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5話 学院上がり


甲高い金属音や矢が空を切り裂く音があちらこちらから聞こえてくる。既に数人の離脱者が出ているのか護符の結界が割れる音も微かに聞こえてくる。姿勢をなるべく低くし、縫うように人と人の間を縫うように走る。


皆、死に物狂いの目をして誰かしらへ襲い掛かる。まるで戦場だった。でも地獄絵図とは程遠い。

これを異様だと感じなくなったのは冒険者だからこそなのか、あの地獄を生き残ったからなのか、少し心臓が重く感じた。

 

決闘場の端まで走り抜け後ろを振り返る。決闘場の中心では砂埃が立ち上がり黒い影が俊敏に動き回っている。悲鳴、怒声、唸り声。様々な感情が入り混じった声が主にその中心から聞こえてきた。

けれど泣き声や助けを求める声は聞こえない。例えるなら綺麗な戦場といったところか。


「よそ見しているとは命知らずですね」

「!?」


視界の端に何かがキラリと光った瞬間、顔すれすれに鋭い刃先が突き付けられた。勢い良くその場を飛び退き、剣の持ち主であろう者に対峙する。


黒い制服を着た女は長剣を構えてこちらを静かに見据えている。


団長の話を聞いていた時に見たあの学院上がり……

表情はいたって真剣で、勝つという強い意志がその黒曜の瞳から感じ取れる。

身の危険を感じ、双剣を鞘から素早く抜き構えるが、その間に女はスゥとの間合いを一瞬にして詰めてきた。


カキンッと刃こぼれがしそうな音を出しながら剣を交える。双剣を交差させて長剣を受け止めるが、押し切られそうになるくらいには重い剣筋だ。


「うっ、学院上がりに挑むやつはどうせそう居ないんだろ。高みの見物でもして試験が終わるのを待ってればいいじゃねえか!」

「戦わずして満点を取るなど騎士道精神に反します!」


一度退いたと思ったら再び重い一撃を振り下ろそうとしてくる。


「騎士道精神なんて知るかよ!結果は同じじゃねえか、俺なら戦わなくてもいいならそうするぞ!」

後ろへ体を倒し間一髪で避ける。


とんでもない奴に目を付けられてしまった。……ツイてないな、今日は。


次々と鋭い一撃が襲ってくるのを避けながら後退するが、急に踵が何かにぶつかるのを感じた。いつの間にか背後に壁が迫っていたようだ。


女も俺が逃げ場を無くしたのを知ったのか攻撃するのを止め、こちらへ近づきながらゆっくりと長剣を構え直し、振り上げる。このままだと護符が発動してしまい強制的に戦いを離脱させられてしまう。


焦りからか汗がこめかみからツーと垂れてくる。正直、真っ向からこの洗練された剣筋に勝てる気はしない。だが、試験に合格できる位の成績は残したい。そのためにはこの窮地から何としてでも抜け出すしかない。


なら、やることはひとつ。


俺は身動ぎ一つせず静かに女を見つめる。


女は俺が抵抗を見せないのを良いことに、余裕をもった表情を浮かべ剣を高い位置で構える。


「立ち向かう勇気すら無いのですか。ならば苦しまないよう一突きで仕留めましょう!」


そう言ったその瞬間、長剣が勢いよく空を切りスゥに向かって振り下ろされる。


「こんなところで倒されてたまるか!」


だが長剣が振り下ろされる直前、スゥは背後の石壁を蹴り上げ、女の上空へ軽々と飛び出た。そして女の後ろへと着地するとその場から全速力で逃げる。


「敵と戦わずに逃げるとはそれでもお前は騎士志望者なのか!?」

背後から女の驚きと呆れの声が聞こえるが構わずに決闘場を駆け抜ける。


「騎士道精神なんて糞くらえ!勝つためならどんな手でも使うのが俺の知ってる冒険者精神ってやつだ!」


声を張り上げて愉快そうにそう言って振り返ったが、女は諦めたのかもう俺の後を追っては来なかった。

標的から外れたか……なんて奴だ、騎士道精神がなんとかと言ってたが綺麗ごとで戦えるほど世の中甘くはない。戦いにおいて一番大事なのは———


——まあいい、あとは何人か倒して点数稼ぎでもして終わるか。


辺りを見渡すと既に受験者は半分近く減っていた。だが、金属の擦れる音と何を言っているか分からない叫喚や咆哮はいまだ至る所から発せられ闘技場内で木霊している。双剣を構え、決闘場の中心へ歩みを進めると中心付近に群がっていた受験者たちが俺に気づき始めたようで、何人かがバッと俺の方へ振り向いた。


血走った目と荒い呼吸が目立つ男と、至って冷静そうな男が目の前に立ちはだかる。前者は戦闘慣れしていなかったのだろうが、この人数まで残ることができたということは狂戦士(バーサーカー)の才能がありそうだ。


……なんだか変な奴らばっかりだな。


一癖二癖ある者が残っているが、そのぶん戦いにおいて優秀な人物なのだろう。

狂戦士は大剣を引きずりながら助走をつけこちらに切りかかろうとしている一方、冷静を保った男は弓に矢をつがえてこちらに照準を合わせている。


さて、どう動こうか。

右手の剣を前に構え、左手の剣を逆手に持ち替える。


「——一番大事なのは、勝てる相手かどうかだ」





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