11、雪白染屋
そのお店は真っ白な布を何枚も重ねた繭みたいな不思議な形をしていた。大きなテントみたいな形なんだけど全部が白い布で出来ていて汚れとか雨とかどうしているんだろうってすごく気になる。
「ここが雪白染屋です」
ジグナーさんがテントの入り口の布を捲ると中は色で溢れていた。
「うわぁ~! すごい! すごい!!」
「これは凄いな。おい、天井もだぞ」
「あッ!本当だ!」
ひらひらと舞う色とりどりの布にブライアムと二人口をポカーンと開けて見上げていたら奥から「いらっしゃいませ」と柔らかい男性の声がした。
「ジグナー、来ていたんだね」
「ロアンジ兄さん」
「お兄さん!!」思わずブライアムと一緒に叫んでしまった。
「いらっしゃい。雪白染屋の店主ロアンジ・コリーと申します」
「ロアンジ兄さんは母方の血のコリーで生まれてきたので、ボーダーコリー侯爵家の籍には入っていないのですよ。母方のコリーは子爵です」
「あまり貴族っぽくは無いけれどね」
そういえば聞いたことがある。貴族の中ではその家を継ぐのに種族で分けられる場合があると。この国の王族もそうだ。狼として生まれた者だけが王族になれる。そう言う事もあって貴族の結婚は基本同族が好ましいと言われていた。
僕とブライアムも自己紹介をする。ジグナーさんとブライアムが同室だと言ったらロアンジさんは楽しそうに笑っていた。
「最近ジグナーの機嫌がいいのは君のお蔭のようだね」
「ロアンジ兄さん、余計な事は言わなくていいです。早速ですが春祭りの地布は何色が残っていますか?」
「わかったよ。そうだね、あぁもう三種類しかないね。緑と紫とピンクだよ。今回は来るのが遅かったね」
「えぇ。王子はもたもたしていましたし、同室者は抜けていますから」
「ふふ。仲良しでいいね」
ブライアムは衣装の用意を忘れていたらしい。
「では王子達が緑で私達が紫でお願い致します」
「ちょっと待ってくれ。俺は緑が良い」
「駄目です。オルフェの目の色を見なさい。ここで私達が緑を選ぼう物ならあの王子があの手この手でへそを曲げて面倒なんです。大体私が今日気が付いて貴方をここに連れて来なければ貴方は一人であの春祭りの舞台でピンクの衣装をはためかせて踊ることになっていたのですよ」
「ぐっ……別に他の舞の組みに混ぜて貰う事も出来る」
「へぇ、そうですか。構いませんよ。私はそれでも。貴方がダンスですでにパートナーのいる女性に言いよって要らないトラブルを招く間男になろうと、既に舞いの構成が出来上がったグループにそれらを全て破棄させ一から作り直せと強要する様な迷惑な事をしようと。私は試験免除ですから」
「あ、い、いや、ちょっと……」
「頑張って下さい」
「すみませんでした。どうか一緒に出て下さい」
見事な土下座にジグナーがにっこり笑う。
「言葉の謝罪など一銭の特にもなりませんよ?」
「衣装代は全て払います」
「それから?」
「そ、それから……?」
固まるブライアムがちょっと哀れで僕はそっとしゃがむとブライアムに囁いた。
「豆柴甘露亭で忍び恋桜を買う」
それを聞いてすぐブライアムが言う。それを聞いたジグナーさんの視線がこっちに向けられた。ふぇ~どうしよう。なんか無駄にドキドキするよ。
「オルフェ。豆柴甘露亭のお薦め菓子はなんですか?」
「え、え~と【豆柴忍々シリーズ】がお店では一番人気で、【八つ忍紋】も当たり付きのお饅頭で美味しいです。裏に肉球が書いてあったらあたりなんです。他にも色々で……黒茶珈琲もお薦めです」
「そうですか。では豆柴甘露亭のお薦め菓子全て買って頂きましょうか」
「はぁ~わかった」
立ち上がったブライアムが疲れたように言う。色見本を持ってくるというロアンジ店主さんについていったジグナーさんが見えなくなってからブライアムに「大丈夫?」と聞いてみた。
「あぁ、元々衣装代も全部出すつもりだったし、礼もする予定だったからな」
「素直に受け取れないんですよ。許してやって下さいね」
そう言って色見本を抱えて先に戻ってきたロアンジ店主さんが言っていた。
「何を言っても貴方が受けてくれるから甘えているんですよ。可愛いでしょう?」
くすくす笑うロアンジ店主さんに、僕とブライアムは、言われなきゃ甘えだって絶対気付けないよ~と同じ事を思っていた。
戻ってきたジグナーさんとブライアムと三人で色見本を見つつ、ロアンジ店主さんに体のサイズを計って貰う。
色見本の表紙には【雪白の布を《希望》の色にお染致します】と書かれていた。アレキセー王子の鮮やかな色という希望を伝えつつ、似合う色を見繕っていく。すると店の入り口が開いた。入って来たのはアレキセー王子。
「どうだ。決まったか?」
「アレキセー王子! お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」
「ラブラブなのは構いませんが選ぶ方に集中して下さい」
「ら、らぶッ」
「羨ましいのならそうだと言えばいい物を。ブライアム、さっさと手を出してやれ」
「は? 俺?」
「全力で遠慮します!」
頭上で未だ三人が言い争っているが、アレキセー王子がただいまと言いながら尻尾を貸してくれたので僕はもうもふもふに夢中だ。尻尾を抱きしめられる位置に移動したら白い大きめのソファクッションが置いて有った。靴を脱いでよじよじと登る。
ふわふわのクッションともふもふの尻尾に、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。う~んもふふわ幸せぇ。




