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13、話し愛い

 すっかり息の上がってしまった僕達の甘い雰囲気をぶち壊したのは何を隠そう僕のお腹の虫だった。


「そう言えば途中だったな。もう一度温めて来よう」

「あ、えっと、自分で……」


 そう声をかけたけれど、僕の腰は僕の意思に反して全然力が入らなかった。アレキセー王子がクスクス笑ってくる。

 さっきまで重なっていた唇が濡れていて僕は慌ててうつむいた。


「座っていろ」

「ひぃあ!」


 そう言っておでこにキスを落としアレキセー王子がシチューを温めにいった。


 うぅ~わぁぁ~!! 恥ずかしい!! もし僕の腰にちゃんと力が入ったら今頃ここを転げまわっていたと思う。僕はよろよろの足を叱咤しつつなんとか側にあった椅子に座った。そのままテーブルに赤い顔を突っ伏して隠す。


 その後戻ってきたアレキセー王子に頭にキスされて再び悶えたのは言うまでもない。


 食事と風呂を終えた僕等はアレキセー王子のベッドの上にいた。カチコチの僕を見てアレキセー王子がたまらず吹き出す。


「そんなに期待されると応えたくなるんだがな」

「違っ! アレキセー王子がここでって!」


 ビクッと肩が跳ねる。顔に血が上がった。話があると言った僕にここで聞くって言ったのアレキセー王子なのに!

 あんなキスをされた後に寝室に来たら嫌でも想像しちゃう!


「オルフェは厭らしいな」

「っ! や……」


 抱き締めて耳元でささやかれ、ハムッと軽く耳を噛まれる。

 ひぃやぁぁ! 耳が! 耳がぁ!


「あ、アレキセー王子!」

「ん? 逃げるな」

「む、無理ですぅぅ!! 話を、あっんっ、ふっ」


 ピクピクと耳を動かしてアレキセー王子の唇から逃げていたのに、耳から唇を離したと思ったら今度は唇を塞がれて。


「んっ、ふぁ、ンン」

「オルフェ、息をして」

「ンぁ、で、きな……」


 舌を絡める深いキスが気持ちいいけど苦しくてタップした。


「オルフェのうなじはとても綺麗だ」

「ひゃ!」


 やっと離れたら口がうなじを舐め始める。


「お前の鎖骨は華奢だ。ほら、すぐに色が付く」

「っあ、アレキセー王子!!」

「肩の丸みのなんと愛らしい」

「やっ、止め、ッ!」


 何でさっきからアレキセー王子僕の体誉めながら舐めてくるの? すっごくくすぐったいし、すっごく恥ずかしいんだけど!!


「止め、そこは、脇汚いからッ!」

「お前の脇の毛は薄いな。いい匂いがする」

「う、うそ、です!」

「お前の匂いは興奮する」

「ひぃや!!」


 腕を上げられ脇の下にアレキセー王子の舌先を感じて、僕は文字通り跳ね上がった。


「っ何で、さっきからッ! 恥ずかしい事、言ってくるんですか!!」

「何でも話すと約束したからな」

「ッ!」


 こ、こんな「何でも」は望んでないよぉ~。


「わっ! ちょっ、服脱がさないで下さい! アレキセー王子!! お話が!!」

「今日、お前がジグナー達と出掛けた後、マリアーノから前世の乙女ゲームという物の事を聞いた」

「……え?」


 シャツのボタンを粗方外された状態の僕の胸に唇を寄せ所有印を残しながら、アレキセー王子が上目遣いで告白してくる。それに僕は思わず動きを止めた。


「無理矢理聞き出したのですか?」

「いいや。俺の秘密と交換した。怒ったか?」


 伺うような縋る様な視線でアレキセー王子が言ってくる。いつもは自信満々に立っている狼の耳がかわいそうな程ペタンと寝て居た。思わず許してしまいそうになったけれど、これはそう簡単に許しちゃいけないヤツだ。


「怒ります」

「―――ッそうか……悪かった」

「許さないです。僕の事を知りたいなら僕に聞いて下さい。マリアーノは僕の大事な親友です」

「……すまなかった。もう絶対にしない。どうしたら許してくれる?」


 アレキセー王子の目が不安に泳いでいる。ギュッと抱き付かれる力が強まった。うぅ、黒い尻尾が腹側、つまり僕の方に来ていて誘惑が凄い。後で絶対もふもふさせて貰うんだから!! 僕は今怒ってるんだから、僕の顔の筋肉ニヨニヨしちゃダメだよ!


「マリアーノが話した前世の話は僕の秘密でもありました。だからアレキセー王子の秘密を僕にも教えて下さい」

「わかった」


 アレキセー王子は了承すると脱がしかけた僕の服を直し、自分の左目に指を入れ出した。


「アレキセー王子!!」


 僕はアレキセー王子が自分の目を潰したのかと驚いてその腕に飛びついたら、アレキセー王子が指先についた黒い膜の様なものを見せてくれた。思わずその左目を確認する。見上げて、息を飲んだ。


「赤い……月」

「これを見せたのは家族以外でオルフェが初めてだ。王族の目には赤い月があるとお前も聞いたことがあるだろう? それがこれだ」


 黒目の中に煌々と浮かぶ赤い三日月。それはアレキセー王子の両目に輝いていた。


「狼族は己の番にと求めた者が現れると目に赤い月が現れる。その月は気持ちが昂った時にこうして現れる。俺が番を決めたのは十四歳の時だ。愛して欲しいと泣いて歌う鳶色の髪と天鵞絨の目を持つ子犬に恋をした」

「……僕?」

「あぁ。お前だ。赤い三日月がこの目に浮かぶほど、俺はお前が愛おしい。この赤い月が現れる本気の恋をした相手を《月の番》と呼ぶ」

「僕が、月の番?」

「あぁ。狼は一途だ。月の番が変わる事はまずない。俺はお前以外要らない。俺の月の番はオルフェ、お前だけだ」


 赤い三日月から目が離せない。ゆっくりとアレキセー王子の唇が重なる。僕は魅入られた様に動けなかった。


「この赤い月が満月に近い女の番をもつ狼が次の王になる。俺は三日月だ。王位継承者からは外れている。赤い月持ちは己の月の番しか愛せない。だから愛人や側室の心配はしなくていい。俺はお前のモノだし、お前は俺のモノだ」


 その目の赤い月がドロドロに溶けたマグマの様な執着を見せて笑っていて、僕は思わず身震いした。


「あ、れきせー、おうじ?」

「怖いか?」


 コクンと頷く。息が止まってしまう程の威圧を感じて、思わず体が逃げをうつ。でも僕の頭はアレキセー王子の大きな手で固定されていて、下がることが出来ない。そのまま頭を上向かされ、僕は喘ぐように口を開いた。


「んッ……」


 上から食らい付かれる様に口づけされる。本能的な恐怖に涙が溢れた。怖い。そう思うのに、その執着が心地いい。相反する気持ちと入ってこない酸素に、目の前が暗くなっていく。しがみ付いていた腕の力が抜け手の落ちた先に黒い尻尾が触れて殆ど無意識にそれを掴んだ。


「オルフェ? 眠いのか? 赤い月についてまだ話していない事があるが、それは時期が来たら必ず話す。だから許してくれるか?」


 アレキセー王子が聞いて来たけれど、正直色んな事があり過ぎて僕の心も体も許容量オーバーしていたんだと思う。コクンと一つ頷くので精一杯だった。

 そのまま黒い尻尾に包まれて眠る。この尻尾の毛に埋もれていれば怖い事も不安な事も何も無い。僕の黒い尻尾依存は更に強化されたのだった。



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