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18、ここにいるのは僕の意思!

 翌朝、起きたらアレキセー王子はいなかった。


「どうしよう。勝手に出歩いたらまずいよね?」


 取りあえずトイレに行って身支度を済ませる。トイレの隣にはシャワー付きのお風呂があった。今日も朝から暑くてシャワーを浴びたかったけど勝手に使っていいか迷ったので止めた。自分の部屋のシャワーだったら遠慮なく使えるんだけどなぁ。


 身支度が終われば特にする事はない。勝手に部屋も漁れないし、ちょっとお腹空いたなぁ。メイドさんを呼ぼうにも呼び鈴が見当たらない。だから仕方ないよね? 僕はベッドから下りてドアへ向かった。

 ドアの取っ手を握った所で突然そのドアが開いて、僕の体は廊下へと飛び出る。


「うわっ!」

「おっと! 大丈夫かい?」


 抱きとめてくれたのはアルギール・ウルガ第二王子だった。この人がアレキセー王子のお兄さんだ。


「すまない。てっきり君は隣の部屋にいるのだと思っていた」

「隣、ですか?」

「あぁ、アレキセーが伴侶を連れてきたと聞いてね。会わせてもらおうと突撃しに来たんだよ。ノックをすると逃げられるからね」

「は、はんりょ!?」

「そうだよ。オルフェ・ビーグル君。あぁ、僕はアルギール・ウルガ。第二王子だよ。宜しくね」


 そう言ってアルギール第二王子はお茶目に笑った。

 アルギール第二王子は金髪に黒目の明るく親しみやすいお兄さんだ。アレキセー王子みたいな威圧感はなくて柔らかい感じ。顔もカッコイイけれど、僕はアレキセー王子の方が好きで……ってちょっと逃避しちゃった。


「さ、取りあえず食事にしようか」


 そう言ってアルギール第二王子は後ろのメイドさんに指示を出してアレキセー王子の部屋に二人分の朝食をセッティングしてしまった。

 あぁ、そんな勝手な事してアレキセー王子怒んないかな?


「さぁ、食べよう。アレキセーは暫く戻って来れないからね。あぁ、給仕は要らないよ」


 そう言ってアルギール第二王子はメイドたちを部屋の外に出してしまった。うぅ、何を話したらいいんだろう? 伴侶とか、何でアレキセー王子が戻って来ないのかとか聞きたいけど聞いていいのかな? 取り敢えず食べてからの方が良いかな?


 目の前のアルギール第二王子もどうやら食べてから話すらしい。朝食はスープにソーセージと卵それとパンというシンプルな物だったけどどれもこれもすっごく美味しい!!


「君は随分と美味しそうに食べるんだね」


 そう言って微笑まれて僕はちょっと恥ずかしかった。だって、美味しいんだもん。

 食事を終えて食後の紅茶を飲みだした頃、アルギール第二王子はやっと詳しい話をしてくれた。


「では今アレキセー王子は陛下に僕をさらった事を咎められているのですか?」

「あぁ、春からずっとアレキセーはビーグル家に君との婚約を申し込んでいるが君の父君が頷かなくてね。それに業を煮やして君を無理矢理さらってきたのではないかと……」

「ち、違います!」


 アルギール第二王子の言葉に僕は勢いよく立ち上がった。確かにちょっと強引だったけれど、ここに今いるのは僕の意思だ。 僕もアレキセー王子と一緒にいたいんだ。大体僕にアレキセー王子から婚約の話が来ているなんて知らなかった。お父様もお母様もライル兄様も何も言っていなかったのに。


「僕は僕の意思でアレキセー王子の側に居ます。強要されたわけでも、無理矢理さらわれた訳でもありません。婚約の話も……僕は誰からも聞いていません。僕の事なのに……」


 アレキセー王子……どうして話してくれなかったんだろう。お父様達も。また僕だけが知らない。

 その事に胸が痛んで僕は潤み始めた目を隠すように俯いた。


「あぁ、アレキセーが言わなかったのは君の父君にそう約束させられたからなんだよ。アレキセーはちゃんと約束を守ったにすぎない。それに父君が君に婚約の事を言わなかったのは、君強姦にあっただろう?」


 アルギール第二王子に言われ、ひゅっと喉がなった。まさか、僕はあの時穢されたと思われたのだろうか?


「僕は……!」

「落ち着いて。未遂だってわかっているよ。大丈夫。ただ君のご家族は凄く心配していてね。本当に未遂だったのかって凄く慎重に調べていた。そして未遂だったとわかったんだけど君があれ以来大柄な男性の乱暴な振る舞いに怯えているって事を知ってね。ほら、僕等狼はかなり大きいし力も強いだろう? だからご家族はアレキセーに怯えて君が従っているだけじゃないかって考えていたんだよ」

「違います! 僕は本当にアレキセー王子が好きなんです。脅されてなんかいない!」

「うん。そうだね。君に直接会って君が自分の意思でいるという事がわかったよ。それはご家族もそうだったみたいだよ。今朝、抗議と共に君の父君から君が君の意思で婚約を受ければ認めると言ってきたから」


 本当は昨日帰ったらお父様が僕に婚約の事を話す予定だったらしい。けれど僕は帰って来なくてアレキセー王子にさらわれたと聞いたから抗議したんだって。僕の意思を無視するなと。


「それで僕が確かめに来たんだよ。赤月の番の話はきいたかい?」

「はい」

「全部?」

「え?」

「君はアレキセーの事を何て呼んでいるの?」

「アレキセー王子と呼んでいます」

「そう。伴侶呼びをするようになれば全て教えてもらえるよ。でも知ってしまったらもう逃げられないからね」


 逃げるのなら今のうちだって言われた気がして僕は凄くムッとした。


「逃げる気も隠れる気も離れる気も誰かに従う気もないです。僕の心は僕の意思でアレキセー王子の隣に居ることを選びましたから。誰が何と言おうと譲る気有りません!」


 そう言いきったら何故かアルギール第二王子が嬉しそうに笑った。ん?どうして?


「合格だよ」


 そう呟いてアルギール第二王子はメイドに懐から出した赤い封筒の手紙を渡し陛下に急ぎで届ける様にと言い渡した。


「色々試したりしてごめんね。でも必要な事だったんだ。いずれわかるから。君達を見ていたら僕も愛しい人を諦めないでいようかなって気になるよ。ありがとう」


 アルギール第二王子は綺麗に笑って僕の頭を撫でてきた。

 その後、アレキセー王子が来るまでアルギール第二王子は昔話をしてくれた。


「アレキセーは十四歳の日から尻尾の手入を欠かさないんだよ。凄いこだわりようでね。どうしてそんなに尻尾ばかり手入れをするのか聞いたんだ。そうしたらね。『自分の月の番が愛した場所だから愛おしい』ってすっごく蕩けた顔で言っていたんだよ」


 顔から火が噴き出るかと思うくらい僕は真っ赤になった。それは羞恥と喜びと嬉しさと愛しさで、僕は溢れ出る気持ちのまま飛べるくらい激しく尻尾を振り回した。

 それにを見たアルギール第二王子は「わかりやすい」って大爆笑していた。

 仕方ないよ。だってこんなに嬉しい事を言われたら我慢できないよ!


「僕はアレキセー王子が大大大好きです! アレキセー王子を愛してます!」 


 立ち上がって思うままに力説した僕が、戻ってきたアレキセー王子にそれを聞かれてて全力で抱きしめられてキスされるまでもう少し。

 


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