなぁ!

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