曾祖母のこと
階段の下の、玄関の脇の柱の上部。
そこに付けられている小さなスピーカーが鳴るのを、階段の一番下の段に座って、三歳の私は待っていました。
二階で寝たきりの曾祖母が枕元に置かれたボタンを押すと、スピーカーからベルの音が流れます。
そうしたら、二階に上がっても良いのです。
曾祖母に会いに行けるのです。
もう、話も、ほとんど聞き取れないけれど。
私は曾祖母が笑ってくれるだけで嬉しかった。
曾祖母が口を動かした後、頷くだけの私。
そうすると、笑ってくれました。優しい笑顔。
布団の脇にぺったり座って、曾祖母の顔を覗き込むのが大好きでした。
曾祖母が起きていて、私を呼ばないと、二階に行くことは禁じられていました。騒がしくするからと。
3歳の春に引っ越して、その夏にはいなくなった曾祖母。いなくなった、その時を覚えていません。
でも、暫く残っていたそのスピーカーを見上げるたびに、私はちょっと階段の下の段に座ってみたくなるのでした。待っていたらベルが鳴らないかな、と。
五歳になるくらいまで。