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3話 あやしい二人


「名前、年齢、種族、職業を」


受付の女性騎士は淡々と質問する。手続き所で数十分並んでやっと自分の順番が来たと思ったら聞かれることがこんなに少ないとは思ってもみなかった。


まあ、それぐらいでよかった……。何も知られないに越したことはない。


「名前はスゥ、22歳ヒト族で冒険者をしている。」

騎士は俺が答えたことをスラスラと紙に書き留めていく


「はい、以上で手続きが終了しましたので会場に向かってください。次の方どうぞ」


後ろを振り返るとまだまだ受験者が大勢いるのが分かる。並んでいるだけで半日経ってしまうのではないかと思ってしまうほどだ。俺は早めに会場に来ていてよかったと思いながら痺れた足を延ばすようにして歩き出した。


歴史ある闘技場内を進み待合室に案内されると、冷々たる大理石で埋め尽くされた待合室には試験を待つ大勢の受験者が居た。ある者は剣の手入れを、ある者は積極的に他の受験者たちに話しかけ、ある者は周りに睨みを利かせている。


何もないといいんだけど……。


部屋の様子からいつ喧嘩が起きてもおかしくないと感じ取り、何が起きたとしても巻き込まれることの無いよう部屋の隅へと向かった。


ここまでこれば大丈夫だろうと安堵の溜め息をつくと、トントンと右肩を叩かれる。


「ねぇねぇ、君はどこの騎士団に入団したいの?」


馴れ馴れしく話しかけてきた人物がいると思われる隣を見上げると、目尻がこれでもかと垂れている優しそうな雰囲気を放つ若い男が立っていた。


「僕はね、やっぱり第2かな~、だって『黒鷲の騎士団』って一度は憧れるでしょ?」


こちらが何も答えていないのに勝手に話し続けるこの男は一体何なのだろうか。何とも言えない不信感が心に広がり、手癖のついた耳飾りに触れながら相手を見据える。


「あぁ、ごめんね僕はオルメルっていうんだ。君に話しかけたのは話し相手が居なくて寂しかったからだよ」

申し訳なさそうにしょんぼりしたオルメルの頭上には犬の耳が垂れている幻覚が見えたような気がするが、このひりついた場で純粋な気持ちを持って話しかけて来る人が一体いくらいるだろうか。


「いや、この状況で態々話しかけてくるなんて何か裏があるに決まってるだろ」


「確かにそう思われても仕方ないよね……」


二人の間に静寂が訪れる。


「……第5とかに入れたらいいかなとは思っているけど」


オルメルの悲しそうな表情に耐え切れなくなり、つい答えてしまった。別に自分が不利になるような情報でもない。言ったって然程問題ではないだろう。というか、希望する騎士団は特にないっていうのが答えなのだが。


「第5かぁ、確か国全体の警備を担っている騎士団だよね」


実は俺自身、あまり騎士団について知らない。情報源はもっぱら冒険者たちが零した噂話だけだった。詳しく知ろうと思えばいくらでも調べることはできたが、俺の目標は騎士団に入ること。騎士団に入れさえすれば他はどうでもよかった。


そう考え事をしていると、

「じゃあ、逆に入りたくない騎士団はなにかな?」


彼は濁りのない瞳でスゥの心を見透かすように問う。何か違和感があったが気にせず俺は平然と答える。


「特には無い」

俺の言葉を聞いたオルメルは目を細めて僅かに口を開く。しかし直ぐにまた口を閉ざしてしまった。彼の纏う雰囲気が少し変わったような気がする。今度は俺がオルメルに質問しようと口を開いた瞬間、


「なるほど。アンタにはあまり向上心が無いみたいだな」


突然後ろから俺たちに向かって誰かが話しかけてきた。


「あっロビン、どこにいっていたんだい?探していたんだよ」


スゥが後ろを振り返ると背の高い女性が立っていた。流れるような黒髪には黒猫を想像させる黒い三角の耳が生えており、吊り上がった目は彼女の性格をよく表している。獣人なのだろう、冒険者として生きて来た俺には見慣れた種族だ。この女性の言葉には悪意がある訳ではないようだが、言葉の節々に嫌味が感じられる。正直言って、関わりたくはない。

 

「アンタがアタシを探していた訳がないでしょ」


「いやいや、ほんとだって。まあ、ただ途中でこの子に出会ってね」


「途中からアタシも聞いていたけどね」


ロビンは使い込まれた長剣を携えており、熟練者であると一目で分かる。オルメルはロビンの辛口な言葉に対して平然と返していることから元々二人は知り合いなのだろう。だが、俺はこの二人に確かな違和を感じ始めていた。


(何の目的で俺に話しかけて来たのだろうか。目を付けられると面倒なことになるかもしれない)


「……そろそろ試験の準備をしたいから俺はこれで」


俺は足早にその場を離れようとした。危機感は無いが、この二人と居たら何か悪いことが起こりそうな胸騒ぎがする。


「あ!まってまって、君の名前を聞いてなかったね、何て言うんだい?」


離れようとした俺の腕をガシッと掴み、頭を傾げ柔らかな茶髪を揺らしたオルメルが純粋無垢な瞳で問いかけてくる。ロビンもスゥの言葉を待っているのか、顔を動かさず耳だけをこちらへ向けている。


(……なんだか変な奴らだ)


「スゥだ」


「スゥ、君らしくて良い名だね」


「聞いたことない名前だな」


なるべく感情が表にでないよう心掛けながら言ったが、そんな俺に気づいていないのか二人は端然とした態度を保ったままであった。オルメルは名前を確認できたことに満足したのか目を細め、パッと腕を離してくれた。目を合わせたくなくて視線を後ろへ向けるとロビンが既にこちらに背を向け歩き出しているのが見える。


「あ、まってよロビン!えっと、じゃあまたねスゥ!」


茶色の大型犬がロビンの背中を追うようにして去っていく。

二人の後ろ姿が見えなくなるまで見届けた後、部屋の喧噪が耳に流れ込んでくるように蘇ってきた。二人と話すのに集中しすぎて周りの情報が遮断されていたようだ。


「……何だったんだ」


いつの間にか気を張りすぎていたようだった。血が巡る感覚が全身に広がる。


「はぁ……」


スゥの深い溜め息が喧々たる受験者たちの中で霧散した。



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