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世界最高の幸運を持っているはずなのに、いきなりの大ピンチっておかしくない?

 只今俺は、超絶怒涛の絶対危機的大ピンチに陥っている。


 真正面に剣を持った男。

 その両隣に斧を持った男二人。

 背後にも剣やら槍やらを持った男三人。

 どいつもこいつも、よく陽に灼けて浅黒く筋肉質。屈強という言葉がよく似合う。

 顔はニヤついているが目が鋭く、好意的とは程遠い表情。さしずめ獲物を前にした野獣の群れってとこだ。


 両サイドは誰もいないが、かと言って包囲が緩いわけではない。

 両サイドはほとんど垂直に見える崖で、今しがた俺は、そこを滑落(かつらく)したばかりだった。

 崖を滑落して怪我を負わなかったのは、奇跡的な運の良さだ。

 これが、『女神様から与えられた力』のおかげか、と喜んだ矢先に、この絶体絶命の状況。


 野獣の群れは、ジリジリと距離を詰めてくる。

 何の得物も持たない、着の身着のままの俺を警戒し、慎重を極めているわけじゃないだろう。

 ただ、いたぶっているんだ。シャチやイルカが、アシカの子供を放り投げるように、ある種の知的なゲーム。


 命を弄ばれているのだから、獲物はたまったものじゃない。

 獲物になってみて初めてわかる。こんな恐ろしいことったらそうはないよ。

 もう俺はションベンチビりそうで仕方ない。

 さっきからずっと身体は恐怖で震えているし、ひざはガクガク大爆笑。

 暑いとも寒いとも思わないのに、尋常じゃない汗が吹き出る。

 緊張のせいで気分も悪いし、目も回ってきた。


 『女神様から与えられた力』で、この状況を打開できるとは思わなかった。

 そもそも『女神様から与えられた力』が、上手く機能しているとすら思わなかった。

 いや、崖から滑落した直後の一瞬は感じられた。その時のほんの一瞬だけ。


 『女神様から与えられた力』はいわゆる『パッシブスキル』で、発動させるのではなく、常時発動しているはずなのだが……、全く恩恵を感じない。

 女神様からたった一つ与えられた力、それだけがこの右も左もわからない異世界で生きるための唯一の希望なのに……。


 ああ、女神よ、貴女は私を見捨てるのか……!


 俺は心の中で天に向かって女神様に助けを求めた。

 が、何も起こらなかった。

 その時、正面の男が口を開いた。


 「はっ! このガキ、ビビってやがる! 大したことなさそうだ! 野郎ども! こいつを傷つけるな! ツラは悪くねぇから、『そっち系』の金持ち親父に、結構な値で売り飛ばせる!」


 おう、と男たちは口々に了解する。


 ケツにツララを突っ込まれたような冷たさが、俺の全身を鋭く駆け巡った。


 恐怖だ。


 それもおぞましい恐怖。『そっち系』の意味するところは、異世界にきたばかりの俺でも察しはつく。

 やべぇよやべぇよ。

 全身がゾワゾワしてきた。

 俺にそっちの趣味はない。

 『そっち系』の親父に弄ばれるくらいなら死んだほうがマシだ。

 俺はファイティングポーズをとった。抵抗の構えだ。

 だが、足は依然(いぜん)として震えていたから、全然様にならない。


 男たちはそれを見て、更にニヤついた。

 如何(いかん)ともしがたい実力差があるのを、彼らは俺のファイティングポーズから確信したに違いない。

 この土壇場で、女神様からもう一つ力を与えられていることを思い出した。

 思い出したはいいが、その力が戦いに役に立つとは思えなかった。

 それでも、藁にもすがる思いで、俺はそれを使った。


 「オーラスキャン……!」


 別に声に出す必要はなかったのだが、何となく声に出してみた。

 すると、男たちの頭の上に、彼らのステータスが浮かび上がってきた。

 そう、『オーラスキャン』とは相手のステータスを開示するスキルなのだ。

 正面の男のステータスはこんな具合だ。


 『体力』      :君が軽自動車だとしたら、小型乗用車くらいはあるよ。

 『魔力』      :君とおっつかっつ。

 『物理攻撃力』   :剣で斬られるとどうなるでしょうか?

 『物理耐性』    :君のへなちょこパンチでどうにかなると?

 『魔法攻撃力』   :ぷぅ~。

 『魔法耐性』    :カス。

 『器用さ(物理)』 :もう比べるのも馬鹿らしくなってきた。

 『器用さ(魔法)』 :君と同等だ! よかったな!

 『幸運』      :これだけは唯一君が勝ってる!


 うーん、わかりにくい。

 わかりにくいが、相手に比べてあらゆるステータスで劣っているということだけはわかった。

 『物理耐性』が俺を馬鹿にしているのがちょっとムカつくが、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 一応全員のステータスを見てみる。

 うん、やっぱりどうしようもないわ。

 どいつもこいつも、俺より強いらしい。

 ま、そんなことはスキルを使う前からわかりきってたことだけど……。はぁ……。


 もうため息をつくぐらいしかやることがない。

 もう変態に売られる運命は決まったようなもんだ。

 チェスで言うチェックメイト。

 将棋で言う王手。

 絶望のあまり、足に力が入らなくなり、俺はへなへなと両ひざを地についた。

 その様子を見て、男たちは大きく笑った。


 やっぱり、どうしたって俺は運が悪いんだな。女神様から力を貰っても、何も変わらないじゃないか。

 涙がチョロチョロ出てきた。かつていた世界のことが、走馬灯のように思い出された。

 そして、これから起こるだろう恐ろしいことを想像し、身震いした。

 『そっち系』のおっさんにアレされるぐらいなら、あの時死んでおくんだった……。

 切実にそう思った。

 あの日、あの時、あの場所で起こったことを、といってもついさっきのことだが、俺の頭の中で、それが鮮明な映像となって思い出されていた。


 …

 ………

 …………………

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