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8、耳はやめてください

 あれから二日たった。アレキセー王子とはあれから恋人らしい事はあまりしていない。何故かと言えば……


「オルフェ、腕が落ちている。そこは滑らかに」

「は、はい!!」

「そこで着物の揺れを意識して綺麗に回る。つま先を意識して……」


 僕等はひたすら舞っていた。アレキセー王子の舞は動きは大きいのに凄く静かなんだ。同じ着物を着ているはずなのに舞った時の着物のひらひら感が全然違って凄く綺麗で上品に見える。なのに視線が外せない程力強い。メリハリを付けて緩急をつける。とアドバイスを貰ったけれど、その姿勢を維持出来ないんだよ。


「き、筋肉が……」

「筋力も付けなければならないな」

「はい」

「しかし二日で大分上達している」

「ほんとですか!!」


 僕は疲れてぐったりしてたのにアレキセー王子に褒められて飛び起きた。


「あぁ、一番変わったのは姿勢だな。縦の線が美しくなった。体幹を鍛えれば回った時の軸も安定してさらに良くなるだろう」

「頑張ります!!」


 アレキセー王子に微笑まれて僕の顔は嬉しさに緩む。頑張って良かった! もっと頑張ろう! 

 アレキセー王子と僕は今狛犬神楽の《動と静》を練習している。

 二日前のあの日、寮に帰って来た僕等は話し合ったのだ。


「身長差を生かすには《揃え》よりも《動と静》の方がいいだろう。お前は《動》向きだ。身長は小さいが舞の動きが派手だからな」

「え? 派手ですか?」

「あぁ。お前の舞の魅力は勢いと陽気さと溢れんばかりのその元気さだ。《揃え》でも舞えない事はないが、向いているのは《動と静》だな。お前が《動》俺が《静》で舞い《殺陣》を入れていく」


 狛犬神楽の舞には幾つか種類がある。同じ体型の二人が動きを揃えて舞う《揃え》これが一般的。そして動きが激しくオリジナル性が高い《動と静》だ。

 《動》とは舞の中でもアクロバティックな動きを担当する人。《静》は舞の要で動につられちゃいけない。ライル兄様と練習した時は《揃え》だった。


 《動と静》には見せ場の一つとして《殺陣》がある。刀や棒を使う人もいるけど、それは大人がやる事で僕等が許されているのは体術と扇子と布だ。


「今回は動きの基礎を学べる体術にする。今からやれば春祭りの試験には何とか間に合うだろう」

「春祭り!」


 この世界には四季のお祭りがある。その祭りに合わせて今年の学園の生徒達が舞いやダンスを披露し、その出来がそのまま試験結果となる。

 舞の演目から音楽、演出や衣装とすべて自分たちでしないといけないんだ。


「次の休日には街に出て衣装を作りに行こう。店は任せて貰ってもいいか?」

「はい!」

「帰りにお前のお薦めの【豆柴甘露亭(まめしばかんろてい)】に寄るか?」

「いいの!!」

「あぁ。構わない」

「ありがとう! あ!すみません言葉遣いが」

「崩して構わない。その方が好きだからな」


 言って優しく頭を撫でられた。かあっと顔が真っ赤になる。恥ずかしさで俯いていたら悪戯するように耳にキスされた。


「ひぃあっ! や、やめ……ッ!」


 アレキセー王子の唇から逃れようと耳をぴくぴく動かしてみたけれど結局掴まってはむはむされた。うぅ~なんかぞくぞくする。


「真っ赤だぞ」

「アレキセー王子!」

「体が冷える。風呂へ行ってこい。それとも一緒に入るか?」

「入りません!」


 揶揄ってくるアレキセー王子の悪戯な手を掻い潜って僕は赤い顔のままお風呂場へと逃げた。ひぁ~!

 お風呂に入った後で王子より先に従者が入っちゃダメじゃんと気付いて謝ったけどアレキセー王子は怒って無かった。良かった。


 次の日からの練習後、また先にお風呂に入れと言われたけれど、僕は従者だからアレキセー王子が先にと言ったら渋い顔をされた。アレキセー王子はどうしても僕を先に入れたいみたい。ちょっと恥ずかしいけど「じゃあ一緒に入りますか?」といったら「それは恋人としての誘いか」って返されて言葉に詰まってしまった。


