表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

21、夏の恋歌

 そうして迎えた夏祭り。僕等が歌ったのは《十六夜》と《三日月》だった。この三日月は十六夜の返歌として二人で作った物なんだ。

 僕等は舞台にピアノを二台向かい合う様に並べた。お互いの顔だけを見て歌おうと。

 夏の舞台には日よけの大きな木の側に立っているので自然の日影が心地良い。焼ける様な太陽光が木漏れ日となって僕等に降り注いだ。


 ゆっくりと椅子に座って鍵盤を開ける。ピアノと声の音合わせを終えて、僕等は一度目を閉じ集中する。周りの音が消えるのを待って目を開けた。


 この歌にしたのは僕の家族や周りの人達に僕等の関係を伝える事にしたから。きっとこの恋歌(こいうた)は言葉よりも雄弁に僕のアレキセー王子への思いと、アレキセー王子の僕への思いを語ってくれると思うんだ。

 夏の強い日差しを遮る大きな木が揺れる。赤と黒の揃いの薄衣がふわりと浮いて、僕はアレキセー王子を見て笑って頷いた。


 まずはアレキセー王子が《十六夜》を歌った。

 途端に騒めく人々。学園と違って他の人達はこの歌い方を知らないからね。けれどざわめきはすぐに治まる。ピアノの音は一台分、響く声は一人分。けれどそれは騒いで聞き逃すのが惜しいほどの歌声だから。


 《十六夜

 欠ける三日月 思う褥に 重ねる熱を乞い想う。 瞼の裏に浮かべた吐息よ 絡まる恋情 愛し恋しと溶けほどけ 求め願うは 満ち月の十六夜》


 後半の繰り返しで僕はピアノとハモリを追加する。会場全体が息を飲む音が聞こえた。僕はアレキセー王子だけを見る。アレキセー王子も僕だけを見ていた。途切れかけた集中力が戻って、僕等以外の音が消える。後半のハモリを歌い終わると僕はそのまま《三日月》を歌った。


 《三日月

 満ちる十六夜 思う褥に 重ねる熱を乞い想う。 瞼の裏に浮かべた吐息よ 絡まる恋情 愛し恋しと溶けほどけ 求め願うは 欠け月の三日月》


 後半の繰り返しにアレキセー王子が入ってくる。ただただ想いが溢れ()く。優しく愛おしい歌声が会場を包み、夏の白昼夢の様に僕等は音を紡いだ。


 泣きたくなるほどの恋を、僕はしていた。




 歌が終わってもしばらくは誰も動かなかった。


「フェル」


 アレキセー王子に伴侶呼びで名前を呼ばれて僕は呼吸を取り戻す。僕等が立ち上がってお辞儀をしたら、ようやく世界は動き出して、会場が揺れるような大喝采を浴びた。アンコールがそこら中から聞こえて、眩暈がする。興奮する会場に僕はアレキセー王子を見たら、アレキセー王子もこちらを見ていて示し合わせた様に笑った。それだけでお互いがどうしたいのかわかってしまう。


 アンコールに答えて歌ったのは十六夜の前に練習していた《夏の恋歌(こいうた)》だ。この歌はお互いへの愛に溺れる夏を歌った恋の歌だ。


 焼ける様に熱く焦がれた恋人へ想いは色っぽいのに切なくて儚くて胸が引き絞られれる様に痛む。会場のあちらこちらで歌につられた人達がおもわず手を伸ばしてきたけれど、この歌は揺らめく蜃気楼の様に掴む事も抱き寄せる事も出来ない。

 心に響く愛おしいと鳴る歌の切なさに会場が揺れた。


 アンコールも終えて立ち上がる。僕は歌う前とは違って凄く堂々とアレキセー王子の隣に並べた。ここでこの歌をアレキセー王子と一緒に歌えた事が僕の中で誇りとなって自信に繋がったんだと思う。

 前を向いて夏の強烈な日差しに顔を上げる。鳴りやまない拍手と称賛を胸に刻んだ。


 そうして夏の歌部門は僕等が優勝を飾り、それと同時に僕等の婚約が世間に知れ渡った。



 僕は前よりずっとこの夏で大人になったと思う。夏休みが終わり、僕はアレキセー王子と学園に戻った。僕はこの夏の色々、特にアレキセー王子と婚約したことを皆に報告したくてサロンを借りたんだ。皆を呼ぶと少し日焼けした面々が顔を出した。


「やっとですか。結構時間かかりましたね」

「一番心配していた奴が……っ痛て、ちょ、蹴るな!」

「お前達、じゃれるならよそでやれ」


 ジグナーさんとブライアムは凄く仲良しになっていた。アレキセー王子が言ったら「じゃれてません!」ってジグナーさんが赤くなってた。ちょっと可愛かった。


「まぁまぁ、王子も普段オルフェとイチャイチャしてるんだから大目に見てあげなよ」

「マリアーノ! 僕イチャイチャしてないよ!」

「俺が寛大になれるのはオルフェにのみだ」


 言いながらアレキセー王子が僕を抱き寄せてきた。ちなみに伴侶呼びは二人の時にしか呼ばない。でも夏中アレキセー王子をセキって呼んでいたからたまにセキって呼んじゃうけどね。


