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水晶物語 ~運命の継承者~  作者: 御門屋運命
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第十章『親友との再会』

    第十章『親友との再会』


 フェリアの朝は早い。

 その日も彼女は日が昇ると同時に目を覚ました。

 前夜のあの悪夢を考えるならばもう少し眠っていても良いはずなのだが、彼女は朝日が昇ると目が覚める体質の持ち主であったのだ。

「ふぁ……」

 だが、やはりまだ眠いらしく口からは欠伸がこぼれる。

「ラックー、もう朝だよ」

 隣で眠っているラックを起こすように声を掛けるが、一向に起きる気配はない。

「仕方が無いか……」

 昨夜、岸まで辿り着いた二人は湖の東にあるであろうキャンプ地を目指さずに湖の近くで野宿をする事にした。奴が自分達を探してキャンプ地に現れるかもしれなかったからだ。

 だが、前述した通りキャンプ場外は野生の獣や魔獣が出没する可能性があったため、ラックは疲れた体に鞭打って周囲を探索し安全を確保したのであった。

「ただでさえあんな化け物とやりあった後だっていうのに無茶するから……」

 その疲労はかなりのものであるはずだ。

 それを証明するかのように、ラックは未だ深い眠りに落ちている。

「仕方ない。朝ご飯の良いでもしておきますか」

 リュックの中から食材を取り出し、火を熾して調理を始める。

 幸いリュックには防水加工が施されていたため中の品は傷んではいない。

 そんなこんなで約一時間後

「……よし、出来た」

 味を確認して料理の完成を喜ぶフェリア。

 なかなかに会心の出来だったのか小さくガッツポーズまで見せている。

「さて、そろそろ起こすか」

 フェリアはラックを起こそうと彼の体を揺り動かす。

「おーい、朝だよー。ご飯も出来てるよー、起きろー」

 だが、ラックが起きる気配は無かった。

「ラック、ねぇラックってば」

 更に呼び掛けるが、やはり起きる気配は無く、それどころかすやすやと寝息を立てている。

「む……」

 流石に三度目ともなると気に障ったのか、フェリアの額に怒りマークが現れ始める。

 スッ……

 すると、フェリアはおもむろに立ち上がり焚き火に当てていたヤカンに手を伸ばす。

 ヤカンからは濛々と湯気がたっており、その中に何が入っているかは一目瞭然だった。

「ラック、朝だよ。そろそろ起きなさい」

 フェリアが最後の確認をするようにラックの名を呼ぶ、だがしかし、相変わらずラックに起きる気配は無い。

「ふぅ……」

 無言で、ヤカンをラックの真上に運ぶフェリア。そして

 ダバダバダバ……

 ヤカンを逆さに向ける。

「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 白い蒸気と共にラックの悲鳴が静かな湖畔に木霊する。

 彼は飛び上がると同時に辺りを駆け回り、一目散に湖の方へと走り去ってしまう

 それから数分後、全身をびっしょり濡らしたラックが帰って来た。

「お、おはよう……」

「おはようラック、ご飯の用意出来ているよ」

 フェリアはニコニコ笑いながらそう返事をする。

「フェリア……」

「何?」

「今さっき、寝ているところに熱湯を被せられた気がしたんだが、気のせいか?」

「うん、気のせい」

 そんなフェリアの反応を見てラックは呆然と立ち尽くす。

 長い付き合いなので解る。どうやらフェリアはお怒りのようだ、と。

「さ、ご飯にしましょう」

「ああ……」

 触らぬ神に祟りなし、ラックは黙ってフェリアの用意してくれたご飯を食べたと言う。



 それから三時間後、時刻は昼。

 二人はレブルス国の首都、レブルスに辿り着いていた。

「うわぁぁ、大きな街だねー」

 遠巻きにレブルスが見え始めた頃からフェリアは子供のようにはしゃいでいた。

 そもそもフェリアは村の外の世界に興味があった。首都レブルスは首都であるだけあってレブルス国で最も文化レベルが高い都市だ。フェリアとしても旅をするならばこの都市を外す事は出来なかっただろう。

