番外編 ブライアム・シェパードの悩みゴト
夏も終わりそろそろ秋が始まろうかという九月始め。外の訓練場へ向かう途中に立ちくらみを起こした。
「ッ!」
側にあった木の根元に座り込む。ギラギラとした日差しが遮られ秋の色濃い涼しい風に暫し目を閉じた。
「最近、ろくに寝れていなかったからな」
それもこれもあの同室者のせいである。俺の同室者のジグナーは本当にろくでもない奴だと思う。ジグナーはわかりやすい嫌がらせをするという事は無い、ただ無駄に色っぽいのだ。こちとら健全な青少年なんだ。やりたい盛りにそんな色気を振りまかれては妙な気も起きるというものだ。
しかもジグナーの場合は俺が余裕をなくすのをわかってしている。最悪だ。
俺が好きなタイプは可愛くて優しくて小さくて可憐な……そうだな、オルフェが女なら理想だが、どんなにタイプでも男は論外だ。そう論外なのだ。
「なのに何でタイプでもないジグナーにだけ反応すんだ……」
自分が自分でわからない。ため息をつき項垂れると、目の前に羽化したばかりの蝉がいた。
「ずいぶんゆっくりな目覚めだな」
ここに居ては間違えて踏まれてしまうだろうと、木のそばに移した。
「今日はこのままここで休もう」
授業は欠席となるが、今日は授業のパートナーでもあるジグナーも仕事でいない。
俺はそのまま目を閉じて眠った。
フッと目覚めればちょうど授業が終わる時間。夢も見ずに眠った。久し振りの深い眠りに体が軽い。
「さて、先ずは欠席理由を話してそれから飯だな」
職員室を目指して歩き出した。
欠席理由を話すと怒られる事も無かった。最近の体調不良は教師も知っていたからだ。
「オルフェ・ビーグル達が心配していたぞ。保健室で休んでいると伝えてある」
次は保健室を利用するようにと教師に言われた。
「はい。有り難う御座います。失礼致します」
職員室を終えて俺はそのまま予定通り、食堂へ向かった。
「ブライアム大丈夫?」
「あぁ、今昼か?」
食堂へ着くとオルフェが話しかけてきた。昼のピークを過ぎた食堂は空席が目立つ。
「さっきアレキセー王子とジグナーさんが戻ってきたんだよ。ブライアムも一緒に食べよう」
言うだけ言ってオルフェは王子とジグナーがいる場所へ戻って行った。
先程まで考えていた寝不足の原因も一緒だが、まぁどうせ同室なので今さらだ。
直ぐにできる食事を注文しそれを持ってオルフェ達の元へ行った。
「あれ?ブライアム。倒れたのにカツ丼って食べられるの?」
オルフェが俺の昼食を見て話しかけてきた。
「問題ない。ただの寝不足だし、さっき少し寝たからな」
「寝不足? どうして?」
「……暑かったからな」
寝不足の理由を聞かれて、目の前に座るジグナーを見かけて止まった。無難な答えを返す。
いただきますをして食事を開始すると、王子が教師に呼ばれ席を離れた。
王子の食事はすでに終わっている。心配そうに見守るオルフェ。
「心配ありませんよ。特に問題は起きていませんから」
ジグナーが言うが、オルフェの表情は晴れない。
ふと、先程の蝉を思い出した。
「そういえば訓練棟に行く途中羽化したばかりのまだ柔らかい蝉が道にいてな」
「蝉? もう夏も終わるのに?」
「あぁ」
オルフェの視線が上向いたところで思いもよらない事をジグナーが言ってきた。
「ちゃんと殺してきましたか?」
「「は?」」
思わずオルフェと二人でジグナーを見た。正気か?
「何を驚いているんですか?」
「いや、だってまだ生まれたてだぞ?……しかも蝉は一週間しか生きられないんだぞ?」
「こんな近くで一週間も鳴かれては煩いでしょう。サクッと殺ッてきなさい」
淡々と告げるジグナーにオルフェが「でも」と否を唱える。
「か、かわいそうだよ?」
「一週間早まるだけです」
一週間しか生きられないって言ってんだろうが。無慈悲か!
「何の話だ?」
オルフェと二人で絶句してると王子が戻ってきた。
「蝉を殺す話です」
「「え?」」
間髪入れず返したジグナーの答えにオルフェと二人で首を振った。断じてそんな話はしていない。
「オルフェ達が不服そうな顔をしているぞ」
「サクッと殺れと言ったところお二人はじわじわ殺したいそうで」
どこまでも誤解を呼ぶジグナーの説明に、オルフェが慌てて誤解だといい募った。
「ご、誤解だよ!! 蝉を生かす話をしていたんだよ!!」
「わかっている。ジグナーは蝉が嫌いだからな。殺して来いと言われたんだろう?」
「生まれたてをな」
非情さを告げたらいつもの事だと言われた。
「王子付きの性格がこんなに歪んでいていいのか?」
残り少ないカツ丼を食べ終えて言えば、食事を終えたジグナーが応戦してきた。
「虫も殺せぬ生真面目一辺倒の甘ちゃん坊ちゃんよりよほどいいと思いますが?」
「はぁ? 虫とはいえ命をもて遊ぶ鬼畜クズ野郎よりずっとマシだと思うぞ?」
「言いますね」
「生真面目だからな」
「その割には頭が悪そうで」
「お前は頭が重くてどんくさそうだな」
いつも部屋でしている会話のノリで言い合いをしていく。
「・・・・・」
「・・・・・」
しばし、双方ともにらみ合った。こうして見るとジグナーは綺麗な顔をしているなと思う。が、しかし男だ。俺は可愛い女が好きなんだ。血迷うな俺。
「王子、ちょっとこのお坊ちゃんとお話し合いをして来ます」
「王子、すまんがオルフェを頼む」
「程々にな」
王子に後を頼んで食べ終えた食器を下げに歩き出すと、不本意ながらジグナーと並ぶ形になる。
ジグナーがこちらを睨んでくるが、俺だってわざとじゃない。行く先が同じだけだ。
早足になりかけて、背後のオルフェ達の会話が耳に入ってきた。
「大丈夫かな? 僕止めに行ってきます」
「待て。奴等はあれで仲良がいいから心配いらない。あれは秘密の奴等なりの《話し愛》だ。たまに《ド突き愛》をしているが気にしなくていい」
「愛?」
「そうだ」
んな訳あるかぁー!! カチャリとジグナーと同時に食器を返す。
「秘密の恋ですか?」
「そうだ。応援してやるといい」
「はい!!」
背後の会話を聞いて、キラキラした目のオルフェが容易に想像出来てしまった。
それは隣のジグナーも同じらしく、完全に頭を抱えている。
「王子、後で覚えていて下さい」
「お前んとこの王子とんでもねぇな」
後日オルフェから恋の応援と「二人はどちらが、その、受け身なの? 僕相談があって」と恥じらって言われ、ジグナーと二人頭を抱えた。
その後どちらが上か下かで揉めたが、まぁそれはまたの話だ。
【終】
お読み頂きありがとうございました。
更新を待っていてくれて本当に有り難う御座います。
そして待っていてくれた皆様と大切な戦友への活力となりますように。
また、支えてくれた染屋と忍者に応援とお祝いを。
藍蜜紗成




