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12、繋ぎ手にキスを

 僕は眠ってしまったけれど、迷っていた色も衣装の形も全てアレキセー王子が続きを決めてくれた。もめつつもブライアム達の話し合いも終わり、僕はアレキセー王子に抱っこされて王子の寝室に運ばれていた。目覚めると既に周りは暗かった。


「あ、あれ?」


 きょろきょろと寝ぼける僕にアレキセー王子が笑いながら取っておいた食事を出してくれた。


「ごめんなさい」

「構わない。昨日あまり寝れていなかったからな。しかもお前が眠っていたあの白いソファークッションは雪白染屋一押しの人気商品【白い揺り籠】の中身だ。どんな赤子でもあの揺り籠に入れば途端に眠ってしまうらしいぞ。気持ちよかったか?」

「はい! クッションはふわふわで、尻尾がもふもふで幸せでした」


 あの時の幸せを思い出して元気に返事を返したら、アレキセー王子がちょっと苦笑いをしていた。


「あ! 僕、泣いてないし赤ちゃんでもないです!」


 からかわれた事に気が付いて慌てて付け足した。


「赤子ではない事は知っている。よく泣くがな」

「うぅ~」

「可愛い仔犬だ」


 アレキセー王子の「可愛い」に照れて「仔犬」にふて腐れたら笑われた。


「ほら」


 そう言ってアレキセー王子はふて腐れた僕に、黒い尻尾をくれたんだけど……うぅ、いらないなんて言えない。


 僕は尻尾の誘惑に負けた。スプーンを置いて席を立ち、尻尾に近づいてちょっとだけ、ね?

 あぅもふもふ気持ちいいデス。


 夕飯のシチューは美味しいし悩みも解決したし……ん? 何か忘れているような? 


「どうした?」


 ニコニコ笑う僕を優しい笑みで見ていたアレキセー王子が聞いてくる。それであっと思い出した。そう、王位継承権だ。男同士だと王様になれないって……。アレキセー王子にとって僕はどの位置にいるんだろう?


 好きだって言われて僕は迷う事なく伴侶だと思っていたけど、王様になるなら僕は愛人ってことだよね? 

 いずれアレキセー王子は正式な王妃を娶る事になると思う。それは……


「嫌だ」

「オルフェ?」


 想像だけで僕の耳と尻尾はペタンとなってしまった。


「どうした? 言葉を飲まずに言ってみろ」


 アレキセー王子に促され僕は迷いながらも口を開いた。


「昨日、男同士だと王位継承者から外されるって聞いて……」

「あぁ」

「僕は、僕は……アレキセー王子の、愛人、ですか?」

「愛人だと思うのか? 本気で?」

「……わかんない、です」

「愛人で良いのか?」

「ッ! 嫌だ!」


 思わず顔を上げたら涙が零れた。僕は愛人は嫌だ。伴侶がいい。でもそう僕だけが願っても王子がどう思っているかなんてわから無い。


「愛人だと思うのか?」


 目を合わせて重ねて問われた。アレキセー王子の目は怒っていた。どうして「違う」って言ってくれないのか。他と比べればわかるだろうとでもいいたいの?


 ここで僕が「違う」っていったらアレキセー王子の意志じゃない。 もしかして責任負わないようにってこと? そんな人じゃないと言える程、僕はまだアレキセー王子を知らない。そう思い至ったら僕は怒りを抑えきれなかった。


「僕はアレキセー王子しか好きになった事ない! 誰かと比べる事なんて出来ないし、僕はまだ判断できる程アレキセー王子の事知らないんです。アレキセー王子が愛人にしたいと思っているか伴侶にしたいと思っているかなんて僕にはわから無いよ。だって言われた事ないもん」

「ジグナーから聞いていないのか?」

「どうして……っ」


 ジグナーさんは知ってるんだと思ったら、悔しさと悲しさと怒りがごちゃ混ぜになって押さえられなかった。

 僕とアレキセー王子の事なのに!

 どうして伴侶か愛人かを他人の口から一番最後に聞かされなきゃならないの?

 あまりのショックに尻尾を離した。


「オルフェ?」

「伴侶にしたくないならそう言ってくれたら勘違いしないですむから。でも、伴侶にと思わせておいて後で愛人にするくらいなら今はっきり言って下さい。逃げるのずるい!」


 僕はアレキセー王子から離れたのに、アレキセー王子が強く腕を引いて抱きしめてくる。


「やだ! 離して!」

「伴侶にしたいに決まっているだろう! どうしたら愛人等と馬鹿げた事を思い付くんだ!」


 大きな声を出され、腕の中でビクッと体が震えた。大きな声に驚いて内容が耳に入ってこない。どうしよう。体が勝手に震える。それを感じているはずなのにアレキセー王子は腕を離してくれない。力が増す腕に怯えて縮こまると僕の頭に頭を寄せたアレキセー王子が小さく呟いた。


