最終話、繋ぎ手にキスを
月の番を知った日からしばらく僕はたびたびマリアーノからお猪口れーとを盛られる事があったけど、おおむね日々は平和に過ぎて行った。
豆柴甘露亭の店長の誘拐事件もちゃんと解決して、サリビア・チワワは学園を去っていった。秋祭りを堪能して、お頭の進化カードで遊んで、マリアーノ達とわいわい騒いで笑ってそんな日常は凄く凄くキラキラしてて楽しかった。
冬に入ってマリアーノの事でひと悶着あったけれどヨナムールが解決していた。
「完全に想定外だ」って零していたけど、大丈夫マリアーノはいつも想定外なことばっかりする人だからね。そのうち慣れるよ。うん。
ジグナーさんとブライアムも幸せになって欲しいと思う。僕は応援しているよ!
皆と過ごした一年間はあっという間で、アレキセー王子の体つきもあっという間に大人になってしまった。僕の成長期はいったいどこに行ったんだろう。豆柴甘露亭の店長、身長伸びる新製品つくってくれないかなぁ。
色々あって迎えた冬祭りの卒業式。
僕等は成人を迎えた。卒業歌は《我が道に華を》マリアーノの十八番だった歌を皆で合唱した。これが最後の卒業試験となり、結果は勿論全員合格だった。そうして迎えた冬休み。一年世話になった寮を掃除して退寮しそれぞれが自領の家に帰る。
「オルフェ春になるまでしばしの別れだな」
「マリアーノは豆柴甘露亭に就職するんでしょう?」
「あぁ。オルフェは城の音楽家になるんだろう? 王子は今まで通り城だし、ブライアムは城で騎士見習いだし、ジグナーはそのまま王子付きだし。あまり変わらなそうだな」
「マリアーノがいないのは寂しいよ」
「どうせ巻物狂い達の事だすぐに店に来るだろう?」
「あはは、そうかもね。否定できないや」
「あぁ、もう時間だ。では皆に宜しく伝えてくれ」
「うん。じゃあまたね」
「あぁ、達者でな」
そう言ってあっさりマリアーノと別れたんだけど、マリアーノの言うとおり三日後には豆柴甘露亭で再会を果たした。
僕は冬の間は実家で過ごした。何故なら春に結婚式を控えているから。アレキセー王子の獣化がいつ起こってもいいように、結婚後僕は城に住む事になっていた。
結婚式とか獣化のお話とか色々話したいけれど、久しぶりに会ったアレキセー王子はどんどんかっこ良くなっていてつい見惚れてしまう。
「フェル。聞いているか?」
「ハイ!」
「いいのか?」
「え~と……はい?」
「そうか。では、このまま城へ向かうとしよう」
「え?」
「俺はお前がいないと駄目だ」
あの夏休みのデジャヴの様に、結局僕はまた豆柴甘露亭でアレキセー王子に誘拐されちゃいました。心得た様に豆忍丸さんが電話をかけに行っていて、マリアーノに呆れられながら見送られて行きました。
けれどその夜。綺麗な満月の中で僕等はいつも通り寝台でじゃれていた。月明かりで十分だったからランタンの灯りを消していたんだけど……ふと月夜の中で見たアレキセー王子の赤月がいつもより赤い気がした。
「本当か? ジグナーを呼んでくれ。赤みが増すのは獣化の兆候だ」
予定よりずっと早い。僕は驚きと緊張で尻尾をピンってしたけど、バタつく城内に何だか凄く怖くなって尻尾の黒い部分を無意識にぎゅって握っていた。
「オルフェ。ここに潤滑剤を置いておきます。王子が獣化すればこの部屋には貴方以外入れません。獣化が完了する前に自分で準備をするんですよ。いいですね」
「う、は、はい!」
「万が一準備が間に合わなかった時は王子の名を逆さに呼びなさい。止まりますから。それと獣化は一日で終わります。ここに食べ物と飲み物と薬を置いておきます。狼は貴方が蹴ろうが殴ろうが傷付きません、怪我をするとしたら貴方の方です。貴方が大きな怪我をすれば王子が理性を取り戻した時に罪悪感で自害してしまうかもしれません。だから貴方は貴方の体を第一に考えなさい。いいですね」
「はい!」
「それと交わりを断っても獣化に問題はありませんからなるべく回避なさい。回避出来なければ怪我に気を付けて負担を減らしなさい。いいですね」
「はい!」
ジグナーさんが色々言ってくれるけど怖くて仕方がない。アレキセー王子は熱が出てきたらしくベッドに横になっている。準備を整えた召使い達が一人、また一人と出ていった。
「オルフェ、怖がる事はないと言っても怖いと思うので怖いままで良いので、これだけは覚えていなさい」
ジグナーさんが僕の両手を取って視線を合わせてきた。
「獣の姿をしてはいても、その狼はアレキセー王子です。貴方を抱こうとしているのはただの狼ではない。アレキセー・ウルガです」
