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14、新しい朝

 次の日、一晩眠ったら僕の心と体は元気になっていた。「おはよう」と軽いキスと共にアレキセー王子に起こされる。日の光の中見る赤い三日月は昨日見た物とはまた違ってキラキラ光って綺麗だった。

 気持ちが昂ると赤い月は現れてしまうんだって。だから王家の特別医師が作った【目隠し】を普段はしているらしい。


「お前がそこにいるだけで私の三日月ははしゃいで浮かぶからな。お前以外に赤月を見せるつもりはない」


 昨日から本格的にアレキセー王子が甘い。僕はもうアレキセー王子が好きだって言ったのにまだ落とそうとしてくる。もうこれ以上落ちるとこないのに。

 身支度をして朝食を食べてジグナーさんが来てすぐ言われたのは「豆柴甘露亭に連れて行きなさい」だった。


「え?」

「あぁ、そう言えば昨日は眠てしまったからそのまま帰って来たんだったな。ブライアムと行けばいいだろう」

「勿論財布は連れて行きます。が、どうも豆柴甘露亭は少し変わったお店らしいのですよ。私は安全に確実に菓子を手に入れたいんです」


 ジクナーさんの財布……ブライアム、なんかいっぱい買わされそうごめん。豆柴甘露亭はちょっと変わっているけど、一つ一つはそんなに高くないから……。僕は昨日行った雪白染屋も変わったお店だと思うけどな。


「オルフェ、どうする?」

「え? 僕が決めていいの?」

「どういう風の吹き回しですか? 貴方が人に選択権を与えるなんて」

「オルフェは特別だ」

「アレキセー王子も行くなら行きたいです。あそこは美味しい物もだけど面白い物が沢山あるから。見せたいです」

「王子もですか? わかりました。ではこの書類を一時間で仕上げて下さい。それと昨日の書類の直しをお願い致します」

「昨日の?」

「えぇ、漢字が間違っておりましたが、面倒だったのでそのまま流したんですよ。意味的には通じませんが音的には合っていたのでイケるかと。まぁ恥をかくのは書いた王子で私じゃいので」

「待て。間違いに気付いた時点で直せ。どこだ」

「《王子、自位》が《王子、自慰》になっておりました。エロい事ばかり考えているからですよ。宰相が怒っていましたよ」


 アレキセー王子の誤字に思わず吹いてしまった。わざわざ王子と付けるのがジグナーさんらしい。


「そこは気付いたなら直せ! その怒りはお前にも向けられる物だろうが」

「えぇ、確認ミスだと私も理不尽な叱責を受けました。全くいい迷惑です」

「理不尽じゃないだろう。俺はたまに何でお前が俺の補佐なのか不思議で仕方がない時がある」

「何を言っているんですか。貴方が並み居る補佐候補の心を我儘と俺様っぷりで軒並み折りまくった結果でしょうが」


 ジグナーさんいわく、アレキセー王子は今のジグナーさん並に言いたい事をはっきりいい、したい事だけをしてきたらしい。勿論王子としての仕事はきちんとしていたが、認めた補佐の言う事だけしか聞かず、自分と考えが違えば下準備から何から何まで一人でやってのけたらしい。


「あの頃貴方に天狗の鼻を折られたバカ貴族が何人いたことか」

「お前、そんな奴ばかり俺に付けていたのか」

「仕方ありませんよ。そんな奴しかいませんでしたからね。お蔭でまともな者だけが早い段階で残ったではないですか」

「……ジグナー。俺を転がすのにオルフェを使うな。今回はオルフェが行きたがったから良いが、俺を使うのにオルフェを利用したら相手がお前でもその鼻へし折ってやる」

「上等ですねぇ。使われたくないなら使わなくても良いようになさい」


 言葉は刺々しいのにその手の動きは正確でこれが二人の本来のやり取りなのだと知る。この政務の時間は何だかんだと僕は部屋を出されていたのだ。

 今日もジグナーさんが僕を外に出そうとしたけれどアレキセー王子がそれを「必要ない」と止めてくれた。正直すごくすごく嬉しかった。


「暇なら手伝いますか?」

「え? いいのですか?」

「別に構いませんよ。またあんな誤字があっても困りますから」


 吹き出しそうになって、慌てて口元に手を当てる。視線でアレキセー王子を見たらちょっと拗ねてたけど頷いてくれた。やった! お手伝いだ!


「洗濯物をおろしてお茶とお菓子を用意してからでいいですか?」

「えぇ。お茶は私にはかふぇおれを」

「俺は珈琲を」

「はい!」


 こうして僕は洗濯物をダクトに入れてから豆柴甘露亭の黒茶珈琲とそれを使ったかふぇおれを入れた。それから毎朝、簡単な誤字のチェックが僕の担当になった。




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