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コーイチ、魔法修行中! そして久しぶりにスプロケットの街へ……。

 師匠サクシードの元で魔法修行を始めて一ヶ月が経過した。結論から言って、俺に魔法の才能はあまり無いらしい。

 天才といわれるような人だと、最初の一ヶ月でめきめきと頭角を現すらしいのだが、俺は一ヶ月経っても何の魔法も習得できず、その徴候すらなかった。

 俺は何度も自らのステータスを見てみた。


 『体力』      : そこそこ。

 『魔力』      : 意外とある。

 『物理攻撃力』   : 一般人よりちょい上。

 『物理耐性』    : 平凡に毛が生えた程度。

 『魔法攻撃力』   : 皆無。クソもいいところだが……?

 『魔法耐性』    : 伸びしろあるよ。

 『器用さ(物理)』 : 前よりまし。

 『器用さ(魔法)』 : 全くダメ。

 『幸運』      : マジでこれだけは全一。


 見るたびに変化する文章も、結局のところはいつも同じ意味。若干ディスりもあったりで、ストレスも溜まる。何で自分のスキルにディスられなきゃならんのだ。


 「そう悲観するな。大器晩成という言葉もある。君も案外そのクチかもな」


 修行後、成果が出ずに毎回のごとく落ち込みうなだれる俺を、サクシードはいつも優しく慰めてくれた。

 不思議と、サクシードに慰められるともうそれで落ちた気分もグングン上がってくる。ビフォーアフターで何の変化もないのに、俺が魔法修行への情熱を全く失わなかったのも、サクシードの慰めのおかげと言っても過言じゃない。

 本当に、サクシードには感謝してもしきれない。

 それからまた一ヶ月が経った。そこでようやく、ほんの少しだけ変化が現れた。

 それに気付いたのはサクシードだ。


 「ん……? これは……? ほほぅ……、実に珍しいな……」


 修行は毎日たったの一時間しかない。サクシード曰く魔法の修行とは詰め込むものでもなく、苦労すればいいというものでもないのだそうな。

 サクシードが魔法を実演してみせ、それをサクシードの指南の通りに俺が実践してみる。このときもうまくいかず、俺はいつものごとく落ち込んでいた。

 修行の終わりには、初めて魔法修行を始めたときの、サクシードが俺の背に触れる『術式』を毎回行っているのだが、俺の中の変化を発見したのはこのときだった。


 「コーイチ、君は類稀なる才覚の持ち主かもしれないぞ」


 「そうですか? そうだといいんですけど」


 俺はいつもの慰めだと思った。


 「いやいや、世辞じゃない。どうやら君には身近にある魔法、もしくは魔力を取り込み、自分のものにする力があるようだ」


 「はぁ」


 「腑抜けた返事だね。結構すごいことなんだよ?」


 「えっ、そうなんですか!? 全く自覚ないんですけど」


 「君は魔法の素人で、私は玄人だ。私の言うことに間違いはないよ」


 サクシードが微笑む。


 「君の中に私の魔力の痕跡を感じ取った。私が実践して見せた魔法を君の身体が取り込んでいる証拠だ。さらに君自身の魔力が私の魔力を模倣しようとさえしている」


 「つまり、それってどういうことなんですか?」


 「君は他人の魔法を自分のものにする才能がある、ということさ」


 「ほ、本当ですか!?」


 「本当だとも。とはいっても喜ぶのはまだ早いかな。まだその兆候がわずかに認められるだけで、ほとんど機能していない。だが、これは始めたころにはなかった兆候だ。間違いなく君は進歩している」


 俺は自分のステータスを見てみた。ステータスに目立った変化はない。今度はスキルの方を見てみた。すると、


 【神運】

 【オーラスキャン】

 【黒炎の加護】

 【黒炎龍の義腕】

 【………………】


 うっすらともう一つの文字列、五番目のスキルらしきものが見える。が、あまりにもうすすぎてなんて書いてあるかまではわからない。

 サクシードの言う通り、何らかの力が俺に芽生えつつある証明かもしれない。

 努力が報われ、進歩がわかると、俄然やる気が出てくる。俺はサクシードの言葉と励ましを拠り所に、一層努力した。

 それから一ヶ月後、涙ぐましい努力の果に、ついに俺は魔法を手に入れることが出来た。


 【火炎弾ファイアボルト

 【氷結弾アイスボルト

 【電撃弾ライトニングボルト


 この三つを一応習得することができた。なぜ一応かというと、正直に言ってしまえば使い物になるレベルじゃないからだ。


 【火炎弾ファイアボルト】はマッチの火ぐらいの威力しかない。それでも俺が習得した中ではこれが一番マシだ。


 【氷結弾アイスボルト】は砂粒のように小さな氷のかけらでしかない。こんなもんじゃ敵を倒すことはおろか、飲み物さえ冷やせない。口に入れてみたら一瞬にして溶けて消えた。


