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水難去ってまた水難。

水責め蛇睨み。

 もう巨大な蛇の顔面がすぐそこにあった。俺は蛇に睨まれた蛙のように思考さえも硬直させてしまった。


 「安心しろ。少し味見をするだけ。痛くない」


 そういって、海神様は先の割れた長い舌を俺の身体に巻き付けた。


 舌先で味わっているつもりなのか知らないが、こっちとしては大蛇に巻き付かれているような心地だ。お世辞にも気分がいいとはいえないし、正直に言ってしまえば、巨大かつ粘着質の綱状のそれはとても気味が悪いし気色も悪かった。はっきりいえば最悪だった。


 「なるほど、これは嘘をついていない味だ」


 な、なんじゃそりゃ!? ジョ○ョにそんなヤツがいたな……。


 「ふむふむふむ。お前は異世界からやってきたのだな。女神ウアイラ、ふぅん知らんな。エランというけもの耳の少女と知り合いしばらく暮らし、ジュリエッタとかいう貴族の女と決闘、魔物の群れに襲われ、そこでヴェイロンに会ったか。グレイスとかいうさらに上の貴族の女のせいで双角獣バイコーンに腕を持ってかれ、ヴェイロンから腕を貰ったのか。まぁこんなところでいいか」


 おいおい、こいつブ○ャラ○ィ以上の舌遣いじゃないかッ!? 舐めただけでそこまでわかるとは流石に神か……!!!


 そんなことを思ってると、海神様は突然舌を放し、俺は宙に投げ出された。まるで空き缶でもポイ捨てするかのように、俺を軽く投げた。


 「うおあッ……!?」


 突然のピンチに変な声が出た。地面に真っ逆さまに落ちるかと思った瞬間、俺の落ちる先にだけ、ピンポイントに大量の水が突如として現れた。

 そこへダイブ。もとい墜落。ざっぷーんと水の中へ落ちた。冷たくも熱くもない程よい温さの水のおかげで助かった。だが全身もうびちょびちょだ。ま、舌で舐められたときの唾液まみれよりはマシだけど。

 不自然に留まっていた水は、海神様がその力を解除したのだろう、一瞬にして辺りに散らばり、俺は地にケツを打った。


 「あいてッ」


 もう少し優しく下ろしてくれてもいいだろう。今まで会った神はみんなおかしなところがあったが、こいつも同じ類か。


 「コーイチ、お前とそこの女、二人を島へ帰してあげよう」


 「えっ!!」


 予想外のありがたい申し出。前言撤回、この神様は多少いいところがありそうだ。


 「今ここで殺すより、戦場でお前たちを殺すほうが面白いからねぇ」


 蛇特有の二股の舌をチロチロだして笑う海神様。

 撤回の撤回。やっぱりこいつろくなやつじゃないわ。


 「ベンテイガに伝えろ。どんな小細工を弄しても、この遊びは私の勝ち。こんなので形勢逆転を狙おうなんて、セコいにも程があるわ」


 哄笑。何が面白いのか、そもそも話の内容もよくわからない。


 「ベンテイガ? 遊び?」


 「ベンテイガはね、あの島の長老。そいつに今私の言ったことをしっかり伝えろ。わかったか?」


 ギロッと蛇特有のあの目で睨まれる。そうすると俺はもうカエルのようになるしかない。


 「は、はい……」


 「じゃ、もうさっきの部屋に戻りなさい。近い内に島に戻してやる」


 海神様はもう俺たちに興味ないらしく、背を向け、とぐろを巻き、横になった。俺とゾエはそそくさとそこを後にした。


 「海神って怖いんだな……」


 まるで監獄のような殺風景な廊下を歩きつつ、チラリとゾエのほうをうかがった。


 「そうだね」


 力なく言うゾエは浮かない顔をしている。

 何か引っかかる。体調でも悪いのだろうか、そう思って、


 「どうかしたのか……? 気分でも悪いのか?」


 熱でも診てやろうと近づこうとしたら、サッと避けられてしまった。


 その時、ふと微かに臭った。


 (なんだろう? アンモニア的な……、あっ……!!)