「ラック、お城ってどこにあるの?」

 目を輝かしながらそう問い掛けてくるフェリア。当然、フェリアは本物の城を見た事がない。

「街のちょうど真ん中にあるよ。大通りに出れば見えるはずだ」

「本当? 早くいきましょう!!」

 街に足を踏み入れて一時間はこんな感じでフェリアの観光に付き合う形となってしまった。

 街の中の雰囲気や昔と違う点を見て回る良い機会だと思ったラックはそれに異を唱えなかったのだが

「(随分と賑やかだな)」

 街並みや根本的な雰囲気は変わった様子が無かったのだが、どうも街全体が賑わっている感じがあり、当時の自分が知っているそれと違う事に疑問を感じていた。

「(何かあるのか? 一度確認する必要があるな……)」

 そう考えたラックは

「フェリア、街を見て回るのもいいが、先に今晩泊まる宿に行かないか?」

 フェリアにそう提案する。

「え、宿もう決めてるの?」

「ああ、昔父さんに連れて行ってもらった店が宿をやっていたはずだ」

 それを確かめるためにも行ってみないかとラックは提案する。

 フェリアとしてもどうせ楽しむならばじっくりと楽しみたい。

 そう言う事ならばとラックの提案を承諾する。

 そんな訳で大通りから路地を曲がる事二回。

「……で、ここがその宿?」

 二人の前には一件の店があった。

 見た目的には並みより上と言う感じで、他の店と大きく異なる点は看板がU字型でまるで逆立ったヒゲのようになっており、看板には『白ヒゲ亭』と書かれてあった。

「宿って言うより酒場って感じだけど?」

「この店は一階が酒場をやっていて二階が宿をやっているんだ。酒場には腕自慢の連中が集まる事で有名で客入りもいい」

 ラックがフェリアにそう説明をしていると

 ガッシャァーン、ドン、バタバタバタ

 宿の中から何やら争いの音が聞こえてくる。

「何?」

「相変わらずだなぁ」

 驚くフェリアを他所にラックは懐かしいものを見ているような表情を見せる。

「どういう事?」

「論より証拠、見た方が早い」

 ラックはそう述べると店の中に入っていこうとする。

 フェリアもその後を追い店の中に入ると、そこでは予想通り喧嘩が行われていた。

「……えーっと、止めた方がいいんじゃない?」

 店内には喧嘩をしている面々の他にも客が居たが、誰もその喧嘩を止めようとしていなかった。

「レブルスでは喧嘩が合法的に認められているんだ。止めたら逆に罪になる。喧嘩なんてこの街じゃ日常茶飯事なんだよ」

 レブルスは実力式階級制度を取っている。実力を明確に示すために行われる最も単純かつ解りやすい方法は決闘だ。そのため、レブルスでは特定の手順を守れば街中での争いは合法となり、それを正当な理由なく止めた場合は止めた者に罰則が与えられる。

「けど、随分と面白い状況になっているな」

 喧嘩が行われている事は予測していたが、その状況は予想していたものとは少し異なっていた。

 状況は一人対六人で全員男。

 六人組の方はおそらく冒険者と呼ばれる類の連中で、全員武器と鎧を所持している。

 これに対して一人の方は武器を持っておらず、袖の部分がない服を着ており動きやすそうな身なりをしている。その手に格闘用のガントレットを着けている所を見る限り、格闘家か何かなのだろうと言う事が読み取れる。

 年齢はラックやフェリアと同じぐらい、金髪碧眼で多少筋肉質だがバランスの取れた肉体を持っており、顔立ちもやや陽気な感じはするが美形の部類に属していた。

「ん……?」

 ラックはそんなガントレットを着けている男の顔を見た時に妙な感じを受けた。俗に言う既視感と言う奴だ。ラックがその正体に関して悩んでいると

『おおおおりゃぁぁぁぁぁっ!!』

 目の前の闘いは次の段階へと進んでいた。

 冒険者達の一人が動きを見せる。男は武器を所持していたが流石に店の中で武器を振り回すような真似はしないのか、素手で殴り掛かって行く。だがガントレットの男はその拳を軽く捌き

 バキィ!!

 冒険者のがら空きの顎にアッパーカットを叩き込む。ガントレットの装着された拳でそんな事をされては一溜まりもなく、男は床へ伏する事となる。

「ざまねぇな。面倒だ、まとめて掛かって来いよ」

 ガントレットの男がそう露骨に冒険者達を挑発すると、冒険者達は頭に血が上ったのか男の挑発通り一斉に襲い掛かろうとする。だが

 ヒュッ……

 ガントレットの男はテーブルを足場に襲い来る冒険者達の頭上に飛翔する。テーブルを足場にしたとは言え助走も無しにそれだけの跳躍を見せる事には驚きだ。そして

 メキ、ババキィ!!

