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天災だって殺せない、最強最高の幸運児、コーイチ! お魚天国に『黒炎剣』が火を吹くぜ!

ちょっと遅いクリスマスプレゼント連続投稿。

 搦手から敵の側面を突くには、かなり険阻な道をいかなければならない。

 道幅が狭く、すぐ脇が崖になっている。そのため、敵は搦手を攻めてこない。大軍が通行するには難しい上に、攻めにくいからだ、と俺は見ているがおそらく間違いじゃないだろう。

 道が険阻なのは防衛上の利点だが、こっちから出向くとなると少し時間がかかる。

 折しも今日は嵐だ。雨で道はぬかるみ、風に煽られる。少しでも油断すれば崖を落ちかねない。俺は落ちないように腰を低く這うように進む。


 チラッと目の端に見える崖下には敵が陣取っている。敵にとっても、この嵐は難敵のようだ。正面門へ取り付く人数は限られているから、攻め手が疲れると代わりの人数が後から出てきて交代するのだが、それがこの嵐でスムーズにはいかないらしい。


 攻めるに追い風はそれほど邪魔にならないらしいが、後退となると容易じゃなさそうだ。

 眼下に、強風に難渋する敵陣を見て、俺はほくそ笑んだ。

 ひょっとしたら、俺が戦うまでもないかもしれない。


 そう思ったときだった、

 突風が吹いた。

 伏せようとして、足に力を入れると、

 ズルッ、と滑った。

 片足が崖下へとはみ出した。

 瞬間、再び風が吹く。バランスを崩す俺。地に足がついていない。浮遊感があった。


 (落ちる――)


 恐怖に心臓がキュッとなった。一瞬風景がスローになった。背筋が冷たい。

 落ちてたまるか……!


 すぐ側の細木に手を伸ばす、指がかかる、そこに全身全霊を込め、死にものぐるいで絶対に離すまいと掴む。


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。


 必死だ。そのかいあってなんとか掴めた。もう片手も伸ばして両手で木の枝を掴む。そこでようやく俺はホッと息をつく。


 (危ねー! 死ぬかと思った!)


 崖下はパッと見、十メートル以上はある。落ちればそれだけでもほぼ即死なのに、そこには敵の大軍がいる。もし俺が持ち前の幸運を発揮して、落ちた時点で無傷だったとしても、大軍に囲まれちゃ、もうどうしようもない。

 とりあえず、道に戻って一息つく。極端な緊張と緩和で一気に気疲れしてしまった。深呼吸をして気を落ち着ける。


 すーはー、すーはー、すーはー。


 よし、落ち着いたな、

 そう思った直後、


 ゴゴゴ、ミシミシ、バリバリ……。


 妙な騒音が周囲にこだました。


 風のせいか? と思ったが、どうやら違う。となると……。

 嫌な予感がした。大雨、強風、ぬかるんだ崖……。これはひょっとすると……。

 俺はこの嫌な予感がただの予感で済まないことを直感した。

 とほとんど同時だった。ぬかるんだ地面が大きな音を立てて崩壊した。


 (がけ崩れだッ……!!!)


 俺にできることは皆無。荒れ狂う自然に人間は為す術もない。俺は土砂や木々にもみくちゃにされながらがけを転がり落ちた。


 (うおおおおおおおお、死んでたまるか……!!)


 ただ気力を奮い立たせ、念じるしかない。


 (俺は、幸運だけは最強なんだ! こんなことで死ぬはずがない!)


 がけ崩れに巻き込まれている時点で幸運とはいえないような気がするが、逆に考えればむしろそんなときこそ最後に頼れるのは己の幸運だけともいえる。

 そして、俺はやはり運が強かった。気がつけば俺は、全身泥だらけになりつつも奇跡的に無傷で崖下へとたどり着いた。

 多くの場合は土砂に埋められて窒息したりするらしいが、俺の場合は本当に運が良かった。土砂は柔らかく、しかも俺は表層の部分にいたせいで、すぐに脱出できた。


 (ふっ……、やはり俺は最強の幸運の持ち主なんだな……!)


 なんて思ったのもつかの間、周りを見ると海人の群れ。敵が俺を取り囲んでいる。

 敵の目はがけ崩れに動揺しているように見えた。おそらく敵の一部は土砂に巻き込まれたのだろう。それでも、かなりの数が生き残り、唐突に現れた俺を油断なく包囲している。


 一難去ってまた一難、前門の虎、後門の狼ってやつだ。


 だが今の俺はビビらない。がけ崩れから奇跡的に生還したことで、俺は今猛烈に生の喜びを感じている。この多幸感。無敵感すら感じてしまう。


 (あのがけ崩れで無事だったんだ、俺を殺せるヤツなんていないッ!!!)


 そう、つまり今の俺は無敵だった。最強の幸運があるということは、それすなわち無敵なはずだ。


 (やってやるぜ、この魚野郎ども!)


 俺は懐から錆びた短剣を取り出し、手袋を外して懐にしまうと、『黒炎剣ファイア・ブレイド』を起動した。


 「今お前らの眼前にいるのは、魔獣の群れを薙ぎ払い、双角獣バイコーンを倒し、数多あまたの決闘に打ち勝ってきた最強の男だ。人は俺を『火剣の勇者』と呼ぶ。お前らごときでは俺には勝てん。潔く退くのなら命だけは助けてやる。無謀にも挑むというのなら――」


 俺は目の前の一人に『黒炎剣ファイア・ブレイド』を突きつけた。


 「灰燼に帰すことになるだろう。その覚悟、お前らにあるか?」


 海人だけに、なんちゃって。今の俺はちょっぴりテンションが高すぎて色々とガラにもないことをやっちゃってるが、まぁ、たまにはいいよな。

 戦争なんだ、どんな人間でも普通のテンションじゃいられないよな。

みんなもがけ崩れには気をつけよう!

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