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番外編 リバーシブルラバー ヨナムールとマリアーノの巻

大変お待たせ致しました。

待っていてくれて有り難う御座います。

楽しんでくれたら嬉しいです。

 今は少し肌寒さを感じるようになってきた十月。

 俺は四月から力試しと退屈しのぎに、性別を偽ってドドック学園に来ていた。犬と猫の混血な俺だが犬として生まれた為それなりに上手くやっている。たまに猫の血が騒ぐけどな。


 この国には忍の一族が住んでいて前々から住むなら犬国と決めていた。猫国は楽しいことは大好きだが自ら動いて誰かを楽しませようという考えを持つ者が少ない。つまり娯楽が少ないのだ。


「あっちは気を抜くと昼寝で一日が終わるからな」


 犬の血をひいていなければ、犬国には住めない。混血でよかった。猫国だと暇すぎて死んでしまうからな。

 俺は食事と風呂を終えて今日昼間に買って来たばかりのお菓子【豆柴忍々シリーズ】の巻物を自室の机に並べた。


「おっ! レア物」


 今日は同室者が実家の用事で帰っている為久々に男として過ごせる。といっても寝間着は女性物しか持って来ていない。ぼろが出るとまずいからな。

 キラキラ輝く巻物を眺めてていると、今日泊りのはずの同室者の変人が帰って来た。


「ただいまヨナムール」

「……お帰りなさい。今日は外泊予定ではありませんでしたか?」


 同室者のマリアーノは控えめに言って変人だ。女子でありながら男装している。しかもその完成度はとても高く、たまにマリアーノを男子と間違えそうになる。顔は元々整っていたのだろう。男装の麗人マリアーノには少年特有の澄んだ色気がある。


「平静でいられなくてな。何よりヨナムールに会いたくて帰って来た」

「……毎日会っていて飽きませんか?」

「全然。むしろ足りないよ。ヨナムールを好きな気持ちは日に日に増しているからね」


 そう言ってマリアーノは服を無造作に脱ぎだした。マリアーノは会った時からずっとこうして口説いてくる。こんなのを毎日毎日言われていたら意識もしてしまうだろう。変人でも。


 狭い一部屋の中でマリアーノの着替えは進んでいく。つい、視線がいってしまう。


「マリアーノ。はしたないですわ。せめて後ろを向いてお着替えなさい」

「まぁ、いいじゃないか」


 入学当初はマリアーノの着替えを見ても男の着替えを見ている様でときめきは無かった。だけどいつからだろうか、男の様なマリアーノの着替えを見るのに妙な背徳感を感じるようになった。男の着替えに欲情するようになるなんて……と考えて否、マリアーノは女だ。と訂正する。


 風呂には入って来たらしく清涼感のある香りがマリアーノが動く度に香った。胸や尻など、女性らしい場所よりも、マリアーノは首筋から手までのラインが艶めかしい。


「クッソ」


 体が反応しかけたのに小声で悪態をつく。俺は女が好きな筈なのに。背徳感と罪悪感を持つのはおかしいと思うが、持ってしまうのだから仕方が無い。同性愛は普通の事だが数が少ないし、まず周りには異性愛者しかいなかった。俺は女が好きなんだ、と言い訳してマリアーノが女な事を思い出す。何ともややこしい。


「……お茶を飲みますか?」

「あぁ、有り難う」


 駄目だ、少し頭を冷やそう。視線を無理矢理引きはがしてお茶を入れに行った。

 戻ってくると寝間着に着替えたマリアーノが項垂れていた。どうしたのだろうか?いつも元気な人が静かだと気になる。


「マリアーノ。どうかしましたか?」


 目の前にお茶を置いて椅子に腰かけ聞いた。


「ヨナムール」


 思い詰めた様な顔で名前を呼ばれる。今度はどんな厄介事だ?またオルフェ関係か?だが今日は実家に行っていたはずだ。なら実家で何かがあったのだろう。

 マリアーノは確かに変人だか俺は結構気に入ってる。こいつにこんな顔させるなんてよっぽどの事だろう。

 聞く体制になって待っていた俺の耳に飛び込んできた言葉は、予想の上を行くお願いごとだった。


「なぁヨナムール。僕の処女を貰ってくれないだろうか」

「……は?」


 何を言い出すんだこいつは。結婚相手でもない者に処女を捧げるなんて。正気か? 貴族の女性にはまだ根強く未婚の女性は処女であるべきという処女性が残っている。昔よりは自由度も高くなったそうだが。それでも犬族の貴族の中にはそういう古い考えも多いと聞く。猫国では問題ないがな。


