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外国より遠い場所、それが異世界。そんなところへ着の身着のまま、しかもステータスは下方修正ときたもんだ。これ詰んでるな。

いざ異世界へ!

 気がつくと、俺は闇の中を横たわっていた。

 目を開けると、木々の枝々の向こうにほのかに明るい星空が散りばめられていた。

 さて、ここはどこだ……?

 俺は跳ねるように上半身を起こし、周囲を見回した。

 見知らぬ藪の中。

 清涼な空気。

 静寂に虫の声。

 地には背の低い草がところどころに生えている。


 「はぁ……」


 思わず小さなため息が出た。

 おそらくここは『異世界』だ。

 女神様の魔法陣によって、通学途中の横断歩道上から、ここへ飛ばされたのだろう。

 でなければ、女神様云々はトラックに轢かれる間に見た束の間の夢で、あの世にきてしまったのかもしれない。


 「はぁ……」


 もう一度ため息をついた。早速、途方に暮れていた。

 真夜中に見知らぬ藪の中で目覚めるほど途方に暮れることも、他にないだろう?

 異世界ってだけで不安なのに、こんな人気のない藪の中、それも視界が悪い真夜中なんて、ホントどうしたらいいんだろうか?

 とりあえず、ジッとしておくほかない。下手に動いて体力を消耗するのは危険だ。

 遭難時は下手に動くより、遭難に気付いた時点で体力確保に努めたほうが、生存率が高いってテレビか何かで言ってたのを覚えている。

 あっ、でもそれって、遭難したことを他の誰かが知ってて、なおかつ探してくれていないと意味ない気が……。


 もう考えるのはよそう。悪いことばかり頭に浮かんで、気が滅入るだけだ。


 「はぁ……」


 三度目のため息。

 正直、ため息以外にすることがない。する気力もない。心細さと不安感に心底打ちのめされている。


 「チート失敗は痛かったなぁ……」


もはや取り返しのつかないことを、一人ごちる。ダメだダメだ。またネガティブになってる。

 気分を変えるため、夜空を眺めてみた。

 木々の間から見える星空は、前の世界の都会ではありえないほど澄み、清らかに煌々と輝く。

 それだけが、今の俺にある唯一の慰め。

 と、俺が星の美しさに心細さと不安感を紛らわせていると、


 「多加賀幸一様……、多加賀幸一様……」


 どこかから声が聴こえてきた。

 俺は耳を澄ませた。


 「多加賀幸一様……」


 この声は女神様だ!

 俺は勢い良く立ち上がった。周囲を見回し、声がどこから聴こえてくるかを探った。

 しかし、声はどこから聴こえてくるのでもなかった。

 声は俺の周囲、全方向から、か細く聴こえてくる。不思議な感覚。


 「女神様! いるんですか!?」


 俺は叫んだ。夜の闇の中に、俺の声は鋭く響いた。


 「はい。しかし私があなたにしてあげられることは声を届けることのみです。それもごく短い時間。ですから、私がこれから言うことを、しっかりちゃっかり聞いて下さい」


 「そ、そんな! せめて夜が明けるまでは……」


 俺の哀願虚しく、女神様はさっさと話を切り出した。


 「頭の中で『ステータス表示』と唱えて下さい。すると、あなたの現在ステータスが表示されるはずです」


 俺は言われるままに従った。

 女神様の言うとおり目の前にロールプレイングゲームのようなステータス画面が広がった。


 「ステータス画面については、おいおいご自分で色々お試しになられてみて下さい」


 「えっ」


 「最後に、『スキル』の使い方をお教えします。簡単です。頭の中でスキル名を唱えるだけで結構。それでは時間がないのでまたいつかどこかで」


 それを最後に、女神様の声がプツリと聞こえなくなった。

 また静寂がやってきた。滅茶苦茶寂しくなってしまった。


 何やら女神様はかなりお急ぎの様子だったけど、一体何がそんなに忙しいのだろうか?

 あなたが異世界に送り込んだ、年端もいかない少年が困り果てているのを放っておいてまでやるべきことがあるのでしょうか?

 そう思うと、何だかムカついてきた。

 かと言って、一応は命の恩人と言ってもいいくらいの相手を、それほど悪く言うこともできない。

 また、言って聞かれたらそれこそ大変なことになりかねないので、固く振り上げた怒りの拳は静かに下ろすしかなかった。


 「ステータス表示」


 特にやることもないので、ステータス画面を吟味することにした。頭のなかで唱えるだけでいい、そう女神様は言っていたが、何となく声に出してみた。一人になると、ついつい独り言が多くなってしまう。こんな寂しい状況では特に。


 ステータスウィンドウが開く。


 「ん……?」


 名前     :多加賀幸一

 種族     :人間

 年齢     :十六歳

 体力     :低い

 魔力     :かなり低い

 物理攻撃力  :低い

 物理耐性   :低い

 魔法攻撃力  :かなり低い

 魔法耐性   :かなり低い

 器用さ(物理):不器用ですから……。

 器用さ(魔法):かなり不器用。

 幸運     :三千大千世界の頂天。


 さっき女神様に言われた時には、あまり注意して見ていなかったが、よくよく見れば、いや、よくよく見なくても、ボーナスポイントを割り振る時の文章と、今の文章ではかなり違った内容になっている。

 『幸運』以外、大幅な下方修正を受けている気がする。

 確かボーナスポイント割り振り時は、ほとんどが『平均』となっていたはずだ。どういうことだ……?


 「あっ!」


 そういえば女神様はこんなことを言っていた気がする。

 この世界は『魔力』が全くない人がほとんど。

 つまり『魔力ゼロ』がこの世界、つまり、俺がいた世界の平均。

 ということはだ、ステータスは『世界』を基準に算出されていると考えられないだろうか?


 異世界には魔法があると女神様は言った。

 魔法があるということは、異世界人は魔法が使える。

 魔法が使えるということは、異世界人は魔力を持っている。

 あっちの世界の平均、つまり魔力ゼロの俺が、この世界にきて平均というのはありえない話、というわけだ。

 この仮定が正しいなら、おそらく正しいと思うけど、俺の軒並み下ったステータスから考えるに、異世界人、つまりこの世界の住人は、軒並み俺より強いステータスを持つ、ということになる。


 あれ、コレってヤバくね?


 冷や汗がダラダラ吹き出してきた。

 今の俺は、幸運以外のステータス全てが平均以下。

 元の世界では『ザ・平均』だった俺だが、この世界では『のび太』程度。しかも『ドラえもん』のいない『のび太』だ。

 ドラえもんのいないのび太が異世界に旅に出たらどうなる?

 幼いころ観た大長編ドラえもんを思い出して見る。そこからドラえもんを抜き、頭のなかでシミュレーションする。

 すると、どうやってものび太は悲惨な運命を辿るのである。それは俺が辿るかもしれない運命そのものだ。


 不吉な想像に俺の身体はガタガタ震えだした。きっと今の俺の顔はドラえもんばりに青いだろう。

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