 ガントレットの男はそのまま冒険者の頭に蹴りを入れるとその反動を利用して他の二人の頭も同時に蹴り飛ばしてしまう。その何れもが一撃必殺の威力であったのか、一度に三人の男が立て続けに床に伏す事となった。

「ふぇー、すごいね。圧倒的じゃない」

「ああ、だがこれで状況が変わる」

 ラックの言葉を実現させるように、残った冒険者達はそれぞれの獲物を手に持ち始める。

「素手の相手に武器を使うつもり?」

「格闘家がガントレットを装備しているんだ。寧ろ今までハンデがあったぐらいだよ」

 これで武装の面での条件は互角となる。

「でも、これって何だかフェアじゃない」

「フェリアは反則とか卑怯な行為嫌いだもんなぁ」

 そもそも一体多数の闘いであり、始めは武器を使っていなかったくせに自分達が不利と感じると武器を使う。客観的に見れば確かに少々褒められた行動ではないかもしれない。

「ラック、ここは私達も……」

 加勢しよう、とフェリアは言おうとするが

「大丈夫、これでもハンデがあるぐらいだ」

 ラックはそう述べた。

 冒険者の一人の獲物は剣だった。その剣を手にガントレットの男に切り掛かっていく。

 ヒュ、ヒュンッ!!

 鋭い斬撃がガントレットの男を襲うが、男はその全てを回避していく。冒険者の男も決して腕が悪い訳ではないが、ガントレットの男の技量はそれを完全に上回っていた。

「ガントレットの方は剣との闘いに慣れている。それに対して剣の方は完璧に気迫負けしているな。あれじゃまず当たらない」

 冒険者の男が剣を振り上げ更に切り掛かろうとするが、その一瞬を衝いてガントレットの男が素早く間合いを詰め。

 ミシッ……

 拳を腹に突き立てる。深々と突き刺さる腕に店内に響く鈍い音、どうやら骨が折れてしまったようだ。素手の連中が気絶しているだけなのを見る限り、どうにも武器を持った相手にはそれ相応の対応をするタイプであるようだ。

「次はハンマーか」

 冒険者側の最後の一人の武器はハンマーだった。見るからに力自慢と言った感じの男で、使い込まれたそのハンマーにはそれ相応の威力がある事は容易に想像出来る。少なくとも人一人を一撃で粉砕するには十分な威力があるだろう。

「馬鹿だねぇ、武器にばかり頼ってるようじゃ同じだぜ」

 それでもガントレットの男の態度は変わらなかった。

 ガントレットの男はハンマーから逃げようともせず、自らそのハンマーに当たりに行くように踏み込む。そして、そんなガントレットの男目掛けてハンマーが振り下ろされる。

 ガキィィィンッ!!

 火花が散る。

 見ればガントレットの男はハンマーを避けるどころか真っ向からハンマー目掛けて拳を突き出していた。それを見ていた殆どの者が男の拳が砕けたと思っただろう。だが、ハンマーはガントレットの男を粉砕するどころか

 パラパラパラ……

 逆にガントレットの男の拳によって粉砕されてしまった。続けて放たれる拳によってハンマーを使っていた冒険者の男も床に伏す事となる。

「強いな……」

 非の付け所の無い強さだった。

 格闘と言う面だけで見ればこれまでラックが見てきたどんな者よりも強かった。

「ん……」

 そんなガントレットの男の後ろで床に伏していた冒険者の一人がボウガンを構えている姿が映った。男の方は目前のハンマーを使っていた冒険者に気を取られているのか、その事に気付いてはいない。

 ヒュンッ!!

