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15、豆柴甘露亭

 朝教室についてすぐ、僕はマリアーノに声をかけた。


「マリアーノ! ごめん。ごめんね」

「僕こそすまなかったな。ここではちょっとな。出ようか」

「うん」


 マリアーノは僕と教室を出ると人気のない廊下の踊り場で止まった。授業まであまり時間がないから遠くには行けない。古いけれど手入れの行き届いた木造校舎の階段の手すりは黒く艶めいて触り心地がいい。無意識に撫でながらもう一度謝った。


「本当にごめんね。マリアーノ。もう二度とこんな事がない様に誓って貰ったから」

「君の秘密にも係わる事だから話たく無かったんだがな。すまない」

「それに関しては大丈夫。アレキセー王子には話す気でいたから。でもマリアーノは僕を助けてくれたのに、不甲斐なくてごめん」


 凹んで俯いたらマリアーノに頭を撫でられた。


「ははっ、キリがなさそうだな。ではお相子としよう。お互いにまたお互いがピンチの時助け合えばいい。僕等は親友だ。そうだろう?」

「うん! ありがとうマリアーノ」

「どういたしまして」


 話が付いたところで鐘が鳴る。僕等は急いで教室へ戻った。座学が始まり今日も学園の一日が始まる。幸いさぼった影響はとくになかった。座学が終われば昨日と一昨日の舞の練習不足を補う様にアレキセー王子と二人で舞の練習をした。



 そうして待ちに待った放課後。僕達は軽く昼を食べて豆柴甘露亭へ向かう。メンバーは僕とアレキセー王子とジグナーさんとブライアムだ。ブライアムはお金を多めに持って来たって言っていた。間に合うといいけど。寮の昇降機を下りた所でアレキセー王子に呼び止められた。


「オルフェ、ステッキを忘れているぞ」

「あっ! 取って来ます」


 実は街に下りる際、学生は学園指定の外套と帽子とステッキを持って降りなければならない。周りにこの学園の学生である事を示すと共に余計な犯罪に巻き込まれない様にするためだ。王子や貴族が表立った護衛を置かずにいれるのはこの身分証のおかげなんだ。夏は外套を免除されるが帽子とステッキは身分を示す物として身に付けなければならない。僕はステッキを持つとアレキセー王子達の元に急いで戻った。


「お待たせしました!」

「あぁ、いくぞ」

「はい!」


 町までは学園専属のハイヤーで向かう。レトロな車で石畳を走って行くと赤レンガと木造の入り混じったノスタルジックな街並みが見えてくる。

 遠くに蒸気機関車の煙が見えて次いで汽笛が聞こえた。何となく見ていただけなのに「貴方は本当に黒がお好きなんですね」ってジグナーさんに言われた。隣に座ったアレキセー王子を見れなくて僕は両耳を両手で押さえて顔を隠した。うぅ、真っ赤だ。そんな状態の僕を乗せてハイヤーはやっと目的地に到着した。


