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20、溺れる夏

 重なる唇が深さを増して、艶やかさと熱い吐息が交じりだした頃。アレキセー王子が欲望に擦れた声で僕に告げた。


「オルフェ、抱きたい。最後まで……していいか?」

「え? 最後?」


 アレキセー王子の言葉に僕の目はキョトンとまんまるになった。


「あの、僕達はこの休みに入る前のあの日、そのぅ最後まで致しましたよね?」


 僕の言葉に今度はアレキセー王子の目がまんまるになった。それで気付く。僕達はまだ最後までしていないのだと。


「オルフェ、閨教育はしなかったのか?」

「え? ね、閨……ですか?」

「あぁ」

「したと……思い、ます……?」


 僕は記憶を辿ってみた。閨が何を現すのかは知っている。そして閨教育って確か十四歳とか十五歳くらいで教えられるんじゃなかったかな? ん? あれ? でも僕……男同士の仕方を習った記憶がない。その頃はドレスを脱いで新しい歌を練習していた頃だったと思う。


 閨教育は男児は年上の女性に習い。女児は本などで学ぶ。女児が本なのは実地でやって万が一処女を奪われる事がない様にだ。そして多分お父様もお母様も僕の閨について悩んだのだと思う。男児として扱うか女児の様に本にするか。だって僕の好きな人がアレキセー王子なら僕は処女であるのが好ましいとお父様もお母様も考えたのだろう。僕は本を渡されそれを読んだ。けれどそれには男女の営みしかなく、男同士の記述は無かった様に思う。どうしよう……


 僕が考えている間にアレキセー王子の悪戯な手が(ぼたん)を外してくる。外気に触れた肌寒さに僕はぶるりと震えた。


「あ、あの!」

「まだ怖いか?」

「怖くないです。そうじゃなくて……」

「嫌か?」

「嫌じゃないです」


 はっきりしない僕にアレキセー王子が身を起こして僕に視線を合わせてきた。僕は今されかけた事とこれから話す事の恥ずかしさに赤面する。言い淀んで、視線を彷徨わせた。


「オルフェ」


 名を呼び、促されて僕はそろそろと視線を合わせ観念して口を開いた。


「わからない、です」

「何が?」

「その、触るのは、わかる、んですけど……その、先を知らなくて……僕はこの前のがそうだと思っていたので……」

「つまり男同士の性行為の仕方がわからないと?」

「……はい。すみません」


 項垂れた僕にアレキセー王子は小さく息を吐いた。呆れられたかな?視線が上げられない。


「誰かに聞いたか?」

「いいえ。聞いてない、です」


 僕のばかー!こんな事ならライル兄様にでも聞いておけば良かったよ。うぅ。


「やっぱり聞いた方が良かったですよね。すみません」

「いいや、逆だ。お前が俺以外にそれを教わっていたら、嫉妬でその相手を殺していただろう」

「え?」


 物騒な台詞に思わず顔を上げて僕は後悔した。


「あッ……っん」


 アレキセー王子の目に浮かぶのは赤く嫉妬に萌える三日月。その目で見られると僕は固まったみたいに動けなくなる。ゆっくりと笑って、アレキセー王子は僕の唇に自分のそれを重ねていった。

 触れるだけのキス。それが離れても僕は赤い三日月に魅入られたまま動けない。


「お前に閨を教えるのも、お前が閨を共にするのも俺だけだ。いいな」


 強い光に「はい」と頷いて、僕は一度目を閉じた。深呼吸して目を開ける。僕の目に三日月は無いけれど、この天鵞絨がアレキセー王子の三日月まで飛んでいけるように。僕も約束を口にした。


「アレキセー王子も約束して下さい。僕だけだって」

「あぁ、何度でも誓おう。この目の赤い三日月に誓って。俺が求めるのはお前だけだ」

「僕も。僕は僕の歌に誓って」


 僕達は指を絡ませ手を繋ぐとお互いの手の甲に誓いのキスをした。そのまま顔を上げて唇を重ねる。


「教えて下さい。全部」


 呟く僕に、アレキセー王子は赤い三日月を妖艶に揺らして笑った。上着の残りの釦がゆっくりと外されてそこにキスを落とされる。くすぐったくて逃げる僕の体をアレキセー王子の左腕が引き寄せた。


「アレキセー王子、あの、灯りが……」

「セキと呼んでくれ」

「セキ?」

「名前の最後を逆にして呼ぶ呼び方だ。聞いた事があるだろう? 閨呼びや伴侶呼びと言われる。お前の名も、そう呼んでいいか?」


 名前の最後を逆にして呼ぶ呼び名は特別なものだ。家族でもその名前を呼ぶことは許されない。アレキセー王子の様に伸ばす音は《セキ》として《ー》を取ってしまってもいい。僕の名前の様に語尾が小さい場合は《フェ》の音を一つとしてもいい。逆に二文字の間に伸ばすや詰まるを入れてもいい。

 伴侶呼びは伴侶となる者にしか許さない呼び方なのだ。


 ふと、昼間アルギール第二王子と話した事を思い出した。これも前にまだ話せないと言っていた事の一部なのかもしれない。秘密に近づいた事とその伴侶呼びを許されたのが嬉しくて、僕は「はい」と頷いた。


「セキ、好きです。どうにかなってしまいそうなくらい、僕はあなたを愛しています」

「俺もだ、フェル。愛している」


 そうして僕等はその日一つになった。

 一旦タガが外れてしまえばもう駄目で、僕等は思い出したように歌い、じゃれあうように触れあい、熔けるほど激しく交わった。


 夏の熱さと汗の匂いと肌の感触。それに溺れた夏だった。




いつもご愛読頂きまして有り難う御座います。本来なら次回は《月光の物語》ですが、執筆途中の為、飛ばそうと思います。

何故かと言えば、いつものうっかりです。眠気うつらつらで作業していて、切り取りをして保存したつもりが何と削除していて、それに気が付いた瞬間にパソコンの電波が異世界トリップしてショックで固まってしまい。それをみた作者も動きを止めた。oh…カムバック……

という訳で、書き直しになるので、お月様が満ちるまでどうかお待ち下さいませ。

「なろう」の方の続きは明日更新出来るようにします。

お読み頂き有り難う御座いました


藍蜜紗成


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