「それは将来嫁ぐ先の殿方のものです。それが嫌だという気持ちもわかりますが、なのであればせめて好きな殿方に頼みなさい。第一私は女ですよ」

「君は猫族とのハーフで本当は男だろう?」


 マリアーノの返事にとっさに言葉が出て来なかった。秘密が二つもばれているのだ。疑問符はついていたが確信を持った声だった。いつだ?いつ?風呂で?いいやそれは無い。男子寮と違って女子寮の風呂は完全個室だ。

 男な事がばれるのはまぁ可能性としてなくはない。だが混血がばれたのは何故だ?どこから……


「何を言っているのかわかりませんね」


 悠然と微笑み答えた。

 けれど、マリアーノは退かない。


「僕は本気だよ。君が好きだ。僕の処女を貰って欲しい」

「……そのような、迷い事を言うものではありませんわ」


 マリアーノの告白にドキッとした。マリアーノの告白はいつものことだけれど、それはとても軽い口調で、俺が言葉に詰まったりするとすぐに流すようなやり取りだった。こんな、重いモノは知らない。

 このドキドキは動揺だ。ときめきじゃない。絆されてなんていない。しっかりしろ。


「ヨナムールへの思いだけには僕は嘘をつかないよ。好きだよ、ヨナムール」

「っ!」


 無駄にイケメンなマリアーノの告白に赤くなりそうなのを誤魔化した。俺はホモじゃない。あぁ、でもマリアーノは女性で、でも何かもう男性に告白されているようにしか思えない。おかしい。無言のまま混乱しているとマリアーノが切なそうな眼差しでこちらを見てきた。罪悪感が……


「僕は遠くない未来にマスティフ侯爵家に嫁ぐだろう」

「マスティフ侯爵?かなりの御年配で四人の奥方がいらっしゃる方ですね。私もお会いした事がありますがあまりいい噂は聞きませんわ。跡継ぎもいらっしゃいますし。お断りできませんの?」


 相手の名前を聞いて無理だと思いつつも思わず断ることを提案してしまう。子が出来なくて若い嫁を娶る話はよく聞く。だがマリアーノの場合は完全に体目的の性処理だろう。

 マスティフは色欲じじいと噂されるほど色狂いの変態だ。ヤツの舐める様な視線を思い出し震えが走った。


「僕の家は男爵家だからね。父も母も断ろうとして頑張ってくれたがどうにもならないんだ。卒業と共に結婚さ。好きでもない者に嫁ぐんだ、処女くらい好きな人に捧げても許されるだろう?」


 相手を聞いてしまうと強く突き放すのもはばかられる。正直同情する。それにそんな奴がマリアーノの体に触れる事が我慢ならない。だが抱いたところで一度きりだろう?


「王子は……」


 コネでどうにか出来ないのか?と言いかけたがマリアーノは首を振ってそれを拒否した。


「お願いだ、ヨナムール。それ以上は望まない。君が男である事を黙っている口止め料だと思えばいい」


 そう言われてカッと怒りが沸いた。俺が口止めで友の処女を奪うような奴だと? 

 その言葉の中の真意を理解できない訳ではない。だが今抱けばその理由で手を出したことになる。

 一度きりの使いきりと変わらない。それは嫌だと思った所で気が付いた。


「マジか……」思わず口の中だけで呟く。どうやら俺は既にマリアーノに落ちているらしい。


「ヨナムール。頼む。思い出が……欲しいんだ」

「嫌です」


 自覚した途端過去にされそうになり、残虐性が顔を出す。

 マリアーノの顔が悲しみに歪む。そう言えばまだ泣き顔を見たことがなかったな。そう思ったら好奇心が止まらなくなった。泣かせてみたい。どう言えば泣くだろうか?


