男には泣いていい時が三つだけある。親に死なれた時。恋人に死なれた時。そして、タマが潰れた時。
ウホッ
俺はハッとなった。走馬灯見てる場合じゃない!
太腿を掌で叩き、力の入らない足に活を入れる。
そして、なんとか立ち上がる。ガクガク震わせながら立ち上がる。
情けない俺の姿を見て、眼前の男は剣を鞘に納めた。
ビビって子犬のように震えるガキ一人に剣は要らないというわけだ。大正解。
素手でも、たとえ一対一でも、俺じゃ歯が立たないだろう。身体つきからして違いすぎる。
男たちはデブもいるが、全体的に筋肉質だ。対する俺はヒョロガリ牛蒡。お話にならない。
勝負は見えている。
が、抵抗せずにはいられない。
『そっち系』のおっさんに売られるぐらいなら、戦って死んだほうがマシだ!
おっさんの慰みものになるくらいなら、断固戦うべし!
頭の中でカッと火が燃え上がった。やぶれかぶれの闘志が沸き上がった。
極限状態が、俺の中の眠れる勇気を呼び起こした。
やってやらァ!!!
「うおおおあああぁぁ!!!」
俺はあらん限りの雄叫びを上げ、眼前の男目掛けて突っ込んだ。
男の胴体に向かって全体重を乗せたタックルをカマしてやろうとした。
が、男はヒョイと軽やかにサイドステップ。
車が急に止まれないのと同様、捨て身のタックルも簡単には止まれない。
そこへ、男の足がチョイと出てきた。全速で突っ込んでいるから、見えていても避けられない。
男の足が俺の脛を打った。
男の足に蹴躓いた俺は、体勢を崩して勢い良く転んだ。
「アぅチッ……!」
地面に手をついたおかげでダメージは最小限だが、かなり手が痛んだ。
こんな派手に転ぶなんて何年ぶりだろうか。掌がジンジンしている。
すぐさま起き上がりつつ、足をかけた男に正対した。
チラッと手を見るとすりむけていた。
「ぎゃははっ! こいつぁ素人もいいとこだぜ!」
男たちの内の誰かが言った。
ドッ、と爆笑が生まれた。
笑いたきゃ笑え。今の俺にはそんなの屁でもない。そんなこと気にしてる余裕は無い。
「おいおい、あんまり傷つけるなよ。せっかくの良品なんだからよお」
また別の男が言った。
「いやぁ、そいつぁ無理な話だな。だってこいつぁ……」
眼前の男の目の色が変わった。ゾッとするような嫌な目。
「だってこいつぁ、結構な上物だからなぁ。売り飛ばす前に味見しておきてぇ」
男のセリフに、俺は今まで感じたことのない種類の恐怖を覚えた。
背筋のゾワゾワする気色悪さ。最悪の展開。思わずキンタマが縮み上がる。
眼前の男は息を荒くし、好色な目つきで、まるで品定めするように視線で俺の全身を舐め回す。
カチャカチャとベルトを外し、ズボンを下ろした。白いボクサーパンツ状の下着があらわになった。
そんなとこジロジロ見たくはないので、俺は男の胴体部分に意識を集中させたが、どうしても視界の端のパンツが目に入る。
しかも、どうやら既に『おっ立って』いるらしい。ウゲーッ。
「お前ら、手ぇ出すなよ。一対一で楽しむんだからよ」
「オメーもつくづく、好きモンだよなぁ」
あっはははと笑う男たち。
何が楽しいんだか。吐き気がしてくる。
こんな糞野郎にいいようにされてたまるか。
と、意気込んではみるが、正直なところ勝てる気は全くしていないし、色欲丸出しにあんなところをおっ立ててる奴に、こちらから向かっていく気にはなれない。
「さっきの威勢はどうした? ビビりすぎて観念しちまったのか? そんなんじゃ困るぜオイ。俺は抵抗するヤツを力づくで無理矢理するのが好きなんだからよぉ! だからよぉ、せいぜい暴れてくれよなぁ! 俺を楽しませてくれよぉ~~~おおぉ!!!」
最低最悪の口上。言葉尻は言葉にならない歓喜の叫び。
叫びとともに、男は大口を開け、よだれを垂らし、こっちに突っ込んでくる。
あまりの気味の悪さに俺は思わず後ずさった。本能的拒否反応。心も身体も奴を拒絶していた。
男の突進はまるで獣のような荒々しさと力強さ、そして俊敏さを兼ね備えていた。あっと言う間に距離が縮まった。
男が跳躍した。同時に、空中で男の服が脱げ、パンツ一丁になった。
「出たーッ! 『怪盗紳士の夜訪』!!!」
何やら外野が騒がしい。
が、そんなことにかまっている暇はない
こっちは飛びかかってくる変態糞野郎をどうにかしなければならない。
しかし有効的な手立ては思い浮かばないし、たとえ浮かんだとしても技量の問題もある。
ただ、俺は本能に任せて、後ずさるしかなかった。
左足を一歩退く。
すると、ズッポリ。まるで踏み外したように、地面に左足がめり込んでしまった。
なんじゃこりゃ、こんなところに穴があるなんて聞いてない!
さっきの土砂崩れのせいか!?
俺は勢いよく大きく仰け反った。まるでオーバーヘッドキックでもするように。
左膝は九十度の角度にカクッと曲がり、右足は天高く、そして鋭く突き上げられた。
グッチョン!
右足つま先に、何か柔らかいものを潰す感触があった。
軟式テニスボール、新鮮で瑞々しいトマト、水風船、これらを合わせたような何かを潰したような感触だった。
俺は慌てて、穴から左足を抜き、体勢を整えた。
すると、目の前にパンツ一丁の男が倒れこんでいた。
股間を押さえ、目は白目を向き、口から泡を吹いている。
素人目に見てもヤバイ状態。
俺は察した。俺の右足が潰したのは、アレだったのか。さぞ痛かったろう。いや、今も痛いのか。
男として、心から同情する。
だが、申し訳ないという気持ちはない。
こっちは悪気があってやったわけじゃないし、そもそも悪いのはあっちだ。
人を無理矢理手篭めにしようとするから、バチがあたったんだ。
他の五人は、タマの潰れた男の元へ駆け寄った。
必死に声をかけたりするも、タマの潰れた男はもう意識が無いのか、悶絶した姿勢のまま、反応無し。
「や、野郎! やりやがったな!」
五人の男たちの視線が、一斉にこちらに向く。
新キャラ(女の子)が出てくるのは次でした。




