表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/146

閃光襲来! コーイチに休む暇なし!

 スプロケットの街には戒厳令が敷かれていた。

 外出や人の出入りは大きく制限され、手に槍を携えた兵士が往来を闊歩する。

 だが、兵士は絶対数が少なく、注意して身を潜めながら歩けば見咎められることもない。

 そうして、俺は街を出た。

 とくに行く宛はない。

 ただ、あのクソ女との戦いに街を巻き込みたくはなかっただけだ。

 このときの俺は情緒的過ぎた。考えなしに気分だけで行動していた。

 金も持たず、食料も飲水も持たない放浪は無謀だ。

 そのことに俺はまったく気づけていなかった。


 歩き続けていると、途中で道が二つに分かれた。二つの道の境目に看板が一本立っていた。

 左の道は『スイングアーム』の街行き、右の道は『サスコイル』の街行き。

 それ以外に情報はなかった。何となく右の『サスコイル』行きの道を選んだ。


 夜になった。まだ『サスコイル』には着かない。しかも、森に入っていた。

 こっちに来てから何度か夜の林やら山やら森やらを歩いてきたが、何度歩いても不気味なことには変わらない。

 聞いたこともないような生き物の鳴き声が時折、森のなかにこだまする。その度俺はちょっぴり驚かされる。

 深夜に叩き起こされてから何も食べていない。さすがに腹が減ったし喉も渇いた。何より身体は疲れてきっていた。


 今日は森の中で野宿かな。

 溜め息混じりにそう思った。

 手頃な大木を見つけ、それに背をもたせかけて太い根っこの間に腰を下ろした。地面はやや湿り気を帯びて冷たく、ケツがひんやりとした。

 一息つこう。場合によっちゃ、このまま明日の朝まで休もう。

 深い息を吐きながら空を仰いだ。星はほとんど見えない。折り重なるように茂った木の枝葉が空を遮っている。

 風はなく、地面が冷たいことと、夜闇の不気味さ以外は過ごしやすい。虫の音色も慣れれば耳に心地良い。

 目を瞑ると、異世界こっちに来てから今日までのことが、ふと思い返された。まるで走馬灯のように。


 エランと出会ったときのこと、不可抗力でジュリエッタと戦うはめになったこと、魔物の群れに襲われて死にかけたこと、ヴェイロンとかいうドラゴンに助けられたこと、アコードに変装したケイと戦ったこと、全裸のグレイスに迫られたときのこと、双角獣に左腕をもっていかれたこと、ヴェイロンが代わりの腕をくれたこと、代わりの腕で双角獣にリベンジしてやったこと……。


 『火剣の勇者』、そんな風に呼ばれたこともあった。


 人々の噂によって作られた、現実の俺とはかけ離れた実態のない称号。なんて冷めた目で見つめているつもりだったのに、俺はその甘美な響きにいつの間にか飲み込まれ、溺れてしまっていた。

 恥ずかしく、情けない話だ。俺が調子に乗ったせいでエランは巻き添えを食ってしまった。

 俺が本当に人々の言う『火剣の勇者』だったなら、エランが傷つくこともなかっただろう。

 夜闇はダメだ。自責の念だけが強く募ってくる。


 俺はごろんと横になった。地面は相変わらず冷たいが、じきになれるだろう。そのうち眠って、朝が来るだろう。

 疲れていたから寝付きは良さそうだ。

 木の根は枕としては硬すぎるけど、高さは申し分ない。

 虫の音、木の葉のせせらぎ、自然の音をBGMに寝るのは全然悪くない。

 目を閉じ、眠ろうとした、


 その時だった。

 BGMがピタリと止んだ。


 しん……、と静まり返った森こそ不気味だった。異変は明らかだった。


 すぐに起き上がり、左腕のシーツを取った。ヴェイロンから貰った左腕が露わになる。

 その力を開放する。腕が肥大化し、色がドス黒く変色する。『バイオハザード』に出てきそうな異様かつグロテスクな見た目。だが、見た目通り強力だから頼りになる。


 と、その時、闇の中で一筋の光芒が走った。


 ほとんど本能的な反応で、跳び、転がってそれをかわした。

 後ろで乾いた炸裂音が響き、背後がパッと明るくなった。と、同時に地響きが起きた。

 振り向くと、俺が身を寄せていた大木は真っ二つに折れ、焦げて炎上していた。


 閃光といい、威力といい、間違いなくヤツの仕業だ! あのクソ女だ! あのクソ女の『電撃弾ライトニング・ボルト』だ!


 直感。同時に駆け出す。

 立ち止まれば閃光の餌食だ。

 案の定、背後から幾条もの閃光が襲い来る。

 が、命中精度がそれほどよくないらしいのと、乱立する木立が丁度いい遮蔽物になってくれるため、かすりもしない。

 クソ女の魔力が切れるまで走り続け、切れてから反撃に移る、つもりだったが、背後からの閃光は、その頻度と数を減らすことなく常に俺を脅かす。

 駄目だ、俺のほうが先にバテてしまう。

 体力の限界まで逃げ続けるのは得策とはいえない。体力が尽きれば死ぬしかない。体力のあるうちに別の手段を取るべきだろう。


 しかし、どんな手段がある……?


 背後からの攻撃に曝されながら、無い知恵を絞る、が、出ない。考えれば考えるだけ、焦りが募ってくる。


 どうする? どうする? どうすればいい?


 答えは出ない。

 万事休す、か。


 死が頭をよぎったそのとき、

 頭上が真昼のように明るくなった。


 上を見上げると、枝葉の隙間から太陽のような輝く球体が見える。

 そして、次の瞬間、

 輝く球体は分裂し、流星群のように辺り一帯に降り注いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