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朝、目が覚めると、隣に見知らぬ女が……


 九


 朝、目が覚めると、裸の女が隣にいた。

 女はエキシージ。あらわになった胸元は日焼けとそうでない部分でコントラストを生み出しなんともいえない感じ。それが呼吸のたびに上下している。さらに視線を下に移す……わけにはいかない。もし、下も何も身につけていなかったら……。

 ひどい頭痛と軽いパニックに襲われた。混乱する頭を抱えつつ、俺はシーツをエキシージの露出した部分を覆い隠すようにかぶせた。


 前夜のことが思い出せなかった。

 机には空になった酒瓶とコップが二つずつ。そういえば、ほのかに酒の匂いが漂っている。


 そんなに酒飲んだっけな……?


 多分、飲んだんだろう。記憶をなくすなんてそうそうあることじゃないし、それ以外に原因も思いつかない。それに状況証拠がそれを裏付けている。

 エキシージは裸だったが、俺は服を着ていた。下着も服も揃っている。


 うん、多分大丈夫。俺は何もしていない、はずだ……。


 それに関してはちょっぴり自信がある。俺は童貞で今まで彼女もできたことがないし、この世界にきてから今までに何度かそういう誘惑もあったけど、なんとか退けてきた。そんな俺だから、酒の勢いで、なんてことはおそらくないだろう。

 頭はまだ痛いが、パニックはもうおさまった。


 とりあえずベッドから離れる。裸の女の傍にあんまり長くいるもんじゃない。そういう関係なら望むところだけど、エキシージと俺は何もない。そういうのは精神衛生上よろしくない。

 とりあえず椅子に座って、すこやかそうに眠るエキシージを見る。薄いシーツ一枚をかけただけだから、身体のラインが生々しい。正視に耐えない。見事にシェイプアップされた肉体はとても美しく、扇情的だ。


 一体何がしたいんだ、エキシージは……。


 このままひとつ屋根の下にいるのはよくない。俺は逃げるように部屋を出た。

 外は明るすぎた。空には雲ひとつない晴天が広がっていた。眩しすぎる青さだ。

 目を細めつつ、近くの井戸へ向かった。井戸で水を飲んだ。起き抜けに冷たい水が気持ちいい。二杯飲んだ。それから部屋のすぐそばに戻って、エキシージが起きてくるのを待つことにした。


 が、三十分ほど待ってから、気が変わった。


 なんで俺の部屋なのに、俺が待たなきゃならんのだ?


 腹も減ってきた。すると段々むかっ腹も立ってきた。

 そう、俺は悪くないはずだ。俺の部屋で俺が堂々していていいはずだ。なんで俺が締め出された子供のように外でいじけてなきゃいけないんだ。


 俺、吶喊します!


 部屋のドアをあえて乱暴に開け、いまだ気持ちよさそうにベッドで眠るエキシージの肩を気持ち強めに揺すった。


 「おい、起きろ」


 声音もぞんざいに、怒りを露骨にする。


 「ん、んんん……」


 「起きろって」


 「んんんん……」


 「さっさと起きろ」


 「ん……」


 突然、バネじかけのようにエキシージが上体を起こした。エキシージの顔が目の前に急接近。吐息が唇にかかる距離。いや、問題はそれより下方で起こっていた。勢いでシーツがはだける。エキシージの裸体が再びあらわになった。

 俺は目をつむった。エキシージの裸体は朝の太陽光より目に眩しい。


 「おはよっ」


 鼻の先でエキシージの声が聞こえた。その声はまだまだ眠そうだった。

 突然、エキシージが抱きついてきた。俺の胸に顔面を擦り付けてくる。二つの柔らかい塊が腹に当たる。


 「ちょ、ちょっと待て! 何やってんだ!」


 「朝からうるさいなぁ。別にいいじゃない。今に始まったことじゃないし」


 「なんのことだよ」


 「昨夜はもっと激しかったじゃない?」


 「そんなことしてないだろ!」


 俺はエキシージを引き剥がそうとして彼女に触れた。彼女の素肌に触れた。そういえばそうだ、一糸まとっていないのだから。気をつけなければならない。変なところを触ったら既成事実になってしまう。

 俺は注意深くその肩をつかんだ。以外に華奢な肩だ。あの戦場での活躍ぶりからてっきりもっと無骨でゴツいものかと――


 いや、分析してる場合じゃない。とにかく俺はエキシージを引き剥がそうとした。

 が、無理。エキシージは華奢な肩に似合わない力で俺を離さない。


 「ん~、いい匂いがする……」


 「冗談はもういいから、そろそろ離してくれよ」


 「冗談なんて言わない。いい匂いだよ」


 「いや、だからそんなのどうでもいいんだって! さっさと離れろよ!」


 「いやだ~、離したくない~、コ~イチ~」


 ……いつものエキシージらしくない。いや、ひょっとして俺が知らなかっただけで、これが普段のエキシージなんだろうか?


 とにかく、なんにしてもこの状況を長く続けるわけにはいかない。

 なにせエキシージに抱きつかれるのは、正直に言ってしまうと気持ちが良すぎる。以外になめらかな肌。しなやか肉体。柔らかな胸。温かな体温。俺も男だから、変な気を起こしてしまいそうになる。

 それはよくない。いろんな意味でよくない。


 「寝ぼけてんじゃない! いいかげんにしろ!」


 多少強引になるのは仕方がない。俺は腕力に物を言わせて無理矢理エキシージを引き剥がそうとした。俺の本気に驚いたのか、一瞬、離れた。

 だが、


 「甘いぞコーイチ!」


 ふと、エキシージが俺から離れたかと思うと、目にも留まらぬ早さで俺の背後に回り込んだ。


 ヤバい、背後バックを取られる!


 そう思った瞬間、慌てて振り返るも遅かった。


 エキシージのタックル!


 不覚にも綺麗に決められてしまった。腰に決められ、俺はバランスを失い、派手な音を立てて背後のベッドへ倒れ込んだ。

 すぐに起き上がろうとするも、もうマウントポジションを取られてしまっていた。これを返すのは容易じゃない。それに直視できない。相変わらずエキシージは全裸なのだ。真正面を見上げれば、彼女の露出した胸があるに違いない。


 「私の勝ちね、コーイチ」


 フフンと鼻を鳴らしてエキシージが言った。


 「何の勝負だよ……」


 こっちはもう呆れるしかない。ため息も出てくる。

 その時、不意に部屋のドアが開かれた。


 「コーイチ殿、朝食をお持ちしました」


 誰かが朝食を運んできたらしい。それも最悪のタイミングで。

 エキシージがマウントから身体を密着させてきた。シーツを手に取ると、片手で器用にシーツを被せた。一瞬の早業。

 朝食を運んでくれた人は、俺たちの様子を見て一瞬目を見開いた。が、すぐに苦笑を浮かべ、食事の乗ったトレーをさっさと机に置いた。


 「いやいや、これは失礼しました。どうぞお気になさらずに。それでは……」


 彼は足早に去っていった。

 俺は最悪のタイミングで最悪の場面を見られたショックのあまり、弁解どころか一口も口を開けなかった。ショックから立ち直ったときにはもうすべてが遅かった。


 「見られちゃったね……」


 エキシージが俺から離れ、身体にシーツを巻き付けながらはにかんで言った。


 「ああ、そうだな……」


 俺は今日イチのため息をついた。

 これが噂となって広まるのに二十四時間もかからなかった。狭い島というのはどうしても噂が広まりやすいものだ。

しばらく書き溜め期間に入ります!

できるだけ早く続きをあげられるようがんばりますので、どうか皆様応援よろしくお願いします!

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