 【電撃弾ライトニングボルト】は幼稚園児のデコピン以下の威力だ。その射程もわずか数センチ。これじゃ静電気に劣る。


 これでも魔法は魔法に違いない。以前の俺はそんなことすらできなかった。前の世界の友人にみせればきっと魔法だと認めてもらえるだろう。ひょっとしたら、手品と思われるだけかもしれないけど。

 三つの魔法は奇しくも俺が、いろんな意味で触れる機会の多かった魔法だ。師匠サクシードの言った『他人の魔法を自分のものにする才能』が発現した結果だろうか。

 そのほかに目立った変化はなかったが、一応成果が出てきたので、俺はますますやる気が出て、ますます精力的に魔法修行に取り込んだ。


 少しでもできるようになると、魔法の修行が格段に楽しくなった。指の先に火が灯る、それだけでも凄く楽しい。それをなんとか発展させようと努力するのも、成果が目に見えづらくても楽しかった。


 「いずれ芽は出る。だから怠ることなく精進するんだ」


 サクシードは何度もこの言葉で俺を励ましてくれた。嬉しかった。魔法の腕が上がれば上がるほど、それに比例してサクシードへの信頼感も高まった。時間はかかっても、サクシードの言った通りの結果が出る。こんなに頼もしい人がいるだろうか? いや、なかなかいないだろう。そう簡単にいるはずがない!


 つまるところ、俺にとってサクシードはまさに女神のような存在だった。

 女神といえば、あの女神はどうしているだろうか。たしかウア……なんとかとか言ったっけな。あんまり覚えていないが、あんまり思い出すようなやつでもない。なんかちょっと胡散臭いところもあるし。親身になってくれるぶん、サクシードの方がよっぽど頼りになる。


 それになんだあのステータス配分システムは? 一度振り分けたらやり直せないなんて、どんな欠陥システムだ!? 女神が聞いて呆れるぜ! ウアなんとかさんはサクシードの爪の垢を煎じて飲むべきだ!


 ビバ! サクシード! ノー! ウアなんとか! 俺にとっての女神はもうサクシードだけだ! サクシード最高! サクシード万歳!


 ………………………

 ………………

 ………


 さて、そんなこんなで俺がサクシードに助けられ、魔法の修行を始めてから四ヶ月が経った。

 俺は今スプロケットの街にいる。ここを訪れるのも実に四ヶ月ぶりだった。

 エランや皆はどうしているだろうか。元気にしてるだろうか。非常に気になるが今は皆にあってる暇も余裕もない。それに自分のせいであの電撃クソ女を呼び寄せてしまって、皆に迷惑をかけたことを考えるとあわせる顔もない。


 今は魔法の修行の真っ最中でもある。この四ヶ月ぶりにこの街にきたのも感傷にかられたわけじゃなく、修行の一環だった。

 いや、修行というより、弟子の生活の一環といったほうが正しいか。今日ここへきた目的は買い出しで、俺の役割は我が師サクシードの荷物持ちだ。

 今日のスプロケットの街は雲ひとつない晴天だ。気温もほどよく暖かく、歩く程度では汗もかかない。絶好の買い物日和だ。


 と、思ったのもスプロケットに入ってしばらくの間だけだった。街の中央通り、以前俺とジュリエッタが揉めたあの近辺の一番賑わっている通りに入ると、先程までの感想は一変した。

 通りを埋め尽くさんばかりの人、人、人の群れ。本日は露天商の日であり加えて絶好の日和。とはいえこれはあまりにも人が多すぎる。

 人口密度が高まると辟易してくる。その上、一気に気温が上がった気がした。いや、気のせいじゃないだろう。太陽は中天にきていた。今が一番暑い時間帯でもある。


 購入物を背負う俺はともかく、手ぶらのサクシードでさえも帽子の下の額に薄っすら汗をかいていた。

 同様に俺も汗をかいていた。それでも、こんな暑いのに頭からすっぽりとローブをかぶっているのには理由がある。それは俺が『火剣の勇者』だからだ。この街で『火剣の勇者』はちょっとばかり顔が通り過ぎてしまっている。元々目立つのは苦手だから、今の俺にとってローブは必須だった。


 「さすがに暑いな。あと少しで予定のものは買い終えるから、終わったらなにか冷たいものでも飲もう」


 サクシードが途中で買った異国渡りの扇子で顔を仰ぎながら言った。

 それから約三十分後に俺たちは、大通りから外れた小道の端っこで、木の実ジュースを片手に腰を落ち着けていた。

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