そして二人旅が始まる。
締め切りまでにキリのいいところまで書けました。
※180211 わかりにくかった部分を修正。
確かに、もう眉間は痛くなかった。
そっと眉間に触れてみる。痛みのかけらもないし、腫れているような感じもない。本当に治ってしまった。
実のところ、ほんの少しだけ効果のほどを疑っていた。ちょっぴり反省。
「凄いな。全く痛くない。ありがとう」
「いえいえ。あ、ひょっとしてこれじゃないですか?」
エランは地面から何かを拾い上げ、俺に差し出した。
それはナイフに見えた。もしくは短剣か。どちらとも判別つかない。
それはあまりにも錆び、腐食し、朽ちていた。辛うじてナイフか短剣と思しき形状を保っていた。鞘はなく、抜身だ。
刀身には小さな布の切れ端が絡みついていて、これが比較的綺麗なのに対し、あとの部分は土まみれだった。土に埋まっていたエランより汚れている。
布の切れ端はエランの服の色と同じ色に見える。ということは……。
「エラン、お尻を見せてくれ」
「えぇっ!?」
「あっ、いや、そんな変な意味じゃなくてさ、多分これ、この切れ端、エランの服の一部じゃないかと思ってさ。さっき下半身が土に埋まっていた時、お尻に食い込むって言ってただろ? 多分これじゃないかなって」
「じゃあ私、お尻丸出しなんですか!?」
慌てて、お尻に手をやるエラン。
「触ってもわかりません……」
「こんな小さな切れ端だから、多分大丈夫だとは思うけど、ちょっと見せてごらん」
クルリ、とエランは後ろを向いた。俺の思った通り、服のお尻の辺りに少し傷があるくらいで、下着も見えていない。この程度なら何の問題もないだろう。
「下着も見えてないし、多分大丈夫だ」
クルリ、と俺に向き直り、ホッと胸を撫で下ろすエラン。
「これ何だろな? 短剣かな? あっ、そうだ! 『オーラスキャン!』」
こういう時のために、このスキルがあるんじゃないか!
【錆ちらかした短剣】
装備アイテム。錆びすぎていて攻撃力は期待できない。突っつかれるとちょっと痛いくらい。今のままではほとんど使いみちがないが……?
うーん、何やら文末が意味深だ。思わせぶりなアイテムは得てして良いものと相場が決まっている。
大抵のRPGはそんな感じだから、これはとっておいた方がよさそうだ。小さいから、持ち運びに困ることもないし。
「おーらすきゃん?」
エランがキョトンとした目で俺を見ていた。
「実は俺には、物の価値や性能がわかったりわからなかったりする力があるんだ」
ちょっとドヤ顔で言ってみた。
「すごく曖昧ですね。それで、これがどういった物なのかわかりました?」
「錆びた短剣らしい。でも何か秘密がありそうだから、このまま持っておくよ」
「ちょっと貸してくれませんか?」
俺は短剣をエランに渡した。
エランは短剣についた土を手でさっと払った。握りにこびりついた土を払い落とすと、三つの玉があらわれた。
握りに三色の玉が埋め込まれていた。赤、青、白の半透明色。
「銘か持ち主の名前があればと思ったのですが、これはなんでしょうか?」
「俺にもさっぱりだ」
こっちの住人にわからないのに、俺にわかるはずない。
「キレイな色の玉ですから、きっとこの短剣は良いものだと思いますよ!」
「だといいんだけど」
エランは短剣を差し出し、俺はそれを受け取った。
「さて、無事に君を救出できたことだし、そろそろ行こうか。確か男たちはあっちから来たから、こっちだな」
「はい! どこへでもお供します!」
二人でなら暗い夜も歩き出せる。
俺とエランは男たちのやって来た方向とは逆に向かって歩き出した。男たちのやって来た方角に進むのは危険んだと思ったからだ。
エランが奴隷として過ごしていた街には、さっきの奴らの仲間がいるかもしれない。エランを取り戻しにくるかもしれないからだ。
地震で広くなった谷を俺たちは歩いた。
星空は明るく、谷は見晴らしが良いため、怖さは全くなかった。
「ところでさ、その耳のことは誰にも言っちゃダメなんだよな? それ以外に何か他に隠しておきたいこととか無い?」
「耳のことだけ黙っていてくれれば大丈夫です」
「じゃあ今のまま丸出しってのはマズイよな。何か隠すものが――」
「ああ、それなら問題ありません。『イリュージョン!』」
エランは言って、手を頭の耳に当てた。すると、耳がスッと消えてなくなった。
「うおっ、凄っ! それって魔法!?」
「はい。私達『頭に耳のある人間』は生まれつき魔力が強く、また生まれてすぐ、耳を隠すためにこの魔法を練習するんです。まぁ、魔力の消費量が大きすぎるので、他の魔法は使えませんが」
「それでも充分凄いよ。俺なんて一つも使えないからなぁ」
「フフフ。練習すれば、きっと色々な魔法が使えるようになりますよ!」
エランの意味ありげな笑いは、きっと俺が魔法を使えない体で話しているのを面白がっているからだろう。
もちろん、俺は魔法を使えない体じゃなく、マジで魔法が使えないんだが。まぁ、そのうち気付くだろう。
「じゃ、その時は一緒に練習しようか」
「あ、でも私は、常に『イリュージョン』使ってないといけませんから魔力が……」
「そっか……。なら俺が魔法を使って、君を守らなきゃな」
「えっ……」
「だってそうだろ? 君が魔法で危険から身を守れないなら、俺が君を守るべきじゃないか」
「あ、ありがとうございます……!」
エランは頬をほんのり赤く染めた。とっても嬉しそうだ。
それだけ、俺が頼りってことだろう。ちゃんと守ってやらないといけないな。
「困ったらお互い様さ。俺もきっと君に助けてもらうこと多いだろうし」
目の前で魔法を見て、俺は興奮していた。ファンタジー世界に来たんだなって、実感できた。
魔法、謎の短剣、けもの耳の可愛い女の子、いつの間にか面白そうな要素が揃ってきてるじゃないか!
何だか楽しくなってきたぞ!
異世界っていいトコロじゃないか!
エランがそっと俺の手を取った。俺はその手を握り返した。俺達は手を繋いで夜を歩いた。
しばらく歩くと丘にさしかかり、丘を登った。登ってみると小さな丘だった。すぐに頂上だった。
頂上から見る景色は、いくら星明りがあるといえども暗かった。
だが、暗い先に薄っすらと街が見える気がする。多分きっとあれは街だ。
俺達は街を目指して丘を下った。不思議と胸に不安はなく、期待感に満ちていた。
きっとそれは、隣にいる女の子のおかげに違いない。エランの手の感触が、俺に勇気を与えてくれていた。
いざ、冒険だ!
俺はエランの顔をそっと見た。
エランはすぐに気が付いて、俺に笑顔を返してくれた。俺も笑顔で応えた。
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