7、僕等交換しちゃったね
部屋を出た中庭のベンチに腰かける。マリアーノは結構せっかちらしくて早々に話し出した。
「オルフェ、回りくどいのは嫌いなんだ。率直に聞くが君も転生者だろう?」
「うん。でも僕の記憶はアレキセー王子のエンディングと、歌しかなかったんだ。もう前世の記憶は消えてしまっていて……攻略者とかイベント何も覚えていないんだ」
「あぁ、それなら問題ない。一人以外は全て解決済みだよ」
「え? そうなの? ヒロインてすごいね」
「何を言っている。解決したのは君だよ」
「えぇ!!僕何もしてないよ!!」
驚きに思わず立ち上がって尻尾を立てた。速攻手を引いて座らされる。僕、何かしたっけ?攻略対象者にはアレキセー王子にしか会っていないと思うけど……。どこかで会った? でも僕引きこもりだったし。
「まず一人目の攻略者のアレキセー王子だけど、君が男の格好で愛の歌を歌ったから問題は解決している。彼の問題はオルフェがオルフェアという女だったから起きた問題だ」
「もう少し詳しく知りたいんだけど……」
「そうだね、あえて言うなら初恋と今の恋との間に揺れ動いたって感じだろうね。まぁ余計な事を知らない方が君はうまくいくよ。婚約まだなんだろう? ならまだ完全には解決してない。サリビア・チワワもいるしな」
うぅ、僕なんで忘れちゃったんだろう?
解決してないって言葉に揺らぐ。アレキセー王子こそ解決してて欲しかった!
でも男の格好で来て本当に良かった。ふと、昨日付けられた所有印とキスを思い出して赤くなる。
「あぁ、でも上手くいってるんだね。僕は応援するから安心して王子を仕留めればいいよ」
「そんな、獲物みたいな……」
「似た様なものだろう? ちゃんと仕留めていないとサリビア・チワワに持って行かれるぞ。アイツ結構あくどいからな。何かあったら僕に相談するんだよ」
「う、うん。わかった。ありがとう」
ヒロインのマリアーノはヒーローみたいにかっこよかった。
「次にジグナー・ボーダーコリー。彼は王子の問題に振り回されて疲れている所をヒロインに癒される」
「え?ジグナーさんも攻略対象者だったの?」
「あぁ、王子の婚約者問題で悩んでて『毒を食らわば皿までと申しますし、貴女は私についてきなさい』ってドS全開の腹黒ナンバー2だったぞ」
「ジグナーさん優しいよ?」
「君は優しいの範囲が広そうだな。まぁとにかく君が王子の相手に納まったからジグナーの問題も解決だ」
他の攻略対象者は僕の知らない人だった。
アンドリュ・レトリバーは小さい頃に歌の天才ともてはやされたが、オルフェアの歌を聞いた彼の父がオルフェアを褒めずっとオルフェアの様に歌えと比べられて育つ。それによって歪んだ闇をヒロインが癒すのだが、オルフェは身内以外の人前で歌っていないので、彼の父がオルフェの歌を聴くことはなく、アンドリュは比べられる愛情不足に陥ること無く普通に育っている。
「ファンの間ではこのエロ親父はオルフェアに惚れていたと専ら叩かれていたよ。引きこもっていて正解だったな」
「うん」
「そうそうブライアム・シェパードも攻略対象者だぞ」
「ブライアムも!?」
「あぁ、彼はオルフェアに一目惚れしてしまい苦悩するのだが、彼はあくまでも淑女のオルフェアに惚れたのであって今の少年オルフェが好きなわけではないようだ。良かったな」
僕はマリアーノの言葉にコクコク頷いた。
「攻略対象者の一人チェイス・プードルは最も君に救われた攻略対象者だ。彼は入寮の日に同室者にレイプされそうになる。普段ならばそれなりに見た目に反して強いので跳ねのけられるのだが、その日は体調を崩してな。それが彼の闇なのだが、オルフェが男のまま入寮しただろう? それによって同室者が代わった彼に傷は無い。君には災難だったがな。今はもう大丈夫か?」
「うん。アレキセー王子もいるし、ジグナーさんが部屋を変わってくれたから」
「そうか」
そう言ってマリアーノは僕の頭を撫でてくれた。撫でられるのが気持ちよくてふふって笑ったらマリアーノに微笑まれた。何か恥ずかしい!