「あ……」
「いいですね」
「うん。ジグナーさん、ありがとう御座います。もう大丈夫です」
そうだ。獣化した狼はアレキセー王子なんだ。僕、パニックになって大事な事を忘れていたみたい。
僕の体の震えは止まっていた。
「フェル」
寝室からアレキセー王子に呼ばれる。ジグナーさんは一つ頷くと部屋を出ていった。僕はドキドキしながらアレキセー王子の元へ行く。アレキセー王子は裸でベッドに横たわっていた。
「おいで」
「うん」
ベッドに乗り上げるとアレキセー王子は僕にそっとキスをしてくる。そのまま唇を舐められて僕はアレキセー王子の舌を受け入れる様に薄く開いた。熱でいつもより熱いアレキセー王子の舌が絡まって僕は息が上がってしまう。
「怖いか?」
「うん」
隠す事なく頷いた。アレキセー王子が僕の服を脱がしていく。むき出しの肩に口付けを落とされて、僕はこわごわとアレキセー王子を見上げた。
「傷つけたくない。断っていい。が、万が一がある。準備をさせてくれ」
「あっ……ふっ」
弱い耳を舐められて、吐息みたいな声が漏れた。
「怖いけど……でも、怖くないです。僕を抱くのは、セキだから……」
そう告げたら、アレキセー王子の赤月がホッとした様に緩んで、嬉し気に笑った。
後ろを向くように言われたけれど、変化の過程を見ていないと僕はその狼がアレキセー王子かどうかわからなくなるからと断った。
アレキセー王子は凄く凄く丁寧に僕の体を解した。
「フェル。愛している」
その言葉を落として、月明かりの中アレキセー王子の体はみるみる変化していく。そうして一時間程でアレキセー王子は完全な狼へとその姿を変えた。
月明かりに浮かぶ真っ黒な狼は気高く威圧感があった。けれど、その目は紛れもなくアレキセー王子の赤の三日月で。綺麗な綺麗な漆黒の狼に、僕は魅入られてしまった。
「触れても、いい?」
聞きながら触れた毛並みは極上の手触りで、僕は本能のままにそのもふもふに顔を埋めた。
「うわぁ~凄い! もふもふ!」
どうしよう。このもふもふが魅力的過ぎる! 一心不乱にもふっていたら、狼のアレキセー王子はちょっと唸って僕の上にのしかかってきた。裸にこの極上のもふもふを感じて、その手触りの良さに夢中になってしまった僕はつい状況を忘れてしまっていた。
「うん? え? あッ、ま、待って! うわっ! ああぁぁぁっ!!」
結果、気付いた時には美味しく頂かれてしまっていた。うん。もう、仕方ないよ。だって全身が僕が愛してやまないあのアレキセー王子の尻尾の毛並みなんだよ。
うん。もうコレしょうがないと思うんだ。あの毛並みに逆らうとか本当に無理だから!!
翌朝、喉ガラガラで起きた僕に元に戻ったアレキセー王子がかいがいしく世話を焼いてくれた。怪我は無かったけれど、激しかった分僕は腰が立たなくてベッドの住人になってしまった。
「何故、名を逆さ呼びして止めなかった?」ってアレキセー王子に聞かれて、僕は「毛並みが……」としか言っていないのにアレキセー王子は手で顔を覆って天を仰いでいた。だってもふもふだったんだもん。
「本当は無茶をするなと怒るところなのかもしれんが……フェル」
「ん?」
「有り難う」
アレキセー王子は本当に凄く綺麗に笑った。狼としての記憶もちゃんとあるんだって聞いて、僕はちょっぴり恥ずかしくなった。でも僕も嬉しかったから。
アレキセー王子が僕の手を取って繋いでくる。
「一生分の幸せを約束しよう。フェル、愛している」
「僕も一生分の幸せと愛をセキに約束します」
告げてお互いの手の甲にキスをし、視線を上げてそのまま唇を重ねた。
アレキセー王子の側にいたら僕は一生幸せだと思うから。僕も一生分の幸せをアレキセー王子に約束した。
こうして僕が知る乙女ゲームは終わりを迎えた。けれど僕等の未来はまだまだこれからも続いて行く。ここはゲームじゃないからね。
僕等は今日も、繋いだ手の誓いにキスを重ねていく。この手の中に幸せを掴んで。未来はそう、これから僕等が決めていくのだから。
【お終い】
「狼王子と可愛いワンコの繋ぎ方」をご愛読頂き有り難う御座いました。
これにて本編は完結となります。
あとはマリアーノやジグナーの番外編を考えておりますが、まだ書いていません……
番外編にてまたお会い出来たら嬉しいです。
サクサクとストレスなく進む物語をと思っていた為「山あり谷なし」の物語となりました。
閲覧や評価ポイント、ご感想を本当に本当に有り難う御座いました。
また番外編でお目にかかれる事を願って。
ご愛読頂き有り難う御座いました。
藍蜜紗成




