23、赤月の秘密とちょこ色の証
ぎゅうぎゅうと締め付けられる苦しさと耳元で聞こえる嗚咽で目が覚めた。
あれ~? 僕、どうしたんだっけ?
頭が上手く働かなくってぼんやりしていた僕の耳にはっきりとした泣き声が聞こえて、僕の脳みそはいきなりシャキーンって復活した。
「セキ!! ど、どうしたの? どこか痛いの?」
抱きしめられていたから僕はアレキセー王子の顔を見ることは出来なかったけれど、アレキセー王子が首を振った事だけはわかった。
「セキ、ちょっとだけ離して下さッ、うわッ!!」
離れようとしたら更に強く抱きしめられた。アレキセー王子の膝に乗り上げる様に抱えられて僕はその時やっと自分が全裸な事に気が付いた。何で?!
訳がわから無い事だらけだけど、アレキセー王子が泣いていると僕の心も痛くなってくる。僕は何とか手を伸ばすとアレキセー王子の頭をよしよしと撫でた。どうしたらいいんだろう。
悩んだ僕の目に先程のチョコレートが目に入った。
「セキ。甘い物食べますか? 元気が出るかもしれないから」
僕がチョコの箱を指さすと顔を上げたアレキセー王子が少しだけ笑った。
「アレを食べたお前は本当に可愛かった」
「え?」
「あれは豆柴甘露亭の店長が作った【お猪口れーと】というものだ。アレを食べると手のひらくらいの大きさに小型化するんだ」
「え! じゃあ僕小さくなっていたの?」
「あぁ。覚えていないのか?」
「うん」
小型化の最中の記憶は全然ない。頭の中はずっとぼんやりしていて、僕は何も覚えていなかった。
「僕が小さくなったからセキは泣いていたの?」
「いいや。お前が元に戻ったから泣いている」
小さい僕が凄く可愛かったのなら元に戻って残念だったってこと? それは悲しい。
「僕、戻らない方が良かった?」
「バカを言うな!!」
「ご、ごめんなさい」
アレキセー王子の本気の怒りに僕は腕の中で縮こまった。うぅ、怖い。
「すまない。この菓子の小型化を解くにはキスが必要なのだが、互いが本当に愛しあっていなければ解けないのだ」
アレキセー王子の言葉にギョッとなる戻らない方が良いって言った僕の言葉はお互い本気の愛じゃない方が良かったかって言ったのと同じだった。
「ごめんなさい」
「もう、いい。怒鳴って悪かった。お前は俺のキスで元に戻った。それが本当に嬉しかった」
アレキセー王子がいいながら僕の耳に唇を寄せて食む食むしてくる。許してもらえたのは良かったけど……うぅ、耳はやめて下さい。
「う、ひゃっ。セキ、耳はッ!」
「お前に赤月の事で言っていなかった事がある」
「え?」
アレキセー王子が僕の体にシーツを巻きつけ、しっかりと膝の上に乗せて抱え直す。僕、逃げないよ? そう言おうと思ったけれど、見上げたアレキセー王子の目はとても真剣で僕はこれからされる話がとても重要な事なのだと理解した。
「フェル、月持ちの狼は成人しある程度たつと《獣化》する」
「獣化?」
「あぁ、完全なる獣。狼になるのだ。その時強くなった本能を抑える理性が《赤い月》だ。赤月が少ない事は即ち理性の欠如を現す。俺の赤月は三日月で理性は殆ど残らないだろう」
「理性が少ないとどうなるの?」
「獣化した狼はとても強い。暴走すれば犬等一噛みで殺してしまうし側に愛おし者がいればそのまま気遣いもなく犯すだろう」
「―――ッ!」
それって獣のままの狼のアレキセー王子に僕が抱かれるって事?どうしよう。怖い。でもアレキセー王子を拒絶したくない。でも怖い。
「フェル。怖がらせてすまない。だがその暴走を押さえるのが《月の番》の存在だ」
「僕?」
「あぁ。月の番の伴侶呼びには《特別な力》がある」
「力? 僕、力なんてないよ?」
「もともと名前の最後を逆にして呼ぶ呼び名は呪いの一つだ」
古い国の呪いの一つ《逆封じ》といい、強い力を封じる事に使われる物なんだって。封じる力が強ければ強いほど《逆にした呼び名》は力を持つらしい。王族のこの本能封じの呼び名が市民に形だけ広がったんだって。
「俺が獣化しお前に危害を加えようとしたら俺の名を全て逆にして呼べ。今は呼ぶなよ。力が封じられる」
思わず呼ぼうとして慌てて口を閉じてコクコクと頷いた。危なかった。
