一角獣編エピローグ ケイ編 『昼間のラッキースケベ』
邸に戻ってすぐ昼食と昼の風邪薬もいただいた。
腹が膨れると、午前中の運動+ちょっぴりエッチなハプニングの疲れから、どうしようもなく眠くなった。
眠くなったら寝るのが生物の大原則で、俺はその大原則に忠実だったから、早速部屋に戻って一眠りすることにした。
俺はうっかりケイの寝ている部屋に入ってしまった。俺は今朝のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
ノックもせずに部屋を開けると、お着替え中のケイと目が合った。
まさかケイがいて、それも着替え中だとは思ってもみなかったから、一瞬何が起こったのかわからず、俺は数秒あっけに取られてしまった。
それはどうやらケイも同じだったらしい。
俺たちは数秒、互いに固まった表情で互いを見合った。
ケイは、上半身のシャツがはだけ、首下からヘソのライン上、真っ直ぐに白い肌が見えていた。下半身はもっとすごい。何せ純白のパンツだけだ。いわゆる紐パンで、腰の両サイドで結んであった。
あっけに取られつつも、俺はまじまじとケイの半裸体を見てしまっていた。
先に我に返ったのは俺だった。
「うオゥッ!?」
思わず変な声が出てしまった。
「ご、ごめん!」
とりあえず手短に謝り、すぐに部屋を出てドアを閉めた。
いやはや眼福だった……、じゃなくて、大変なことをしてしまった!
ケイの半裸体を見てしまった。それも意外とまじまじと見てしまった。今もあの健康的に眩しく輝く白い肌が目に焼き付いている。
しかしケイの半裸体を見ても、やらしい気持ちはほとんど起きなかった。俺が劣情を催すには、ケイの身体はまだまだ稚すぎる。性的な興奮より、微笑ましさのほうが先にたつ。
……なんてことを考えてる場合じゃない!
悪気はなかったとはいえ、ケイの半裸体を見てしまった! つまり、これは覗きと見なされる可能性が大いにある!
なんとかケイに弁解しなければ大変なことになるのは火を見るより明らか!
もし弁解が通じなかった場合、『火剣の勇者』は剥奪され『変態糞ロリコン覗き魔』の称号を与えられてしまうだろう。
好意を寄せてくれているジュリエッタやグレイス、そしてエランの三人には言うまでもなく嫌われ、街の人々にも後ろ指さされることになるのは間違いない!
しかもスプロケットの街の噂はとかく尾ひれがつきやすい。いずれ『変態糞ロリコン覗き魔』から『変態糞ロリコン強姦殺人鬼』に勝手に格上げされる可能性すらある!」
ヤバい! ヤバいぜ! 今弁解しないと『混沌の指環』探しどころじゃなくなるぜ!
最悪のシミュレーションを終えた俺は、終えるなりすぐにドアをノックした。無論、弁解のためだ。
コンコン。
しかし返事はない。
そういえば、着替え中を覗いた割には悲鳴も何も聞こえてこない。俺が子供の頃よく見てたアニメでは、主人公のメガネを掛けた男子小学生が同級生の女子の風呂を故意であれ偶然であれ覗いたときには、たいてい女子は「エッチー!」と悲鳴を上げてたものだが。
悲鳴も非難もなにもない。ただ静かだ。
もう一度ノックする。
コンコン。
「どうぞ」
返事があった。
俺は軽く深呼吸して、そっとドアを開けた。
ケイがいた。いつもの従者の制服を着ている。わずかに顔を赤らめている。
一瞬目が合った。が、ケイはすぐに恥ずかしそうに俺から目をそらした。
それは俺も同じだった。俺もケイがまともに見れなくて、視線はケイの足元をさまよった。
気まずい。けど、まずは謝らなければならない。
俺は意を決して頭を深々と下げた。
「ごめん!」
「ごめん」
二つの謝罪の言葉は同時だった。
なんでケイが謝るんだ? 俺は疑問に思いながら顔を上げた。
ケイと目が合った。彼女の顔にも疑問符が浮かんでいた。
「なんでケイが謝るんだ?」
「なぜコーイチが謝るの?」
また同時だった。
なんだかおかしくなって俺は思わず笑ってしまった。