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4話 決闘場にて

促され待合室から出ると決闘場に繋がっていた。私闘禁止の中、受験者たちがひと部屋に押し込められているのは流石に堪えたが、もうすぐ試験が始まると言って決闘場が解放されたのはありがたかった。

 

俺が腕を上に伸ばしながら辺りを見渡すと決闘場の周りには石畳の観客席が広がり、観客がこちらを見下ろせるような形であった。


客はいない……今日はただの入団試験だからか。

毎年この闘技場で行われる騎士団対抗の決闘大会は人気のあまり観客席一席取るのに平民の給料一か月分はかかるらしかった。そのくらい騎士団の存在は大きいのだろう。たった一回の大会でそんな大金をはたく意義は理解できないが。


観客席には客はいないが様々な色の制服を着た騎士がちらほらと見える。紙の束とペンを持っているところから記録係のようなものなのだろう。


決闘場の入り口からはいまだに受験者がぞろぞろと流れ込んできている。いったいどれ程の人数で試験を行うつもりなのか。


……というか、試験って何をするんだ?

 剣技を見せればいいのか、騎士との決闘か、あるいは……


「受験者諸君!長いこと待たせてしまってすまないな。俺は今回の試験の総監督を務める第5騎士団団長のゴードンだ。暇そうだからとこの職を押し付けられてしまってな!最近は面倒ごとが多くて困ったことだ!」

黒い模様が浮かび上がる白髪に丸みのある耳を頭に生やした白虎獣人と見られる中年の大男が観客席から受験者たちを見下ろしてガハハと豪胆に笑った。


これまた五月蠅そうなやつが来たな。

何はともあれ、それなりに使える奴だと思われなきゃいけないな。


手袋を嵌め直しながらゴードン団長の世間話を話半分に聞いていると、突然決闘場の扉が閉まり始めた。皆その重厚な扉が閉まる低く鈍い金属音に驚いて入り口の方を振り返る。


「さて世間話はここまでにして、本題に入ろう」

打って変わって真剣に話し始めたゴードン団長の掠れた声が闘技場に響き渡る。


「正直、試験内容をこれにしたのはただ試験をするのが面倒くさかったからだけなのだが……」


 静まり返った闘技場内で騒ぐ受験者は居らず、皆ゴードン団長の続く言葉に息を飲んで待っている。


「まあ、騎士団に入団させるのであればやはり即戦力のある者が良いからな!」

 うんうんと頷きながら独り言のように納得の意を示している。


(結局、何がいいたいんだ……?)


「つまり今年の入団試験は諸君らの乱闘だ!!」


乱闘……今までの試験もこうだったのか?


大勢の受験者たちも予想外だったのかざわざわと動揺し始め中にはゴードン団長を非難する者もでてきていた。


「乱闘なんて今までの試験内容とは全然違います!」

「そうだ!俺は今日の試験のために練習してきたのにこんな大勢と実戦するとは聞いてないぞ!」


声を上げた者たちに同調するように非難の声が次々と上がっていく。だが、中には静かに団長の動向を伺っている者もいた。


あれは、学院上がり……。


清純な黒曜の制服を纏い、サラサラとした艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめ上げ、背筋をぴんと伸ばした女性は口を閉ざし怒りに身を任す者たちに見向きもせずじっとゴードン団長を注視している。


さあ、団長はどう出るか。

咎め立て騒ぐ受験者たちをニコニコと眺めるゴードン団長はひとつ頷くと息を吸い込み、


「文句あるなら実力で示せ!俺はおっさんだが腐っても団長だからな、殺される覚悟がある奴ならいくらでもかかって来な!」


怒号がその場の空気を切り裂き耳が痛くなる程辺りに響く。


ゴードン団長の怒気に圧倒されたのか水を打ったような静けさが再び訪れた。


反発する者は誰も居らず、ゴホンと咳をしてゴードン団長は説明を再開した。

「言っておくが、俺一人で試験内容を決めた訳ではない。全団長の総意で決まったのだからな」


溜め息を着いて説明するゴードン団長を受験者たちは呆然と見ていたが、徐々に正気を取り戻し何も言わず真剣に話を聞き始める。

どうやら団長に気圧され反抗する気を失ったがその分、気が引き締まったようだ。


「試験の採点方法は簡単だ。倒した人数がそのまま点数となるが、最後まで倒されずに立っていた二十人に対しては無条件に満点を付ける。因みに満点は五十点だからな。逃げに徹するのか積極的に倒しに行くのか、そのどちらともなのかは諸君の作戦次第だ」


……死人が出るのではないだろうか。多くの者が携えているソレは人を殺すための道具である。木製の摸擬剣ならまだしも、実戦で用いる剣や槍、弓などの諸武器の殺傷力は伊達じゃない。それを聞いて青ざめた者や顔を顰める者もいた。


大丈夫なのか……?

「まあ、怪我人が出ることを想定して受験者全員に護符を配っておく。致命的な攻撃を受けた場合、護符が身代わりになってくれるだろう。護符が発動した者は倒されたと見なし、戦いを離脱してもらうからな」


高価な護符を配るなんて流石は大帝国サマだな。

一般的な冒険者や平民なら使ったことがない場合が多いだろう。護符は高ランクの冒険者や遠出をする貴族が買う代物で、一般人のお財布には優しくない使い捨ての魔道具(アーティファクト)だ。


多くの受験者たちは護符をしげしげと眺めているが、中には特に珍しくもないのかすぐに仕舞ってしまう者もいる。


「さて、もう説明は飽きただろう?俺も早く試験を終わらせたくて敵わん。そろそろ始めるとするか!諸君、準備は良いか?」


ゴードン団長のその一言で皆武器を構え始める。緊張感がせり上がってきたのか一瞬にしてピリピリとした空気が決闘場を覆った。



「……では試験開始!!」


猛々しい合図によって戦いの火蓋が切られた。



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