長い長い回想はようやくここで終わり。一対六の絶望的な状況をどうやって切り抜ける!?
ここはやり過ごそう。
前の世界でもそうだった。ヤンキー、不良、チーマー、いじめっ子、物騒なヤツらには極力関わらず、近づかない方がいい。
きっとこれは、どこの世界でも共通だろう。
そう思い、一行の観察を止め、藪の中へと身を隠そうとした。その時、
ピシッ!
突然音がした。どこからしたのかわからなかった。
何やら嫌な予感がした。俺は身をかがめ、辺りをうかがった。
ピシッ!
また音がした。音源がどこかわかった。地面からだ。
地面からの聞きなれない音に、俺は戦々恐々とした。息を殺し、地面を見つめる。
ピシッ!
まただ。怖い。怖すぎる! 勘弁してくれ!
正直漏れそうだ。
これは何だ? 異世界特有の現象なのか?
前の世界でこんなことは一度もなかった。
心霊?
化物?
超能力?
魔法?
何なんだ?
一体何が起こってるんだ?
ピシッ! ピシピシピシッ!
音とともに地面に亀裂が走った。
ピシピシッ! ピシシッ!
音とともに亀裂がどんどん増えてゆく。
大きな亀裂が走り、そこから木の幹から枝が生えるように、小さな亀裂が生まれてゆく。
おいおい、まさか、これは……!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!
激しい地鳴り。
わかったぞ。これは地……。
思考がまとまる前に、それは来た。地面が揺れた。
瞬間、激しく大きな音を聞いた。
直後、俺の身体は宙に投げ出されていた。
今までいた地面、そこがまるごと崩壊していた。
気付いたときには、俺はいくつもの土の塊とともに谷底へと転がり落ちていた。
今俺にできること。そんなものは無いに等しい。
あるとすればただ一つ、ただ身を丸め、天運に身を任せるのみ。
この天変地異が無事に通り過ぎてくれるのを待つよりほかない。
俺はグルグルドタドタ転がり落ちた。
その衝撃ときたらまるでドラム式洗濯機で洗われているかのようだ。
やがて洗濯は終わった。
かなり長い間洗われていた気がするが、多分それは気のせいで、実際のところ一分に満たない時間だっただろう。
俺は丸めていた身体を解し、ムクリと起き上がった。周囲の景色は一変していた。
谷の両サイドは大きく抉れ、多くの土砂が谷底に落ち込んでいた。
俺は幸いにも土砂に飲まれることなく、また柔らかい土砂のまとまったところへ落ちたらしく、身体に一つの傷もなければ痛みも全くなかった。
奇跡だ。
土砂崩れに巻き込まれて全くの無傷で済む人間がどれだけいるだろうか?
多分俺を除いて他にいるまい。
間違いなくボーナスポイントを幸運に全振りしたおかげだ。
それに加え、【神運】のスキルのおかげでもあるだろう。
良いな良いな、運が良いって良いな♪
奇跡的な生還のおかげで、テンションがやけに上がってくる。
最高にハイな気分で、思わず歌いだしたいくらいだ。
が、まずはここを離れるべきだろう。また土砂崩れが起きたら大変だ。
いくら運が良いとはいえ、そう何度も危ない目には遭いたくない。次も助かるとは限らないし。
さて、どっちに向かって歩くべきか。
両サイドは崖。
崖を登っていけるはずないから、必然的に行く先は二つに絞られる。左か右か。
決めあぐね、左右の道を何度も吟味していると、暗闇の中を何かが動いた。
俺は息を呑んだ。
ヤバイ予感がプンプンしていた。
暗闇の中に何かは複数いた。どうやらそれらは俺を取り囲んでいるような様子だった。
それらは徐々に距離を詰めてくる。
慎重にゆっくりと。
「なんだ。ガキじゃねぇか!」
突然の男の声に、俺はビクッと身を縮めた。いかにも粗暴そうでがさつそうな声だった。
ガキとわかって、影は遠慮なく俺に近づいてきた。近づいて、ようやく姿が判然としてきた。
そのツラには見覚えがあった。一行の男たちだ。
土砂崩れのおかげで、彼らの身なりはさっき崖上から見かけたときよりも酷く汚れていた。
あともう一点、先ほどと違った点がある。
さっきまで彼らの腰にあった得物は、荒々しく太い手に握られ、無骨ながらも鋭い刃を星明かりに輝かせていた。
一難去ってまた一難。
俺はどうにかして逃れられないかと周囲を見回した
。左と右の道、そのどちらにも男が三人ずつ立っていた。
前門の虎、後門の狼。
飢えた獣が狙うは、か弱いチキン。
おいおい、ガチ詰みじゃないか……。
絶望感に、思わず身体の力が抜けた。今度こそ本当に終わったわ。
これって運だけで切り抜けられるのか?
いやいや無理だろ。だって助かる未来が想像できないもん。相手六人だぜ。そんでもって皆武器持ってやんの。
こっちはいたいけな男子高校生たった一人。
俺の負けは火を見るより明らか。コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実に負ける。
いや、待てよ。
そもそもこのおっさんどもが意外といい人という可能性も……、うん、ないな。
あのツラでそれはないわ。悪人って顔に書いてあるもん。酷い人相してるもん。
大体いい人だったら、たった一人のガキ相手に剣を持ったまま近づいてくるなんてないよなぁ。
こっちはブルって今にもチビりそうだってのにさ。
もし、善人だとして、土砂崩れに巻き込まれたガキがいたら、大丈夫か? 怪我してないか? とか優しい言葉をかけるよね? フツーはさぁ。
男たちはどんどん近づいてくる。俺はますますビビるばかり。
男たちのツラには下卑た笑みが浮かぶ。俺の顔には脂汗が浮かぶ。
このままじゃやられる……。
どうせなら、イチかバチかやってみるか……。
戦ってみるしかないか……!
ダメで元々。
元の世界でも喧嘩はからっきしだったけど、ここまで追い詰められたらやるしかない。
いっちょ、男を見せてやるか……!
………………………
………
…
ようやく話が動き出しそう。