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水蜘蛛  作者: 漆原康弘
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The Mask Of Solo

マスクの使い方は大きく分けて三種類ある。


まず予防の為のマスク。

自己管理の手本である。

体内へ菌を侵入させまいと予防する先手の良策。

侵されてからでは遅いのだから。

マスク=現在進行形で病、ではないのだ。

菌ではないにしろ花粉もマスクで以て遮りたい。


次に、菌を撒き散さない為のマスク。

感染した際、他人への二次感染を防ぐ為の謙虚なマスク使用法だ。

染つして治るなら敢えて装着しないのも一手だが、相手からしてみれば迷惑極まりないだろう。


というのは一般的に知られる「マスク使用法」で間違っていない。


でもそうじゃない。

マスクの本当の使い方を多くの人間は知らない。

いや、きっと知らずとも生きていけるのだろう。

マスクの真の存在理由は、私のような人間が自分の世界を楽しむ為に在るのだ。



映画館へ行ったとすれば、物語に集中し、ニヤニヤしたくなる場合だってある。

スクリーンの向こう側の世界に意識をダイブさせ、まるで自分自身の肉体が霧散し、意識のみが劇場と一体となるかのように集中したなら、自分の反応や他人の反応に気を留めようもない。

心ここに在らずが没頭の常。

ポップコーンやコーラの存在すら忘れて没頭し、スタッフロールが流れる辺りで徐々に肉体と自我のピントが正常化していき、漸く余ったポップコーンとコーラの存在を思い出すのが、一番アツい映画の愉しみ方だと勝手に思っている。

万人がそうあるべきとは思わないが、たまに集中せず空気も読まず、ちょいちょい妨げてくる現実世界の住人が居たりする。

いちいち周りを気にしているわけでもないが、そんな人間に無意識の内に放出される素直な反応を客観視されたかない。



前置きが長くなったが、ここでマスクの登場である。

マスクで顔半分を覆えば誰にも悟られることなく心おきなくニヤニヤを堪能できるという寸法。

性を象徴する妖しいシーンだろうが、悶えるような甘酸っぱいシーンだろうが、昂りが最高潮に達する物語のピークだろうが、マスクがあれば存分にニヤニヤできるのだ。


本屋の立ち読みなんかでは特にマスクが活きる。

本を物色する客全員が文字の虜ではなく、寧ろ素面でウロウロしている人間の方が相対的に多かったりするのでニヤニヤは浮いて目立ってしまう(勿論、立読みという覗き行為を長く続けるつもりも無いし、その為に本屋に入るわけでもないが、やはり立読みは愉しい)。


携帯音楽プレーヤーなんかもそうだ。

ロックを耳のお供に独り道を歩いている時、入り込み過ぎてロックな顔になってしまうなんて、私のような人種なら理解できるはずだ。

下手をすればぼんやりと歌ってしまっていたりもする。

そんな同族達を稀に見掛けることもあるが、そんな人間は寧ろ好きである。

愛すべきその曲の主か、または架空の自分自身の恍惚がロックな顔を作り上げているのだ。

そんな世界から我に返った時の恥じらいといったら、ない。

見ず知らずの他人の目があれば尚更である。



そこでマスクの登場だ。

マスクは我々内なるロックを秘めた奴等の味方。

さあ、今すぐマスクを装備して公共の面前で堂々と恥らいなく顔でロックをキメるのだ。

いやしかし、顔でロックしても恥ずかしくない世の中だったら良いのに。

いつかそんなシャイなロック野郎達をニヤニヤさせる側の人間になりたいもので。




マスクとは、自分だけの内なる世界を楽しむ為に作られたと思っている。

何千年も昔、後に"マスク"と呼ばれるようになる"布"で顔を覆った人間は、風邪がどうこうといった健康思考なんかさらさら無くて、ただ表情を隠したかった照れ屋なだけかもしれない。


都市伝説"口裂け女"も、ただマスクを好んで着け続けていたある女性が頻繁に目撃され、噂に異端視が混ざった結果として生まれた与太話かもしれない。

そうだったら彼女もロックであるが故の被害者と言える。



今までのようにこれからもマスクで自分だけの世界を、"ソロプレイ"を楽しみたい。

数年後に口避け男の噂が立ったなら犯人は私か若しくは、同じ魂を持つ誰かかもしれない。

火の無いところに、である。


マスクを装備した人間を見掛ける際は、風邪か花粉症かだけでなくて、内なるロックを秘めたアツい奴かも、という選択肢を。

嗚呼、マスクに栄光あれ。

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