17、恋しくて触れたくて
今日は火曜日。豆柴甘露亭へアレキセー王子に会いにいける日だ。たった三日会わないだけでこんなに寂しいと思わなかった。
昼間はまだ家族がいて歌を歌えたから良かったけど、夜が辛かった。淋しさと体の疼きと。アレキセー王子の手とか夜凄く思い出した。僕は僕が結構えっちな事を知ってしまった。
蒸気機関車に乗って馬車に乗って豆柴甘露亭についたのはお昼時。【ほのか檸檬の蜂蜜水】を注文して持って来たサンドイッチを座敷で食べて、【忍び恋藤】のお菓子をおやつに食べた。これは求肥の薄皮に葡萄の餡が入っている。明日からは【忍び恋向日葵】になるそうだ。
「豆忍丸さん、向日葵はどんな味なの?」
「求肥の薄皮の中にバニラアイスがあってその中に夏蜜柑の蜜漬けを凍らせた物が入っているんだよ。夏にはもってこいだよ」
「本当だ。美味しそう」
「氷苺とかもやるからまた食べにおいで」
「うん」
そんな会話をしていたら目の前に黒い高級なハイヤーが止まった。何だろうと見ていたらアレキセー王子が下りてくる。
「アレキセー王子! お久しぶりで、うわっ!」
「オルフェは貰って行く」
「え? え?」
挨拶の途中で僕はアレキセー王子に横抱きにされてしまった。え?え?何が起きてるの?
「ちょっと誘拐は駄目だよ!」
「大丈夫だ。この手紙をビーグル家へ」
話ながらもアレキセー王子の体は既にハイヤーの中へ。僕の荷物は執事さんが持ってきてその人は颯爽と運転席へ収まった。
豆忍丸さんにアレキセー王子が手紙を渡すともうハイヤーは走り始めてしまって、あまりの早業に僕はただただ呆然としていた。
僕、アレキセー王子に誘拐されちゃいました。
「あの、アレキセー王子?」
「何だ?」
いや、何だじゃなくて説明をして欲しいのですが……って言おうと思ったのに目の前に尻尾が!恋い焦がれたあの黒いもふもふが!! 気付いたら一心不乱にもふっていていた。
「与えておいてなんだが……お前のその俺への全幅の信頼と尻尾に対する執着は凄まじいな」
「あ! まだ二日分にも満たないです。もふもふ返して下さい」
「後でいくらでもやろう」
もふもふを没収された僕はやっと周りを見渡した。ちなみに今は長椅子に座ったアレキセー王子の膝の上にいる。見渡した景色はどこかのお部屋。ワインレッドの鮮やかなベルベット生地と黒の落ち着いた高級感あふれる部屋は上品で高級感あふれる作りだ。そこに置かれるベッドやテーブル等の家具も手触りのいい赤と黒の布や色でまとめられ、縁には金の装飾品が施されている。
「ここはどこですか?」
「城の俺の部屋だ。夏休み、お前はここに泊まれ」
「え?」
「俺はお前がいないと駄目になる。嫌か?」
「嫌では無いですが……何も持って来ていません」
「必要ない。全て揃えてある」
そう言ってアレキセー王子は僕を抱きしめた。
あぁ、アレキセー王子の匂いだ……落ち着く。僕はアレキセー王子の胸元に顔を埋めて息を吸い込んだ。乾いていた心が一気に潤って行く。
僕は本当にアレキセー王子が好きなんだなぁと思った。
「お前は本当に可愛いな」
「僕もアレキセー王子がいないと駄目なんです」
「同じか?」
「同じです」
アレキセー王子が僕を抱きしめたまま聞いて来て、僕は答えながら笑う。そうしたらアレキセー王子もなんだかおかしくなって笑ってしまったみたい。二人でくすくす笑っていた。
「さらった事、怒っていないか?」
「怒っていたら大人しくさらわれませんよ」
僕は自分からアレキセー王子にキスをした。アレキセー王子はびっくりしていたけれど、三日離れて僕は凄く凄くアレキセー王子が欲しくてちょっとエッチになってしまったから。こんな僕は嫌かな?ってアレキセー王子をみたら、またあの日みたいなマグマみたいな欲情した赤い月が笑っていて僕の唇はすぐにアレキセー王子に塞がれてしまった。
頭を抱える様にして重なってくる唇に、僕も離したくなくてアレキセー王子の首に腕を回した。
「この部屋の、隣に……部屋を用意した。がしかしここへ居てくれ。お前に触れていたい」
「はいっ」
そうして僕は夏休みの間、アレキセー王子の部屋で過ごす事となった。
その日は一日中くっ付いて目が合えばキスをしてお風呂では触り合って、ベッドの中では抱きしめられながら眠った。
会えなかった三日を埋める様に僕等はずっとずっとお互いに触れて過ごしたのだった。