「俺はお前を伴侶にしたい。 何故、愛人等と……。俺はお前を大事にしていなかったか? 俺の心は届いていなかったか?」


 初めて聞く気弱な声に恐る恐る顔を上げた。


「怯えさせて、すまない」


 アレキセー王子は凄く苦しそうな顔をしていた。そっと手を伸ばしてアレキセー王子の頬に触れる。

 僕は大切にされていたと思う。でも……


「僕は、いつも最後に知るんです」

「オルフェ?」

「いつも僕はアレキセー王子と僕の予定をジグナーさんから聞きます。アレキセー王子が今日忙しい事も、アレキセー王子がかふぇおれより珈琲が好きな事も、舞の練習が出来ない知らせも。そして今回の大事な伴侶の事も。僕はいつも、いつも最後に人の口から知るんです」

「それはジグナーがスケジュール管理をしているからで」

「わかってます。ジグナーさんとアレキセー王子が僕によかれと思って予定をたてている事も、アレキセー王子に予定管理が必要な事も。でも、伴侶にしたいっていうアレキセー王子の気持ちを、どうして僕はジグナーさんから聞かないと駄目なの?」


 さすがにショックで、嗚咽が漏れた。


「オルフェ、その、すまない。そこまで深く考えていなかった。ただよかれと思って……」

「知ってます。でも……」


 善意や好意からの行動だとわかってはいる。だから、最後の最後に言いよどむ。


「言ってくれ、オルフェ」


 アレキセー王子に促され、僕は顔を上げた。


「アレキセー王子の相手はジクナーさんじゃない。僕です。どうして直接言ってくれないんですか? どうしてそこに僕の意思はないんですか? 僕に話せない事まで話せなんて言わないよ。でも僕とアレキセー王子の二人の事はアレキセー王子から一番先に聞きたい。他人の口から一番最後に決定されたものを聞き続けるのは……傷付きます」


 目を反らさないまま告げたら、アレキセー王子が辛そうに目を伏せた。


「言ってもいいのか?」

「え?」

「お前は俺を知らないと言ったが、俺だってお前を知らない。俺は本当は我が儘だし独裁的だ。お前に好かれたくて仮面を被っていただけだ。王子の器にもない。俺が話せばそれがばれる。だから、黙っていた。俺はお前が思うような王子じゃない。嫉妬深いただの男だ」

「アレキセー王子?」


 自嘲する様に笑うアレキセー王子は初めて見る顔をしていた。


「尻尾を触らせるのは仔犬か番くらいだと知っているか?」

「え?」

「外で仔犬以外に尻尾を触る事を許すのは番にだけだ。お前はそれを知らなかったのだろう?」

「す、すみません」

「俺はお前がそれを知らないと知っていながら触らせていた。どういう事かわかるか?」


 言ってアレキセー王子が見詰めてくる。強い雄の視線は隠しようのない執着で染まっていた。


「俺は子供の頃に会ったあの日からずっとお前を伴侶にと思い続けている。執念深いだろう?」

「アレキセー……王子」

 

 はじめて見せられた執着に背中が震える。でもそこに嫌悪はなくて、むしろそれは喜びで……。

 アレキセー王子が僕の頬に唇を滑らすのを、僕は驚きと喜びに固まりながら受けた。


「本当は今日一日ずっとマリアーノに嫉妬していた。俺じゃなくマリアーノを頼ったお前に怒りを覚えていた。自分でも狭量だと自覚している。だが自分ではどうしようもない。俺はお前に頼られたいし愛されたい。不安でも怒りでも構わない頼むから俺を飛び越えていかないでくれ。俺を一番に頼ってくれ。頼む」


 アレキセー王子もあの頃から僕を求めてくれていたの? 僕らは同じだったんだ。伴侶にしたいと。マリアーノに嫉妬したと。一番に頼って欲しいと。僕はやっとアレキセー王子の本音を聞いた様な気がした。


「僕だってあの日からずっとアレキセー王子一筋だよ! 自分ばかり思ってるみたいに言うの狡いです」

「狡いか?」

「狡いです」

「嫌いになったか?」

「なるわけないじゃないですか! 僕の執念凄いんですからね!」


 何せ前世も合わせたら二倍の執念なんだから。


「だいたい僕だって我が儘だし、臆病だし、すぐ泣くし、頑固だし、上げたらキリがないくらい嫌われる要素あるんですよ? いいんですか?」

「勿論だ。お前が居なければ生きていけないくらいお前が好きだ。愛してる」

「僕も愛してます」

「これからはどんな情けない事も隠さず一番先にお前に話すが……嫌わないで欲しい」

「はい。不安でも不満でも怒りでもいいから。僕を、後回しにしないでちゃんと言って下さい。僕も一番先に頼ります」


 お互いが大切で、お互いが言ってもわから無いからと相手を思って退いていた。でもそれがどれだけ相手を傷つけるかを、僕等は同時にお互いにされた事で知った。一番大事だと言いながら。好きだと、愛していると言いながら。一番お互いの愛情を信頼していなかったんだ。


「これからは何でも一番にオルフェに話そう」

「僕も。これからは一番先にアレキセー王子に頼ります!」


 そう約束し、僕等は恋人繋ぎをしたお互いの手の甲に誓いの口付けを贈った。

 これはこの世界の指切りみたいな特別な約束の印。


 僕等はやっとこの日、本当の意味で恋人になれた。

 どちらからともなくそのまま唇を重ねる。深く激しいキスに溺れていった。




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