 気付いてしまった。見てはいけないと思いつつ、つい反射的にゾエの下腹部へ目をやってしまった。そこはぐっしょりと濡れてしまっていた。

 我慢できなかったとか、そんなわけじゃないだろう。きっとそれだけ怖かったのだろう。そして、そんな怖い思いをさせたのは俺だ。俺に責任がある。


 「……うっ……、くぅ……」


 俺が気付いたことにゾエが気付いてしまった。顔を真赤にさせ、今にも泣きだしそうだ。

 こうなったらただ謝るしかない。全ては俺のせいだ。


 「ご、ごめん……。全部俺のせいだ……」


 「う、あ、アンタ……!!!」


 逆効果だった。火に油を注いでしまったらしい。耳から首までも真っ赤にして俺を睨んだ、と思った瞬間、

 あっという間に胸ぐらを掴まれた。豹のような俊敏さ。目にも止まらない不意打ちだ。


 「うぐっ」


 首がしまる。華奢な見かけからとは裏腹に半端ない力だ。


 「あ、アンタねぇ! こ、ここまで女の子に恥かかせて、それで、た、タダで済むと思ってないでしょうねぇ!!!」


 「も、もちろん俺にできることならなんでも――」


 「なんでも!? 今なんでもって言ったわよねぇ!?」


 「お『俺にできることなら』ってのを忘れないで……」


 「じゃあ……あ、アンタも出しなさいよ!」


 「だ、出すって何を……?」


 「アンタもアタシと同じように『出す』ってことよ!」


 「な、なんで俺がそんなことを――」


 「そんなことをさせたのはアンタでしょうが!」


 「させたなんて人聞きが悪い。何も俺が望んでやらせたわけじゃ――」


 「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと出しなさいよ!」


 ゾエは首を締めるだけじゃなく、今度はガクガクと揺さぶりはじめた。俺はされるがままだ。


 「俺がそんなことをしてゾエに何の得が――」


 「そんなことどうでもいいのよ! アタシが味わった恥ずかしさをアンタにも味わわせたいの!」


 「えぇ~……」


 「えぇ~……じゃないわよ! アンタ何でもするって言ったじゃない!」


 「わ、わかった、わかったよ。だから手を離してくれ。このままじゃやる前に死ぬ」


 あっさりとゾエは手を離してくれた。


 「あー、苦しかった」


 「じゃ、はい、漏らして」


 「えぇ~……」


 「えぇ~……じゃないわよ! ぶっ殺すわよ!」


 「わ、わかったから! やるから物騒なことは勘弁してくれ!」


 「じゃ、しなさい! 今すぐしなさい! アタシの目の前でしなさい! さっさとしなさい!」


 「お、おう……。じゃ、やってみる」


 とは言ったものの、人前で、それも意図的に失禁するなんて今までしたことがない。やろうとはするのだが、なかなか出ない。本能が拒否しているのか、それとも恥ずかしさのせいなのか……。


 「ちょっと、まだでないの?」


 「頑張ってみてるんだけど、これは……なかなか……ん~~~難しいなぁ……」


 あらゆる体勢、運動を試みても出る気配がない。飛び跳ね、身体を捻じり、寝たり起きたり、座ったり、どうやってもダメだ。そもそも尿意がないんだからどうしようもない。

 気がつけば俺は汗だくだった。


 「す、すまん。また出そうなときでいいか?」


 「……もういいわよ。なんかもうどうでもよくなっちゃった」


 「そ、そうか」


 「よく考えたらアンタがそんなことしてるの見ても、アタシが得するわけでもないし、むしろキモいし」


 (だからそれはさっき俺が言っただろうがッ!!!)


 とは口に出しては言わない。余計なことを言って、先程の怒りを再燃させてもつまらない。


 「じゃ、一つ貸しね。アンタもちゃんと覚えておきなさいよ」


 「ああ。わかった。それと、ごめんな。俺のせいで恥ずかしい思いをさせて」


 「さっき謝ったじゃん。もういいわよ」


 「ちゃんとしっかり謝らないと思ってな」


 「あ、そ。じゃとりあえずあとでアンタの服かしてね。誰かさんのせいで着るものないから」


 「ああ、わかってるよ」


 ひとまず仲直り(?)できた。程なくして俺たちは元いた部屋に戻った。

人はぶつかりながら絆を深めてゆくものなのかも。

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