「これはまた、個性的な外観ですね」

「武家屋敷か?」

「忍者屋敷だよ」


 目の前にそびえる大きな二階建ての屋敷の正体を言ったら三人が「忍者?」と首を傾げた。

 一階の店舗部分の観音開きの扉の奥には細々(こまごま)した駄菓子から高級な和菓子までが綺麗に整頓され、所狭しと並べられている。


「店員がいませんね」

「本当だ、誰もいないぞ」

「不用心だな」


 そう言って三人が店の中に入った瞬間、バタンドタンと音がして壁と天井の板が開き「いらっしゃいませ」とわらわら忍者が現れた。


「ッ!」

「うわっ!」

「なるほどな」


 ジグナーさんとブライアムは驚いてくれたみたい。アレキセー王子は感心していた。驚いたところが見たかったなぁ。


「オルフェ! 忍者屋敷って最初に言っちゃ駄目だろう?」

「あ、豆忍丸さん。ごめんね」


目の前の忍者は豆忍丸さんっていう柴犬の忍者さんだ。この豆柴甘露亭には沢山の柴犬の忍者とまだ仔犬の豆柴忍者がいるんだよ。


「最近はあんまり驚いてくれる人が少なくってさ~」

「暇なの?」

「暇じゃないよ!! お届け注文を始めただけ。それにさっき団体さんが帰った所だしね。ちゃんと届け先でも荷物と驚きを提供してる」

「驚き必要なんだ」

「柴忍だからね」


 よくわからない理屈だ。お届け注文を始めたと言うので豆忍丸さんに黒茶珈琲とお菓子の注文をした。アレキセー王子達も黒茶珈琲大好きだからね。

 アレキセー王子達は店の商品を見てまわっていたので、先に注文を済ませた。


 それを終えて皆の所に戻ると皆は奥の座敷にいた。ジグナーさんもブライアムもアレキセー王子までもがここの一番人気のお菓子に夢中になっていた。


「お! 豆一号が財宝持ってる。偵察高ぇな。対象ジグナー」

「ふふ、やりました。お頭召喚です。私の勝ちですね。対象王子」

「甘いな。豆福の甘味攻撃はお頭のみ一回休みだ。対象ジグナー」


 三人は豆柴甘露亭の一番人気菓子【豆柴忍々シリーズ】に入っている巻物ゲームに夢中だった。

 このお菓子は巻物みたいな形をしたチョコ棒のお菓子で、色んな味のタイプがある。

 お菓子と一緒に入っている【巻物】に描かれた豆忍者のキャラクターを使い、そこに書かれている内容で戦うのだ。


 巻物の絵は綺麗で可愛く、格好いいんだよ。しかも回復アイテムは美味しそうなんだ。ちなみにこの回復アイテムはこのお店で実際に売られているお菓子なんだよ。僕もこのお菓子の巻物の大ファンなんだ。


「豆忍丸さん、僕の巻物頂戴」

「いいよ。ちょっと待ってね」


 学生は巻物を寮に持って帰れない。夏休みとか長期休みならいいけど、持って帰ると学業が疎かになると許可が出なかったのだ。だからここに巻物を預けてここで遊ぶ。それように店の奥には対戦用の座敷が用意されているのだ。


 ただしここの使用時間も一時間まで。基本的にチームで戦うけれど、一人で来た時等はここの豆忍さん達が相手をしてくれる。ちなみに一番強いのは座敷の受付をしているおネェ様の(ともえ)さんだ。


「お待たせ」と言って豆忍丸さんが巻物をくれた。お礼を言って僕も混ざる。


「僕もまぜて!」


 僕はジグナーさんの隣に座って目隠し付きメモ帳とそろばんが付いてるお盆を引き寄せた。

 右側に巻物札の山を置いてそこから五枚とる。手札は五枚で、使ったら左の捨て場に置き、足りない分を山から引くのだ。


「ではオルフェからにしよう」

「ありがとう。はい。巴豆(はず)忍者だよ。対象はジグナーさんだよ。この巻物はお菓子の略奪。だからジグナーさん回復だよ」


 僕はレアの巴豆忍者巻物を目の前に置いた。この巻物札は防御が高い。相手からの攻撃を受けたらこの防御の数字が減る。大抵数値が低いのですぐ捨て場に行ちゃうんだよね。


 だから攻撃を選んだら大体一度使えば捨て場に置くのが基本だ。防御は数値が無くなるまで有効だよ。但し攻撃は一度だけ。しかしこのレア巴豆忍者は防御が無くなるまで何度ででも攻撃有効なのだ!


「オルフェ! お前は俺の味方だろう?」

「残念でしたね王子。オルフェ、良くやりました」

「うわっその巻物攻撃もえげつないな」


 ひきつる三人に僕は「エヘン」と尻尾を振った。


巴豆(はず)はレア巻物だからね。オルフェの持つ巻物は強いよ。どうする巻物追加する?」


 豆忍丸さんが言うと三人は揃って巻物の追加を申し出た。豆忍丸さんが巻物が沢山入ったつづら箱を取り出し側に置く。このつづらは味もランダムでレアはここにしか入っていない。


「オルフェは? 黒茶珈琲飲む?」

「うん。全員分お願いしてもいい? この巻物のお菓子と黒茶珈琲は相性良いから」

「確かに小腹すいたしな。丁度いいなこれ。美味いし」

「そう言えば本体はこちらでしたね」


 豆忍丸さんに黒茶珈琲を入れて貰い。僕はアレキセー王子からお菓子をわけて貰った。うん、この味も美味しい。巻物お菓子を食べつつ戦って行く。


「巻物を三つ下さい。一つをキャラメル味にして貰っていいですか? 黒茶珈琲との相性が最高です」

「こちらは巻物を五つ追加だ。オルフェ。味は好きに選んでいい」

「いいの?」

「構わない」

「ありがとうございます」


 味を選ぶ時はその味だけが入った巻物のつづら箱の中から選ぶ。僕はランダムから選んで苺チョコ味と抹茶チョコ味と普通のチョコ味が取れた。


「オルフェ……お前のくじ運はどうなっているんだ」


 どうやらレアが入っていたらしい。アレキセー王子の尻尾が揺れていた。うぅ、触りたい!!


「あれ? オルフェじゃないか」

「マリアーノ!」


 その声に振り向いたらなんとマリアーノがいた。ステッキと帽子が凄く似合っている。もう美少年にしか見えないんだけど。マリアーノは座敷に上がると僕の後ろにいる豆忍丸さんの隣に来た。


「ずいぶん熱中しているね。豆忍丸戦況は?」

「奇跡的に接戦だよ」

「奇跡的? 確かオルフェのくじ運最強って聞いた記憶があるんだが?」

「最強の巻物を持ちながらことごとくブライアムの仕掛ける罠に引っ掛かってる」

「うわっ、この巻物で勝てないってどれだけ素直なのさ」


 うぅ、悪かったね。だってブライアムの罠ばかりなんだもん! もう落とし穴イヤー!


