けもの耳少女エランの奴隷志願! いきなりそんなこと言われてもどうしたらいいのやら……。
「エラン、で大丈夫?」
一応発音を気にして訊いてみる。
さきほど聞いた感じでは、『エラン』という西洋チックな名前だけど、発音は『和製』っぽく聞こえた。
「大丈夫とは?」
「エランって発音で間違いないかなって」
「全然問題ないです。発音を気にされるということは、タカ、タカン、タカンガ、タカンガガ……、コーイチ様という珍しい名前でもありますから、ひょっとして異国の方なのですか?」
コーイチは簡単に発音できるのに、タカガがどうしても発音できないようだ。
「異国っていうか、別の世界かな」
「ベツノセカイ……?」
キョトンとして俺を見るエラン。
言っていいる意味が何一つ飲み込めない、という風に目をパチクリさせている。
そりゃそうだ。突然別の世界なんて言っても、すんなり腑に落ちるはずがない。
逆の立場なら、俺だってそんな反応になるだろう。
「そうだなぁ、なんて言えばいいか……、こことは全く別の世界があって、俺はそこから来たんだ。そこには魔法なんてなくて、君みたいに頭の上から耳を生やした女の子はいない」
エランは目を白黒させて驚いた。
頭に手をやり、耳を触った。握ったり撫でたり、耳の感触を確かめると、やや不安そうな顔になり、伏し目がちに俺を見た。
「あの、いつから見えてました……?」
「最初から」
「あうぅ……」
何か不都合でもあるらしい。エランは困った顔をして俯いた。
耳を見ちゃいけなかったのだろうか?
耳の存在が俺に知られちゃいけなかったということだろうか?
頭の耳は彼女たちにとって、『大事な部分』で気安く見せてはいけなかったのだろうか?
耳を見る、ということがセクハラ的な意味を持っているのだろうか?
それとも、『耳なし芳一』みたいに、俺がエランの耳を取ってしまうとでも思っているのだろうか?
色んな想像はできても、どれもしっくりこない。
勝手に想像するより、訊いた方が早い。
「耳がどうしたんだ? 耳を見ちゃいけない理由があるのか?」
俺はあえてエランの方は見ずに、発掘作業をしながら質問した。
そうすることで、話したいなら話しやすいように、話したくないのなら話さなくて済むようにアピールしたつもりだ。
少し間があって、エランは言った。
「コーイチ様、これから話すことは誰にも言わないでもらえますか?」
「誰にも言わないよ。俺はこっちの世界に来たばかりで、話し相手の一人もいないしね。もちろん、いたところで、誰にも話さないけど。でも、言いにくいことなら無理に言わなくてもいいよ」
「ご主人様となるお方には、私のことを知っててもらう方がいいと思いますから」
「ん……? ご主人様って?」
俺は思わず手を止めて、エランの顔を見た。
悲しそうに、目を潤ませるエラン。そんな目で見られても困る。
「あの、ダメですか……?」
「ダメとか以前に、ちょっと何を言っているのかわからなくて……。えーっと、俺が君のご主人様になるってこと?」
「はい、その通りです!」
やけに力強い声。
「俺がご主人様……てことは君は……?」
「私はコーイチ様の奴隷です」
エランはニッコリ笑っていった。
俺は全然笑えなかった。
なぜ年端もいかない女の子を、俺が奴隷にしなければいけないのか。
で、なんでこの子は俺の奴隷になりたがっているのか、全く意味がわからない。
「ちょ、ちょっと待って! 一体どういうことなんだ? なんで俺が君を奴隷にしなければいけないんだ? 君、奴隷として売られたくなかったから、偶然助けた俺にお礼を言ったんだろ? なのに、今は俺の奴隷になりたいなんて、言ってることがおかしくないか?」
エランは真剣な顔つきになって俺を見た。その目には深い悲しみの色があった。
歳不相応なその目に、俺は思わずたじろぎ、息を呑んだ。
「コーイチ様。私、四年前に家族と離れ離れになってしまったんです」
ポツリ、とエランが言った。