表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話 魔術学院入試


 王都魔術学院の門の前には、すでに多くの若者が集まっていた。


 年齢は十五前後が多い。服装も様々だ。地方の旅装の者、都市の学生服らしきものを着ている者、そして上質な貴族服の者もいる。


 全員が同じ目的でここに来ている。


 王都魔術学院の入学試験。


 王国で魔術師を目指す者にとって、最大の関門だった。


 門をくぐると、広い中庭が広がっていた。芝生の向こうには石造りの校舎が並び、その奥には高い塔が見える。


 中央には大きな噴水があり、その周囲に受験者たちが集まっていた。


 ルークは周囲を見回しながら歩く。


(多いな……)


 ざっと見ただけでも百人以上はいる。


 全員が魔力を扱える人間だと考えると、少し不思議な気分になる。


 村では魔力を持つ人間などほとんどいなかった。


 だが王都では、それが普通なのだ。


「……あなたも受験生?」


 突然、声をかけられた。


 振り向くと、昨日広場で見た少女が立っていた。


 金色の髪を後ろでまとめ、落ち着いた表情をしている。


 ルークは少し驚いた。


「……あ、えっと。はい」


「そう」


 少女はそれだけ言うと、周囲を見渡した。


「思ったより多いわね」


「そうですね」


 短いやり取りだったが、妙に緊張する。


 そのとき、遠くで鐘が鳴った。


 学院の職員らしい人物が声を上げる。


「受験者は試験棟へ移動してください! 筆記試験を行います!」


 ざわめきが広がり、人の流れが動き始めた。


 ルークもその流れに乗って建物の中へ入る。


 石造りの廊下は広く、壁には魔術陣の装飾が刻まれていた。


 やがて一つの大きな教室へ案内される。


 机が整然と並び、受験者たちが席に着いていく。


 ルークも空いている席に座った。


 そのとき、隣の席から声がした。


「君も地方出身かな?」


 振り向くと、細身の少年が本を読んでいた。


 机の上には分厚い魔術書が置かれている。


「えっと……はい」


「やっぱり」


 少年は微笑んだ。


「靴に旅の土がついてる」


 ルークは慌てて足元を見る。


 確かに少し汚れていた。


「僕はアルト。理論魔術が好きなんだ」


「ルークです」


「よろしく」


 アルトは本を閉じる。


「筆記試験はそれほど難しくないと思うよ」


 その言葉に、ルークは少し安心した。


 だが試験が始まって数分後、その安心は消えた。


(……難しい)


 問題は魔術理論だった。


 魔素の流動理論。


 術式安定条件。


 魔法陣の構造。


 村で独学していた内容もあるが、知らない問題も多い。


 ルークは眉をひそめながら問題を解いていく。


 ふと横を見ると、アルトはもう半分以上終わっていた。


(早いな……)


 鐘が鳴り、試験終了。


 答案が回収される。


「次は実技試験です!」


 職員の声が響いた。


 受験者たちは再び移動を始める。


 案内されたのは広い訓練場だった。


 地面は石で固められ、周囲には観覧席のような段差がある。


 その上には数人の教授が立っていた。


 その中の一人に、ルークの視線が止まる。


 黒いローブ。


 長い髪。


 無表情な男。


 周囲の教授とは雰囲気が違う。


 まるで空気が冷えているようだった。


「……あの人」


 誰かが小声で言う。


「グレイ教授だ」


「理論魔術の権威だぞ」


 グレイ教授は腕を組んだまま、静かに受験者たちを見ている。


 もう一人、対照的な人物がいた。


 大柄な男だ。


「よーし! 気合入れていけ!」


 大声が響く。


「魔術は実戦だ! 怖がるな!」


 受験者たちが驚く。


 どうやら実技担当の教授らしい。


 試験が始まった。


 受験者は順番に魔術を発動する。


 火球。


 風刃。


 氷結。


 中には失敗する者もいた。


 やがてルークの番が来る。


 試験官が言った。


「初級魔術を発動してください」


 ルークは軽く息を吸う。


 魔力を収束させる。


 術式を組む。


 そして。


「──火球」


 詠唱は短い。


 次の瞬間、火球が射出された。


 かなり速い。


 観覧席で、グレイ教授の目がわずかに動いた。


「……ほう」


 小さく呟く。


 ルークはさらに続けて風刃を放つ。


 連続発動。


 試験官が目を見開いた。


「……早いな」


 試験が終わると、ルークは一歩下がった。


 そのとき、後ろから声がした。


「見事だ!」


 振り向くと、赤い髪の青年が立っていた。


 上質な制服を着ている。


 どう見ても貴族だ。


「私はフェルディス!」


 胸を張る。


「貴族の家に生まれた者として、優秀な魔術師には敬意を払う!」


 周囲の受験者が少し引く。


 フェルディスは構わず続けた。


「君は強い!」


「……ありがとうございます」


「だが!」


 フェルディスは指を突きつけた。


「私も負けない!」


 堂々と言い切る。


 ルークは少し笑った。


「楽しみにしてます」


 ルークがそう答えると、フェルディスは満足そうに頷いた。


「うむ! では互いに全力を尽くそうではないか!」


 そう言って自分の順番の列へと戻っていく。


 その背中を見送りながら、ルークは小さく息を吐いた。


 周囲ではまだ実技試験が続いている。


 火球が飛び、風刃が石壁を削り、時折小さな爆発音が響く。


 受験者たちはそれぞれ緊張した表情で順番を待っていた。


 やがて最後の受験者の魔術が終わり、試験官が声を上げる。


「これで実技試験は終了です!」


 ざわめきが広がる。


「続いて面談試験を行います。番号順に呼び出しますので待機してください」


 受験者たちは訓練場の端に集められた。


 緊張した空気が流れる。


 ルークは深く息を吸った。


 ここまで来れば、もうやることはない。


 あとは、聞かれたことに答えるだけだ。


 やがて名前が呼ばれた。


「ルーク・ヴァレン」


「はい」


 ルークは一歩前に出た。



 案内された部屋は、小さな応接室のような場所だった。


 机の向こうに座っていたのは──


 グレイ教授だった。


 黒いローブの男は、書類に目を落としたまま言う。


「ルーク・ヴァレン」


「はい」


「なぜ魔術師を目指す」


 短い質問だった。


 ルークは少しだけ考える。


 そして答えた。


「……守る力が欲しいからです」


「何を」


「村を」


 グレイ教授はしばらく黙っていた。


 やがて、わずかに口元を動かす。


「そうか」


 それだけ言うと、紙に何かを書き込んだ。


「以上だ」


 面談は終わった。



 部屋を出ると、廊下にはまだ何人かの受験者が待っていた。


 その中には、広場で会った少女の姿もあった。


 彼女と一瞬だけ目が合う。


 ルークは軽く会釈した。


 少女は静かに頷くだけだった。



 学院の外へ出ると、夕方の光が中庭を照らしていた。


 長い一日だった。


 筆記、実技、面談。


 すべて終わった。


 だが──


 結果はまだ出ていない。


 ルークは門の前で立ち止まる。


(……どうだろうな)


 筆記は少し不安がある。


 実技は悪くなかったと思う。


 面談も、特に失敗はしていない。


 だが、それだけで合格できるほど甘い試験ではないはずだ。


 門の向こうには王都の街が広がっている。


 その向こうに、自分の故郷の村がある。


 もし落ちれば──


 帰るしかない。


 ルークは小さく息を吐いた。


 そして、もう一度だけ振り返る。


 王都魔術学院の塔が、夕焼けの中に立っていた。


(……頼む)


 心の中で、そう呟く。


 合格発表は、明日の朝だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