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16、春祭り

 それからは朝アレキセー王子のお仕事と家事をして、学園に行って放課後は舞の練習して夜くたくたになって寝るをひたすら繰り返した。


 衣装も出来上がって来て初めて見た時は本当に感嘆の声が漏れた。だってひらひらと薄い様々な緑の布と黒の組み合わせが本当に綺麗だったんだよ。着物は重さもさほどなくて衣装が出来てからはそれを身に付けて練習をした。


 でもこの些細な布の重さに僕は凄く苦労した。ひらひらの布って綺麗だけど重さが違うから回った時の速度の調節が必要だったんだ。


「ここの回転はもう少しゆっくりでいい。布が軽いからあまり早く回ると布が広がらない。こうだ」


 そう言ってアレキセー王子が動き方を示してくれる。衣装を着たアレキセー王子は凄く凄く綺麗だ。


「オルフェ!」

「ッ! すみません」

「惚れ直したか?」

「はい! 凄く綺麗で格好いいです」


 素直に誉めたらアレキセー王子は「馬鹿」って呟いた後照れて手で顔隠して上向いてた。

 止めて、僕もテレるから……。

 そんな調子で練習して、休みの日はたまに皆で豆柴甘露亭に行って豆柴忍々のゲームをして遊んだ。



 そうして迎えた春祭り。会場となる広場には、大きな舞台が作られてる。凄い人だよ~うぅ。舞台袖で出番を待っているんだけど、緊張で前の人の踊りとか全く目に入らいないよ。


「うぅ~緊張で吐きそう」

「ほら」


 そう言ってアレキセー王子は僕にもふもふ黒尻尾を提供してくれた。僕は迷わずその尻尾に顔を埋めた。

 アレキセー王子の匂いをいっぱいに吸い込む。あぁ、安らぐ。もふもふ。僕は自分達の順番ギリギリまで一心不乱にもふり続けた。


「オルフェ、いくぞ。俺達の舞いを自慢して魅せてこよう」

「はい!」


 もふもふで僕の元気は満タンだから大丈夫。なるほど! こんなに綺麗で格好いいアレキセー王子を自慢しに行くって思ったら何かわくわくしてきた!

 僕の尻尾が忙しなく動く。それを見てアレキセー王子が笑った。

 狭い通路を抜けると一面の空と人。歓声がどっと押し寄せてきて、僕は尻尾をピンと立てた。


「いくぞ」


 アレキセー王子の声がして、背中を押された。二人で見つめあって、音楽と共に舞台中央に走り出す。

 アレキセー王子が広げた腕を鉄棒にしてくるんと一回り。

 うん。いい感じ!


 側転バク転織り交ぜながら、蹴りや拳を繰り出し、最後は揃えて舞って片膝と両手を地につけ締める。

 割れんばかりの歓声が嬉しくて、躍り終えた僕はアレキセー王子に抱きついた。

 結果、僕等は最高得点を出して春祭りを無事終えたのだった。



 怒涛の春祭りを終えて三日、僕等に待っているのは夏休みである。


「席につけ~報告がある。今年は教師や生徒の要望で、夏祭りの試験項目に歌を追加する事になった。舞でもダンスでも歌でもどれでもいいからどれか一つ参加する事。参加しただけで夏祭りの試験は合格とするが、そこで良い評価を得れば得点は加算される。秋祭りはダンスだからな。苦手な奴は夏に稼いでおくように。じゃ、明日から夏休みだが羽目を外し過ぎない様に。領地に帰る奴は道中気を付けて。一応夏の間も寮は開いてるが、滞在する時は俺に言う様に」


 寮監のルクターナ先生が挨拶を終え、明日から学園は一ヶ月休みになる。夕食と風呂を終えて僕は明日の帰郷の準備を整えた。


「毎週火曜日と金曜日の午後に豆柴甘露亭へ集合というスケジュールを組みました。後は舞をするなり、ゲームをするなりお二人で好きに過ごして下さい」

「わかった。では新学期にな」

「ありがとうございますジグナーさん」

「新学期の前にゲームをしに行きますから。首を洗って待っていてください。それでは失礼致します」


 物騒な台詞を残してジグナーさんが去っていった。この前対戦した時に負けたのを根に持っているらしい。接戦だったのだが、前にアレキセー王子の代わりに僕が引いたレアが勝負の分かれ目だったんだ。あれ以降代わりに引くのを禁止された上にそのレア巻物をアレキセー王子から譲られてしまった。