「ジグナーはくじ運が全くないけど、でも彼は策士だね。凄いよ。王子様の攻撃をことごとくいなしてる」

「へぇ、本当だ。あ、王子レアがあるよ。王子は結構バランスいいけど、決め手にかける巻物だね」

「王子のレアはオルフェの仕業だよ。二人ともくじ運はないね」


 さっきから背後でマリアーノと豆忍丸さんが話してるけど、本気で戦うアレキセー王子とジグナーさんの耳には入っていないみたい。僕はちょっと計算に参っている。うぅ、ちょっと待ってそろばんパチパチするから。


「マリアーノはこのゲーム詳しいの?」

「詳しいも何もこのゲームを作ったのはマリアーノだよ」

「えっ!!」


 豆忍丸さんの言葉にその場にいた全員の目がマリアーノに集まる。アレキセー王子達も思わず手を止めていた。


「彼女はうちの柴忍頭(しばにんがしら)ルラメマ・シバの親戚だからね」

「そうなの?!」


 三人がまじまじとマリアーノを見て、巻物を見て店内を見渡した。どうしたの?


「なんだい? 何か文句でもあるのかい?」

「変わってるのは血筋なのか?」


 ブライアムが呟いたらマリアーノの目が座った。あぁ、確かにマリアーノもここのお店も変わっているかもしれいけれど……それって言わない方が良かったんじゃないかなぁ。マリアーノの隣の豆忍丸さんの目もちょっと座ってるよ。


「オルフェ、次これをブライアムに出そうか」

「え、これ? うんいいけど」


 言われるままに忍び豆の巻物を出した。この巻物凄く弱いよ? いいの? 何か逆らっちゃいけない気がして出したらブライアムは大きな罠を仕掛けていたみたいで僕は命拾いをした。ふぅ、助かった。


「ありがとうマリアーノ」

「どういたしまして。楽しんでくれて嬉しいよ」

「マリアーノもゲームしにきたの?」

「いいや。今日は新しい巻物の絵を納めにきたのさ」

「罠か?」

「レアだろう?」

「レアでしょう?」


 マリアーノの言葉に三人の目の色が変わる。今日知ったばかりなのにどんだけ好きになったの? ブライアムは罠がまだ欲しいの? 僕もう罠いらないよ~。


「残念。忍び豆の補助巻物だよ」

「豆か」

「いらぬ」

「溢れています」


 忍び豆は将棋で言う所の歩兵なんだよ。この世界にも将棋やチェスはあるからね。ジグナーさんとアレキセー王子の手には忍び豆が溢れているみたい。どれだけくじ運悪いんだろう。


「へぇ、いいの? この補助巻物を使えば君達が持つ忍び豆を最強の忍者に出来るのに」

「何だと!」

「どうゆう事です?」


 マリアーノの説明によれば、今回追加の巻物は【熊】と【花】で、熊は防御特化の忍びに、花は攻撃特化の忍びに進化させる事が出来るらしい。


「まず進化には忍び豆が二枚必要だ。一枚の忍び豆札を犠牲にしてもう一枚の忍び豆札を強化すると考えてくれ。しかし実際使うのはこの進化札のみだから忍び豆の二枚は捨て場へ。そして進化札の後ろに忍び豆が進化した姿が描いてあるから、これを使う」


 そうして見せてくれたのは忍び豆が熊の鎧を身に付け構えているイラストだった。


「格好いい!」

「ありがとう。だが、見るべきはここの防御の数値さ」

「これは……なかなか跳ね上がりますね」

「熊進化も花進化も種類はけっこう作ったよ。花進化の竜胆(りんどう)は熊札の力を二倍に引き出したりするから、組ませて使えばお頭より強いかもね」


 お頭より強いと言った途端二人の目の色が変わった。あれだけ忍び豆をため込んでいる二人には是非とも欲しい巻物なんだろうな。詰め寄る二人の迫力が凄いのにマリアーノは平然としていた。


「それをすぐ売れ」

「今すぐ買いましょう」

「まだ印刷してないから、巻物として販売出来るのは夏だね。夏の長期休みには間に合わせるよ」

「そろそろ時間よ~」


 巴さんの声がしてその場はお終いになった。アレキセー王子とジグナーさんが粘ったけど「特別扱いはしません」って言われてたのが面白かった。


 巻物を預ける時の三人の悲壮感漂う感じに僕は耐えきれなくてマリアーノと爆笑してしまった。アレキセー王子が僕に素の表情を見せてくれるのが凄く嬉しい。嫌われるかもって言ってたけどんどん好きになっていくよ。好きになる気持ちに上限ってないんだなぁって思った。


「アレキセー王子、くじ付きの美味しいお菓子はまだありますから。それ買って帰りましょう?」


 そういった僕にアレキセー王子の目がキラキラ輝いた。お城にいたアレキセー王子はこういうお店で遊ぶのは初めてだったんだね。子供みたいにはしゃぐアレキセー王子は可愛かった。ちなみにくじははずれでした。おふっドンマイです。



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