「そう言えば君達は秋祭り出ないんだろう?」

「うん。優勝したし、婚約したから」


 僕等は秋祭りのダンスが免除になった。ダンスは男女で踊るものなんだけど、僕等は婚約者が同性だし、婚約者を差し置いて他の女の子とダンスなんて人でなしな事は出来ないし学園もそれはそう思ったみたい。マナー違反だしね。それに夏祭りで優勝したから成績的にも問題ないって言われた。


 元々僕は貴族だしとアレキセー王子は王族だからダンスの基礎は出来ているし、僕等に一番必要な舞も優勝したから問題ないって事みたい。アレキセー王子が他の女の子と踊らなくて良かったって僕は思った。


「どうしたのマリアーノ」


 思案気なマリアーノに僕は声をかけた。マリアーノには凄く沢山助けて貰ったから何か悩みがあるなら力になりたい。


「実は少し前から叔父と連絡が取れないんだよ」

「叔父さんって豆柴甘露亭の店長さん?」

「何ですって」

「何! それは本当か?」


 マリアーノと僕の会話にさっきまで喧嘩していたジグナーさんとブライアムが入ってくる。


「連絡が取れないとはどういう事だ?」

「元々ふらふらしてる人ではあったんだよ。店長だけど店員が皆優秀だからね。店長がいなくても店は回るから。でも今までどんなにふらふらしても一日一度は店に連絡があったんだ。無断外泊とかしない人で……でも成人した良い大人だし……まぁそう言う事もあるだろうと、連絡なかった日は店員も思ってな。特に届けを出さなかったんだ」


 けれど二日たっても三日たっても連絡は無かった。流石に可笑しいと第三聖歌隊に届けを出したけれど未だに進展はないそうだ。


「何だか嫌な予感がしてね。君達も十分気をつけてくれ」

「王子、第一を出して頂ける様に説得して下さい」

「あぁ、第一聖歌隊を出すように電話をしておく」

「は?第一聖歌隊は近衛だろう?」


 マリアーノの懸念にジグナーさんが凄い事を言い出した。そうしたらアレキセー王子がそれを肯定してブライアムが驚いていた。だって第一聖歌隊は王族とか凄く高い身分の人の事でしか動かない部隊なんだよ?


「三日後の発売には間に合わせてください」

「当然だ」

「三日後?……あ!」


 ジグナーさんとアレキセー王子が話してる事をきいて僕はある事を思い出した。確か三日後に豆柴忍々シリーズで新しい進化カードが出てそれに店長が関わっているって言ってた。


「君達の巻物への並々ならない情熱には製作者として感謝するし喜びもするが、もう少し人物の方に注意を向けて貰えないだろうか。全くこれだから小さい頃から遊んでいない奴は加減を知らなくて困るんだ」


 後半は小声で呟くマリアーノ。でも皆犬だから耳は良いんだよマリアーノ。


「まぁいい。今回の巻物はお頭専用の進化巻物だ。君達が無事に店長を助け出すことが出来たなら僕は君達に君達用の巻物を作ってあげよう」

「ジグナー」

「心得ました」


 アレキセー王子がジグナーさんを呼んだらジグナーさんが小走りで部屋を出ていった。恐らく電話をかけに行ったんだと思う。


「あぁ、そう言えばオルフェ宛てに荷物が届いているから取りに来いって寮監が言ってたぞ。結構大きいらしいから取りに行くなら付き合うが」

「本当? セ……じゃなくてアレキセー王子ちょっと荷物を取りに行ってきます」

「あぁ」


 アレキセー王子とマリアーノに断って荷物をブライアムと取りに行った。ブライアムが言う通り荷物はとても大きくて、僕だけだったら持てなかったかもしれない。


 最上階の部屋に着くと、扉の前に小さな小包みが置いて有った。


「あれ? 何だろう? 僕宛てだ」

「おい、早く開けてくれ」

「あ! ごめん」


 僕はその小包みを持って部屋に入った。荷物を置いて貰い、ブライアムにアレキセー王子へ「荷物を片付けています」との言伝を頼んで別れた。

 荷物は夏に豆柴甘露亭で頼んだ黒茶珈琲やお菓子がほとんどだ。あらかた片付け終わってふと玄関にあった小包みを思い出した。


「なんだろう?」


 手紙とかも無いし。開けて見たら小さなチョコレートが六つ入っていた。くんくん。いい匂い。動いたから甘い物食べたくなっちゃったよ。

 僕は黒茶珈琲を入れて早速そのチョコレートを食べてみた。


「スタンダードなチョコだけどこれ凄く美味しい!」


 残りは皆にとって置こうかな? あ、でも六個入りだからもう一つ食べちゃおう。

 そう思ってチョコをもう一つ続けて口に放り込んだら、バタンッと大きな音がしてアレキセー王子が部屋に飛び込んできた。


「フェル!! 食べるな吐き出せ!!」

「え?」


 セキ?どうしたの?もう食べちゃったよ。そう口を開いた筈なのに声が出なくて、僕の体は何故か凄く凄く熱くて、僕の意識はゆっくりと霞がかっていった。


 あれ?……せきが、おおきいよ? しっぽ……ふさふさ……。


 その思考を最後に僕の意識は朦朧として霞がかかり思考を保てなくなった。



お待たせいたしました!

待っていてくれて本当にありがとうございます!

とても嬉しかったです!

楽しんで頂けたら嬉しいです☆

藍蜜紗成

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