「危ない!!」

 ボウガンの矢が放たれると同時にラックは動いていた。

 カッ……

 剣の鞘がボウガンを受け止める。

 同時にラックは鞘を引き抜き、ボウガンを撃った男目掛けて放り投げボウガンを粉砕する。

「おい、不意打ちによる飛び道具の使用は禁止されているはずだ」

 レブルスの決闘のルールの一つにそう言うルールがあった。

 ルール違反があった場合は第三者の介入が許されている。

 冒険者の男も頭に血が上っていたのだろう。

 ラックにそう諭されると反論もせずに自ら床に座り込み、裁きを受ける姿勢を見せる。

「ラック」

 ラックの下へフェリアが近づく。

「ちぇ、私が止めようと思ったのに」

「悪い悪い、先に手が出ちまったんだよ」

 ラックはフェリアの苦情をそう受け流しつつ

「横槍入れて悪かった」

 ガントレットの男にそう声を掛ける。すると

「まったくだ。せっかく面白くなりそうだったのによ」

「……それは悪い事をしたな。どうすれば許してくる?」

「簡単さ、こいつらの分だけ、いや、それ以上にお前が俺を楽しませてくれればいい。それなりにやれるんだろ?」

 男はラック目掛けて拳を突き出し、そう声を上げる。どうやら喧嘩を売られているらしい。

「やれやれ」

 少々困ったような呆れたような表情を見せるラック。

「買うの?」

「やるしかないだろ。ここでは売られた喧嘩を買わない奴は腰抜け扱いされるんだ。それに……売られた喧嘩を買わないほど俺は温厚な性格じゃない」

 問い掛けてくるフェリアにラックはそう答える。ラックは比較的平和主義者だが、降り掛かる火の粉を払う事に躊躇はない。

「そう来なくっちゃな」

「フェリア、下がってろ」

 ラックは剣を構えながらフェリアにそう指示を出す。

「悪いが、始めから使わせて貰うぜ」

 素手の相手に剣は卑怯だとか、そんな事を言っていられるような相手ではない。

「構わねぇよ、それじゃ……いくぜえぇぇぇっ!!」

 ダッ!!

 言うと同時に男は凄まじい速さで踏み込んでくる。先程の比ではない。

 ラックはカウンターを仕掛ける暇無く、初手は防御に徹する事にした。

 ガァン!! ガガンッ!!

 剣の腹の部分で男の拳を受け止める。

 その拳の威力は凄まじかったが、一発一発は受け止められない程ではなかった。だが、繰り出される連撃は止まる事を知らず、徐々に防御が崩されていく。

「はぁっ!!」

 手を出さない事には状況は好転しない。そう思い、ラックは連撃の中の一撃を受け止めずに回避し、回避運動によって発生した回転を利用して剣を横に薙ぐ。狙いは男の首。

 ヒュッ!!

 男はその斬撃を腰を落として回避する。だが、ラックにとってそれは予想の範疇だった。ラックはわざと大振りした剣を止めず、独楽のようにそのままもう一回転して、今度は男の足を狙う。

 ヒュッ!!

 男はその斬撃を今度はジャンプして回避する。ただのジャンプではない。男は体を空中で前方に回転しながら反撃を仕掛けようとしていた。前転宙返り踵落としである。

「くっ!!」

 タイミングが悪い。振り抜こうとしている剣を止めて防御していたのでは間に合わない。

 そう判断したラックは剣を手放し

 ガッ!!

 手をクロスさせ男の踵落としを防御する。空中技は一度止められれば体勢が崩れるのが最大のデメリット、男はそのまま体勢を崩して床に倒れ込むとラックは予想していたが

 ヒュンッ!!

 男の攻撃は止まらず、ラックの腕と自身の踵を支点に体を捻じり、そのまま横蹴りを放ってきた。流石にこれは回避も防御も出来ない。

「はぁぁっ!!」

 ならばと、ラックは男の踵蹴りに使われた方の足を掴み、力を込め放り投げようとする。

 ベキィッ!! ガダダンッ!!

 ラックは蹴りを頭の側面に食らい。男は受け身も取れぬまま酒場のテーブルに放り投げられる。

「痛ぅ……」

 蹴られた頭がズキズキする。不安定な体勢だったためか致命傷にはならなかったが、痛いものは痛い。それは男も同じなのか、痛みは感じているもののテーブルに放り投げられたぐらいでは傷らしい傷は負っておらず、立ち上がり再び構えを取る。

 痛み分けと言いたい所だが、こちらは先程剣を手放してしまった。徒手空拳の心得がない訳ではないが、目の前の男にどれ程通じるかは解らない。

 スッ……

 それでもやるしかない。ラックは男同様に格闘用の構えを取るが

『っ!?』

 緊迫が走る。

 同じだったのだ。左腕を前に突き出し、右腕は腰元、重心を安定させるように腰をやや下ろし足を前後に拡げる構え。気付けば二人はまったく同じ構えを取っていた。

『……』

 一瞬の沈黙が流れる。

 互いにその理由を少し考え込んでいたせいだ。そして

『あ、まさか……』

 その答えは意外とあっさりと出る事となる。

「ラルスか!?」

「ラックか!?」

 同時に互いの名前を呼び合う二人。

 その姿もまるで鏡に照らし合わせるように同じであったのだからここはもう笑うしかない。

 知り合いと知らずに殴り合って互いに相手の事に気付いた時の人間リアクションなど、大方こんなものである。


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