「私は貴女を愛していませんよ?」

「……知っている」


 突き放すようにいえば、マリアーノが片手で顔を覆って項垂れた。泣く寸前の、痛みを堪えた顔は美しかったが傷つけすぎたと自覚すると凄まじい後悔が襲ってきた。何をしているんだ俺は。


「出来ればその言葉は聞きたくなかったな。でも、そうだね、望まぬ行為は強姦と変わらない。すまないヨナムール。もう言わないよ。君の秘密も黙っていると誓おう。すまなかった」


 動揺しているうちにチャンスを逃してしまう。しかも先に謝られてしまった。更に傷を増やしたのにだ。会話を終わろうとするマリアーノを引き留める様に話しかけた。


「必ず貴方がマスティフ侯爵家に嫁ぐとは限らないでしょう?」

「いや、ほぼ決定だよ。この前の茶会でマスティフ侯爵は僕に一目惚れをしてしまったらしい」

「厄介な」

「マスティフ侯爵は娶った妻をある程度抱いて飽きたら他の貴族への賄賂として使うのさ。どうせこの先望まぬ性行為を強いられ続けるならせめて最初だけでも好きな人とと夢を見たのだ。強要したら同じ事なのにな」


 自嘲気味に笑うマリアーノ。もう寝ようとベッドへ入ろうとするマリアーノに声をかけた。


「仮に、私が男性だとしたら。私は私のベッドに入ってきた女を抱きますよ」


 それでも試すような言葉になってしまう。抱いていいと一度目の前にあるご馳走をちらつかせられて理由が気に入らないからと断っておきながら、それでもあっさりとは引き下がれない。獲物が好物ならなおさら。

 マリアーノは苦笑いしてこちらを向いた。


「それは願ったり叶ったりだ。だが僕は望まぬ性行為はしないよ。ただ……」

「何です?」

「一緒に、その、寝てくれるなら有難い。今夜は、とても……弱っているから」


 目を伏せて儚げに言われ……完全に落ちた。あぁ、もうこれは絶対に手に入れよう。


「仕方がないですね」


 そう言いながら俺はマリアーノのベッドへと移動してそこに寝転んだ。


「マリアーノ」

「ッ」


 いつもの女声より少し低い地声で前を呼ぶと、マリアーノが赤くなった。その様が可愛いく見えて狼狽える。動揺を誤魔化すようにマリアーノの手を引いて布団に引きずり込んだ。


「ヨ、ヨナムール」

「お前の慌てる様は気分がいいな。今日は特別だ。寝ろ」


 地声で言葉遣いも本来のものに戻し言うとマリアーノは目に見えて慌てた。その様子に満足する。布団をかぶせてやると、マリアーノは赤くなったまま小声で礼を言ってきた。

 それに萌えて結局その夜徹夜したのは言うまでもない。


 寝られるはずがないからな。意識を反らす為に考えていたのはマスティフ侯爵の葬り方だ。

 嫁ぎ先が亡くなればマリアーノは自由だ。マリアーノは学園を卒業したら俺が娶る。


「久々に腕が鳴る」


 両親仕込みの暗術と根回し、それに万が一の為に家にも連絡を入れておこう。家に連絡を入れないとターゲットの命が危ないからな。マスティフは社会的に葬るだけにする。命の方は国の法しだいだろう。

 もっともマリアーノが言っていたあのマスティフの噂は黒だ。


 マスティフ家の茶会に招待された時、父が事前に仕入れてきた情報と同じだったからだ。その情報を掴める腕がある諜報員がいるのなら、俺の秘密が二つばれていたのも頷ける。よくよく考えてみればマリアーノの親戚の豆柴甘露亭は全員が忍びだ。忍びの本職は諜報だからな。

 まぁあんだけオープンな忍びも珍しいとは思うが。


「所詮は同じ穴のってやつか」


 何の警戒もなく眠るマリアーノの額にキスをして俺はやるべきことの計画を練っていった。



まだ続きます。

続きは体調がよければ近いうちにアップ致します。

藍蜜紗成



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