「月の番だが……暴走を止めるには本当にお互いが愛しあっていなくてはならない。獣化した王族は鼻が利く。その愛が本物かどうかがわかってしまう」
「愛していないのに月の番になる事があるの?」
「あぁ、一番多いのは《同情の番》だ。番を得られない月持ちは被害を出す前に同族によって処分される」
「……え?」
「特に俺の様な欠け月の三日月が月の番を得られなかった場合待つのは処分の一択だ」
「そんな!」
じゃあ、赤月が三日月のアレキセー王子は処分対象者だったって事? それに気付いて僕は怖くて怖くてアレキセー王子にしがみ付いた。絶対死なせない!! しがみ付く手はかっこ悪く震えたいたけど、僕は絶対にアレキセー王子を護るって決めたんだ。
「フェル、落ち着け。俺にはお前が居るから大丈夫だ。処分されることは無い」
「うん。僕は、セキの月の番です。絶対暴走抑えるからね!!」
「あぁ。頼む」
「うん」
震えが落ち着き出した僕にアレキセー王子は続きを話してくれた。
処分と聞けば、心が愛と定まっていなくても月の番にと狼の思い人は頷いてしまうのだとアレキセー王子は話した。確かに僕も今は自信をもってアレキセー王子が好きだって言えるけど、ゲームがオリジナルだと思っていた頃にこれを言われたら、自分の気持ちがわから無くても月の番になってしまっていたと思う。
「だが同情で番となった場合、それを察した狼は悲しみを暴走させ番を噛み殺してしまう。そして己の手で番を殺した狼はその悲しみに耐えきれずその場で自害する。狼は鼻も聞くし何より同情の番の体液は暴走を強める。そして月の番を間違えた場合も、辿る結末は同じだ」
「あ……オルフェア……」
「そうだ。ゲームの俺がオルフェアを月の番に選ばなかったのは、もしも万が一間違えていたら殺してしまうからだ」
《真実の愛は偽りの愛に勝つものだ》そう言い残したゲームのアレキセー王子はオルフェアを守り、自害を選んだのだ。
「……んなさい。ごめんなさい。ごめ……」
僕が女になればいいと、そう選択した事で僕は僕の一番大切な人を死に追いやっていたんだ。
「泣くな、フェル。未来は変わった。お前は男のままで俺の前に現れてくれた。俺を愛し、俺の月の番になってくれた。有り難うフェル」
泣く僕の耳をアレキセー王子がくすぐるみたいに慰めてくる。そのくすぐったさに、僕は根負けしてついに泣き笑いしてしまった。でもすぐに不安がムクムクと顔を出してくる。
「セキ、僕は本当に本当にセキを愛しています。絶対に疑わないで下さいね」
信じて貰えないと僕同情の番にされてしまうんじゃないかって思ったんだ。だから僕を信じてって言ったのに、アレキセー王子は「あぁ、わかっている」って軽く返事してまた僕の耳を食む食むしてくるし!
「セキ! 聞いていますか?!」
「フェルの俺に対する思いが本物なのも、俺のフェルへの思いが本物なのも証明されたからな」
「え? いつ?」
「アレに」
そう問うた僕に、アレキセー王子は楽しそうに指さした。視線を動かして目に入った物を見て気付く。そこにあったのはお猪口れーと! そうだ!僕はアレキセー王子のキスで元に戻ったんだった!
「あ! だからセキは泣いていたんですか?」
「あぁ」
ようやくあのアレキセー王子の涙が嬉し涙だった事がわかり、僕はホッと安堵の息を漏らした。じわじわと喜びが込み上げてくる。だってあれはお互いがお互いを本気で愛していないとキスで戻らないんだよ。アレキセー王子の愛と自分の中の愛が本物だって目に見えて証明されて嬉しく無いわけがないんだ。
僕はシーツからでた足をジタバタする事で溢れ出た喜びを表に出していった。
「フェル。愛している。お前は俺の月の番だ」
「はい! 僕も! セキを愛しています」
そうしてどちらからともなく繋いだ手の甲に僕等はそっと口づけ笑った。
いつもご愛読頂き有り難う御座います。
明日7月18日「狼王子と可愛いワンコの繋ぎ方」は本編完結となります。
番外編を予定しておりますが、まだ書いていないので……
待っていてくれたら嬉しいです。
お読み頂きありがとうございました。
藍蜜紗成