「所詮オルフェの巻物に頼らなければ得られない勝利ですからね」というジグナーさんの一言がアレキセー王子のプライをいたく刺激したようです。進化の巻物は複雑過ぎて僕にはどうも向かないみたいだけど、絵が綺麗だからコレクションしてる。

 マリアーノには「猫に小判だね」って言われた。僕、犬なのに。


「オルフェ。夏祭りの試験だが、歌にしようと思うのだがどうだ?」

「はい! 僕もそれ言おうと思っていました」

「そうか。良かった。それと休み中お前は領主館に戻るのか?」

「いいえ。王都の別宅にいようと思います。夏の間は家族もそこに来ているので」


 領主館は言葉のまま納める領地に建つ本宅の事だ。王都には社交用の別荘がある。


「俺は城にいる。何かあればいつでも来るといい」

「はい」

「オルフェ」


 名前を呼ばれて顔を上げるとアレキセー王子の優しいキスが下りてくる。触れるだけのキスから少し激しいキスへ。その唇は首筋の線をなぞる様に落ちてきて、鎖骨の下に所有印を残していく。

 一度離れるとアレキセー王子は自分の襟首をくつろげて僕に差し出してくる。そこに僕は毎回ドキドキしながらお返しの所有印を付けていた。


「有り難う。オルフェ……でも、足りない」

「あッ! 待って……っあ」


 抱き寄せられてそのまま体を舐められる。あの喧嘩した日から少しずつ少しずつ、アレキセー王子は僕の体の舐める範囲を広げていった。

 始めはくすぐったいだけだった場所も、今では声が漏れて腰が揺れてしまう。


「しばらく触れられないから」って言われて今日は色々されて舐められ溶かされた。僕はアレキセー王子に色々されて、その、ね、気持ちよかったです。

 僕が何をされたのかは《月光の物語》が知ってるよ。知りたい人はお月様に聞いてみてね?

 一緒にお風呂に入ってベッドを「わぁぁぁ」って言いながら片付けて新しいシーツとかにしてたら上がってきたアレキセー王子に抱きしめられた。


「あ、アレキセー王子!」


「一緒に眠るだけだ」そう言って抱き込まれ尻尾を与えられた。僕はもう羞恥と混乱でよくわから無くなってとにかく安心したくて尻尾をもふもふしているうちに眠ってしまっていた。「おやすみ」って声を聞いた様な気がして僕も返したけれど、夢で返したのか声が出ていたのか判断がつかなかった。

 こうして僕はアレキセー王子と休み中に会う約束をして次の日別荘へ帰っていった。


 蒸気機関車に乗って迎えの馬車に乗り込む。王都の中にある別荘とはいっても城からは少し遠いので車よりまだ馬車が多い。しばらく走ると見えてきたのは白い外壁に緑の屋根のビーグル家の別荘。花のアーチをくぐればもう家だ。


「ただいま」


 やっと帰りついて家族に迎えられた。時間が時間だからすぐに食事となった。久しぶりの家族団らんだった。


「元気そうで良かった」


 皆があの事件の後凄く心配して手紙をくれた。ライル兄様はもう帰ってこいとまで言ってきた。でも僕の顔を見てちゃんと乗り越えた事を知ったみたいで、食事は和やかに終わった。

 そうして始まるのは歌のリクエスト会。学園に行く前となんら変わらない日常に僕は笑ってそれに答えた。

 いつもと変わらない。そう思っていたんだんだけど……


 夜、一人になると寂しかった。胸の所有印や首筋に沢山つけられたキスマークが残っているうちは何とか耐えれた。でもそれも三日たてばもう消えてしまっている。唯一肩の噛み跡がうっすら残っているくらい。尻尾の黒い部分を握って眠ろうとするけれど、アレキセー王子の尻尾じゃないから上手く眠れない。

 アレキセー王子はもう寝たのかな?


「寂しい」


 尻尾を握って丸くなる。明日は待ちに待った火曜日だから。僕は息を潜めて眠りについた。




いつもご愛読して頂き有り難う御座います。

作中オルフェの秘密を知っている《月光の物語》が出て来ます。更新済みです。

詳しくは活動報告にてお知らせいたします。

藍蜜紗成

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