「それとカザルスア・ピットブルも攻略対象者だ」
「え! あの人も?」
「あぁ」
「趣味悪いね」
「悪びれた不良が好きな人もいるのさ。彼はこの学校にありとあらゆるトラブルを巻き起こすのだが、君が乱暴された事により強制退場させられているからな。イベントはもう起こらないだろう。すべてのイベントは彼が仕組んだ事だからだ。衣装を台無しにされたり、乱暴を働かされそうになったりとにかく自分の思い通りにいかないヒロインを虐めまくったのさ。この虐めを全てオルフェアがヒロインにした事になっていてな。好きな子ほど虐めたいってやつらしい」
「理解できない」
「同感だ」
同意するマリアーノに、僕は彼女とはゲーム関係なく友人になれると思った。それはマリアーノも同じらしくて笑い合う。「可愛な」と呟かれて、出来れば格好いいにしてと言いたかったけど、二人並ぶと明らかにマリアーノの方が格好良かった。
「そうしょげるな。僕が格好いいのは僕の努力だよ」
「ごめん」
「いいさ。誉められたからな。最後の隠れキャラはヒロインのサポートキャラで同室のヨナムール・ドーベルマン」
「え? 待って、マリアーノと同室って事は女の子なの?」
「いいや、彼は男だよ」
「えぇぇ!!!」
まだ少ししか共にいないクラスメートを思い出すが、そこに不自然な女装の人なんていなかったよ。マリアーノも含めて性別不明者が多すぎない? 人は見た目じゃわから無いんだね。
「彼は実は猫と犬のハーフでな。自国での名前はヨナムール・ボンベイ。小さな黒豹と呼ばれる猫だ。猫国では王族が豹だ。影武者をしていた母親が命を狙われたので犬国に隠れにきたのさ。その時犬国のドーベルマンと恋に落ちて生まれたのがヨナムールだ。顔や性格は両親どちらの性質も受け継ぐが種族はどちらか1つに絞って生まれてくる。ヨナムールはドーベルマンで生まれてきた為犬国にいるんだ」
「寂しくないのかな?」
「それがな、猫の親の方に性格は似てしまったらしくてな。スリルが大好きなんだよ。顔も綺麗系だったし忍びの試験もかねて女装し令嬢として過ごしているのだと言っていたぞ。女装しているからオルフェアが男だと気付いたのさ。それをヒロインに教え断罪のきっかけを作ったキーマンがヨナムールだ」
悪戯好きな隠れキャラはヒロインの本命らしく、ガンガン口説くから手を出すなと念を押された。
「応援してるよ」
「あぁ、共に仕留めような」
「うん」
結果僕がありのままの僕でいた事でトラブルは全て解決してしまっていた。オルフェアの影響力の凄さにちょっと背筋が凍った。僕は二度と女装しないと誓ったのだった。
話が一段落すると中庭にアレキセー王子が現れた。
「アレキセー王子!」
思わず立ち上がるとマリアーノがクスクス笑いながら「行っておいで」と送り出してくれた。僕はマリアーノに笑い返して、アレキセー王子の元に走って行った。
「もう話はいいのか?」
「はい」
「では神楽舞の申し込みに行くぞ」
神楽舞は同性同士で踊る舞いの事だ。たしかアレキセー王子はサリビア・チワワといた筈で……
「ワルツじゃないのですか?」
「今の女とワルツを踊る予定でもあったのか?」
「いいえ。でも、サリビア・チワワといたので……」
「断った。お前が居るのに何故好きでもない女と踊らなくてはならない。お前こそあの女に誘われたのだろう?」
「いいえ。マリアーノは友人で……彼女には思い人がちゃんといますから」
「あの女に思い人がいなければ受けたのか?」
「違います!」
そんな意味で言ったんじゃないって思って顔を上げたらアレキセー王子は怒っていなかった。
「誰と踊りたいんだ?」
そう聞かれてあっと気が付いた。
「アレキセー王子と……僕も、好きな人と踊りたいです」
うわぁぁなんかすごく照れるぅぅ。でも反応が気になって顔を上げたらアレキセー王子がキラキラ全開な笑顔で思わずポカーンと見惚れてしまった。
その後二人で舞を踊りにホールへ行ったけれど……
「動きを揃える事もですが、お二人の舞にはだいぶ実力差があるようですね。オルフェ・ビーグル、貴方の舞は一応合格点には達していますが舞いは揃えてこそです。精進なさい」
「はい」
アレキセー王子の相手はライル兄様との練習だけでは務まりませんでした。
「そう気を落とすな。練習には付き合ってやろう」
安定剤の王子の尻尾と共に励ましの言葉を貰い、僕はもふもふしながら「お願いします」と頼んだのだった。
お読み頂き有り難う御座います。
次話からまだ書き上げていない為更新ゆっくりになります。
待っていてくれると嬉しいです。
藍蜜紗成