 キスとか頭を撫でたりとかは平気なんだけど、裸となると僕の体は僕の意思に反して震えてしまうんだ。アレキセー王子は怖くないはずなのに。


「トラウマは深層心理に根付くものだ。すまない。少し虐め過ぎた」


 そう言ってアレキセー王子は震える僕の背中を撫でつつ黒い尻尾をもふもふさせてくれた。その後僕はアレキセー王子より先にお風呂に入った。


「恋人を甘やかしたいのだ。先に入れ」


 そう言われてしまえば僕の尻尾は嬉しさに揺れちゃう。ギュッとアレキセー王子に抱き付いてから僕は笑って頷いた。


 朝食後にジグナーさんが来た。僕宛ての荷物を持て。


「うわぁ! ごめんなさい。ありがとうございます」

「ついでですからいいですよ」


 荷物は実家からで、事件の事をすごく気にした手紙と僕を励ます為に豆柴甘露亭の黒茶と僕のお気に入りのお菓子がたっぷり入っていた。僕は早速黒茶とお菓子を持ってキッチンへ向かった。


「かふぇおれとお菓子をどうぞ」

「あぁ、気が利きますね」

「有り難うオルフェ」


 アレキセー王子とジグナーさんは今日城に届ける予定の書類の見直しをしていた。学園の勉強だけでなく、政務にも係わっている二人は大変だと思う。特にアレキセー王子は夜は僕との舞の特訓があるし……いつ寝ているんだろう。


「これは美味いな」

「こっちのお菓子も美味しいですね」


 二人が僕のお気に入りを褒めてくれた。アレキセー王子は普段、珈琲に砂糖やミルクは入れない。豆柴甘露亭の黒茶珈琲は味が濃いのに酸味や苦味が少ない。このかふぇおれの淹れ方は豆柴甘露亭の店主に教わったもので、癖がないのに甘すぎず飲みやすい。仕事で疲れた時にいいんじゃないかなぁと思ったんだ。


「このお菓子の名前は何というんですか?」

「【忍び恋桜】です。忍び恋シリーズの一つなんです。季節によって求肥の中に包まれる餡が違うんです」


 ジグナーさんはかなりお菓子が気に入ったみたい。忍び恋桜は求肥の薄い皮に桜色餡が入った一口サイズの和菓子で、求肥の上に透明な練り切りで桜の花がついているとても綺麗で美味しいお菓子だ。二人とも僕の好きな物を気に入ってくれたみたいで嬉しかった。


 朝の日課を終えて、授業へと行く。ぽかぽか陽気に僕は眠ってしまいそうになるけれどその度にアレキセー王子がこっちを見るからドキドキして眠れなくなった。う~勉強は苦手です。


 やっと座学から解放されて歌の授業。そこでちょっと微妙な事が起きたんだ。婚約者筆頭のサリビア・チワワが僕の歌い方を真似て歌ったんだけど……。


「サリビア・チワワ。そこまでです」

「なぜですか! まだ歌い終わっていませんわ!」

「聞くに堪えません。その歌い方は聞いてすぐ真似れるものではないのですよ。声を小さく出せばいいという訳ではありません。そんな蚊の鳴く様な音で棒読みの様なものを歌とは認められません。頭を冷やしなさい」


 歌の教師が言う通り、サリビア・チワワの歌は最初の頃の僕の歌にそっくりだった。だからわかる。いかにこの歌い方が難しいかを。悪いけどそう簡単に真似れないよ。


「君も怒るんだな」

「マリアーノ。うん。僕は歌には真剣だからね。中途半端に真似られると馬鹿にされたようで腹が立つんだ」

「まぁこの歌い方は他の人達には難しいだろうしな」

「マリアーノは歌える?」

「まぁ、それなりにな。だが君ほど得意じゃないし、何より僕は僕の歌が一番だと思っているから。それは君もだろう?」

「うん」

「おっ! どうやら呼ばれているようだぞ。本家本物を魅せてやればいい」

「うん!」


 そうして僕はいつもより気合を込めて歌った。歌は『妖桜(あやかしざくら)の恋隠れ』という歌だ。

 何年も何年も生きた桜が、何年も何年も囚われている幽霊を、花が満開になった満月の夜に天へと還す約束をした。そうして迎えた満月の夜。幽霊は桜に見送られ天に還る。そして幽霊が完全に消えた後、桜はその身を闇に落とした。それが月との約束だから。桜は幽霊を愛していた。だから天に還したのだった。


 長い歌だけれど歌い終わるとその場にいたほとんどの人が泣いていた。教師は号泣でその後は授業にならない為自習時間となった。

 クラスメートに囲まれそうになったが、アレキセー王子が側に来たらサァーっと人垣が割れた。涙と鼻水を拭きもせず突出してきたクラスメート達に僕は完全にビビってたから凄く助かった。感動してくれたのは嬉しかったけれど。


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