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6、ヒロインってヒーローにもなれたんだねぇ

  翌日、いつもの時間に目覚めた僕はお茶の準備を終えるとアレキセー王子を起こしに行った。従者の仕事を出来る事だけでもこなそうと思ったのだ。


「アレキセー王子、朝ですよ。起きてくッうわッ!!」


 腕を引かれてそのまま抱き込まれる。唇が裸の胸に当たって、アレキセー王子が上半身裸な事に気が付いた。


 な、何で裸なの?というかこの足にあたってるのって……

 抱き込まれた拍子に僕の足にアレキセー王子の雄があたる。何とかずらそうともがくが、体格差なのだろう僕の腕も足もびくともしなかった。


 ひぃぃやぁ!どうしよう!と生理現象だと理解していても、僕は沸き上がる羞恥にパニックになる。


「アレキセー王子!! 起きてください!!」

「目覚めのキスを」

「え? え?」


 意外としっかりした声に、起きていたのかと羞恥が倍増した。


「してくれないのか? ならば休むか」

「だ、ダメです!! 今日は入学式ですよ!」

「あぁ、しかししてくれないのだろう?なら休む。学園にはオルフェがキスをしてくれないから行けないと話すさ」

「なッそんな! うぅ~」


  どうしよう。恥ずかしいし、恥ずかしい!! 大体どこにキスすればいいんだろう。あぁ~でもどこでも恥ずかしい事には変わりない。キスなんて僕はアレキセー王子としかしたことがないけど。王子は違うんだろうなぁ。ツキンと嫉妬で胸が痛む。アレキセー王子の肌が目に写って、そっと目の前の胸にキスをした。


 《所有印の場所》だ。恥ずかしさで真っ赤で顔を上げられない。僕にとってこのキスは大した事なんだ。だって好きな人にしているんだから。でも痕は残せなかった。


「有り難うオルフェ」


 そう言って嬉し気に笑うアレキセー王子に僕は少しだけやっぱり痕を残せばよかったと思った。



 入学式は一時間程度で終わる。学園は一年だけなので一クラスしかない。席について自己紹介を終えた後早速歌の授業となり教室を移動した。


 歌の教師がまずは各々の実力を見ますといい、名前を呼ばれた順に歌を披露していく。同じ歌ではつまらないと生徒から歌う人へリクエストをさせ始めた。ここにいるのは貴族が殆どだから茶会や狩りでリクエストする方もされる方も慣れている様だった。


 いよいよ僕の番だ。何をリクエストされるのかと思ったらアレキセー王子に『真昼の月』をリクエストされ顔が赤くなる。


 これは恋の告白の歌の一つ。OKならば相手は対の歌を歌い、ダメならその場を去る。どうして今これをリクエスト?と戸惑う。昨日の『十六夜』を思い出して赤くなる。けれどリクエストはそのまま通ってしまい、僕は教師の伴奏を断って自分でピアノを奏でた。あれだけ緊張していたのに歌い出してしまえば忘れてしまう。


 歌い始めてすぐ周りは僕の歌にざわついた。教師は思わず席を立って呆然とこちらを見ている。けれどざわめきも驚きも長くは続かず皆聞きほれて甘い歌声に酔った。僕はアレキセー王子だけを見ながら歌を紡ぐ。

 アレキセー王子も僕だけを見続けてくれた。


『真昼の月』

  《思い焦がれて真昼の月 触れぬ君を写し泣く 愛し愛しと泣く月夜 真昼の月を思い泣く》


 歌が終わると伴奏中にアレキセー王子が近づいてきてピアノに手を掛けられた。求められた事を察し僕はそのまま対の歌の伴奏を続ける。アレキセー王子の声が響いた。


『闇夜の月』

  《思い募りし闇夜の月 流る涙を拭い乞う 愛し焦がれて真昼月 月夜の涙を思い泣く 》


 アレキセー王子の朗々と響く声は伸びやかに強く、冴え冴えとした広野に響く遠吠えの様だった。膝を折り、全てを委ねてしまいたくなる。


 繰り返す後半のサビで王子と目が合い、共にと乞われた。僕はそっとハモりを入れる。強く情熱的なアレキセー王子の声に、僕の切なく艶やかな声が絡み絶妙なハーモニーが生まれる。僕等の声は合っていて心地よく共鳴し、聞くものをあっという間に虜にした。


「見事だ。オルフェ」

「アレキセー王子もすごく素敵でした」


 僕等の歌に教師も生徒も大興奮だったけど、次歌う人がいない。教師も僕等の後では歌いずらいかと思ったらしく困っていたら一人の男性が前に進み出た。


「マリアーノ・パピオンと申します。もし宜しければ僕が歌ってもいいかな?」


 僕はその名前を聞いて叫び出しそうになった。だってマリアーノ・パピオンはヒロインの名前だ。ヒロインは小さくて儚くて守ってあげたくなる様な女の子だった筈なのに。目の前のヒロインは結構背が高くて男装していてどこからどう見ても美少年にしか見えなかった。


「マリアーノ・パピオン。制服はどうしたのですか?」

「ちゃんと着ておりますが、何か問題でも?」

「貴女は女の子でしょう?」

「えぇ、規則には制服を着用するようにと書いてありましたが、どの制服を着用するかまでは書かれておりませんでしたので。僕は僕が一番魅力的に映る制服を選びました。似合いますでしょう?」


 そう言ってマリアーノは教師の手の甲に軽く挨拶のキスをした。きゃあ!と周りが騒めく。その動作も見た目も王子様みたいで違和感がない。教師は赤い顔のまま「規則内です。問題ありません。認めましょう」と言っていた。


「有り難う御座います」


 ニッコリと笑うマリアーノに周りの女子が色めいた。ヒロイン効果なのかな。この学院で一番女子にモテているみたいに見えるよ。ヒロインなのに。


 マリアーノは歌いたい歌があると言ってリクエストを断ると、パァンと声を張って歌い始めた。


『我が道に華を』

 《我が道は華に溢れる 喜びの讃歌。栄華の華道。我が道に憂い無し 我が道は華に溢れる》


 そうして歌い始めた歌は婚約者筆頭候補つまりオルフェアの十八番だった。マリアーノの声は高音でありながら張りがあってまるでミュージカルの様に華やかだった。ゲームの時とは歌い方も歌も性格も違う。歌い終えたマリアーノがこちらに来た。


「ダンスパートナー選びの時に話そう」

「う、うん」


 僕も話したいと思ったから頷いた。多分マリアーノは僕と同じだ。日本の記憶を持っているに違いない。それはお互いがそう思ったみたいで僕等は顔を寄せてクスクスと笑った。

 その気安い二人にアレキセー王子が「初対面ではないのか?」と声を漏らしたが、マリアーノを見ていた僕に呟きは小さすぎて届かなかった。


 歌の授業を終え、今度はダンスの教師がきた。


「休憩を取ります。次はダンスと舞いです。どちらでも構いません。パートナーを選んでください。決まった方からこちらのホールへ来てくださいね」


 その言葉と共に教師はホールへと移動する。休憩に散らばる生徒の波に乗ってマリアーノがこちらに来た。目の端でアレキセー王子のもとに今一番王子の婚約者に近い人と言われているサリビア・チワワが寄っていくのが見えたけれどマリアーノに促されてその場を離れた。人が多い場所だと話せない。後ろ髪を引かれつつもアレキセー王子がサリビアのダンスの申し出を受ける所を見たくなくて教室を出た。





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