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26話 休日の訪問者


カーテンの隙間から零れた陽光で目が覚める。白い月は消え、暖かな太陽が覗く。


正直、あまりよく寝られなかった。


昨日のことを引き摺っているというのは自分でもよく分かっている。


隣を見ると、毛布がゆっくりと上下している。意外にもラヴェルは未だ夢の中のようだ。


昨夜のラヴェルの表情が脳裏で煙の様に浮かぶ。


残されている時間はあとどれくらいだろうか。


焦っていても仕方がない。


音を立てないように寝台を降りて身支度を整える。


今日は休日で、授業も無い。生徒達も待ちに待った休日には買い物に出かけたり、友人とパーティを催したり、趣味に耽ったりと、自由な時間を楽しんでいる。


こんな日は調査を進めるに限る。


いつもの双剣を手に取って、玄関の把手に手を掛けようとしたその時、


コンコンコン


扉を挟んだ向こう側で誰かが戸をノックしている。


こんな休日に何用だろうか?


把手を引いて顔を出す。


「はい、なんでしょ……って、イシュリー?」


そこに立っていたのはあの時以来のイシュリーだった。


「貴方、今日休みでしょ」


じっと俺を見つめる目は真剣そのもので、意を反することを良しとしない絶対的な圧力があった。


「……まあ、そうだけど……何か用かな?」


あれ以来、イシュリーと授業の中でも話す機会が無く、正直イシュリーが俺のやったことに対してどう思っているのか聞けていない。聞かなくてもいいかもしれないが、いま目の前にいる彼女はあまり機嫌が良いとはいえず、なかなか気まずい。


「ちょっと付き合いなさいよ」


イシュリーは目を細めて腕を組む。


「……え?」


急にどうしたんだ?付き合う?しかも今?


それにまず、なんで俺の部屋を知っているんだか。


「付き合うって何に……?」


みるみる内に顔を赤くして口をすぼめるイシュリーは、渋々といった雰囲気で話す。


「……あの時、私が負けたのよ?その責任を取って貰わなきゃ困るわ!言いたい事分かるでしょ!」


責任って、そんなもの負った記憶は無いし、する気も無いのだが。


「朝からうるせェなァ」


いつのまに起きたのか、寝起きのラヴェルが後ろから顔を出す。


「あ、オマエあの時コイツにボコボコにされた奴じゃねェか」


あーあ、傷口抉っちゃった。どうなるかなんて想像つくのに。


「——はぁぁ!!?もうキレたわ!早く表に出ることね!二人ともよ!その阿保面を引き裂いてやるんだから!!」


そういって、扉を勢いよく閉められた。


「煽るなよ……」


呆れて溜め息が出る。流石に朝からこれは疲れる。ラヴェルとイシュリー、混ぜたら危険、と頭の中でメモをとる。


「何があったか知らねェが、獲物を持って出た方が良さそうだな」


素早く外套を羽織ったラヴェルは剣を片手に、部屋を出ようとする。


口角が少し上がっているのを見ると機嫌が良さそうだ。


再び扉を開け、外に出る。


「待たせた、で?何に付き合えっていうんだ?」


「言ったでしょ、その顔面を引き裂くって」


さっきよりも眉が寄っている彼女の機嫌は最悪そうだ。


「……俺たちに何かして欲しくてここまで来たんじゃないのか?」


相手の地雷を踏まないよう慎重に問う。


「そういや、責任取れって言ってたしなァ、再戦しに来たンだろ?」


ラヴェルはイシュリーを上から見下ろすとニヤリと笑う。


「近いけど、違うわ」


「じゃあ、何なンだよ」


「えっと……それは……」


イシュリーは手を後ろで組み視線を足元へ落として、もじもじし始める。


……まるで乙女のような反応だが、どう答えればいいか……。


「乙女かテメェは」


あ、また言った。いや、まあ俺も同じこと思っていたけど。


「いや乙女でしょ!この可憐な少女になんてことを言うの!」


「自分でそれ言うんだ……」


「はぁ!?貴方もそっち側なのね!乙女心も分からない男は嫌われるわよ!!」


うっかり口から漏れてしまった。どうやら俺も地雷を踏み抜いたようだ。とても面倒くさい。




その後、ぷんすか怒る彼女をなんとか諫めて、話を聞き出すことに成功した。


「だから、稽古して欲しいの!」


イシュリーは期待を持った眼差しで俺たちを見る。


「なるほど、魔法が使える剣士とも相応に戦えるよう、より優れた剣術を身に付けたいと……」


正直、剣の扱いなど俺から彼女に教えられるようなことは無い。あの時の戦いも剣術のみであったら俺が確実に負けていただろうし、そもそも学院で剣の扱いなど習っているだろう。


「魔法特攻型の結界展開式魔道具でも持っときゃいいじゃねェか」


「それは私の実力じゃないじゃない!」


「面倒くせェヤツだなァ」


ラヴェルはうんざりと溜め息をついた。


俺はラヴェルの言ったことに付け加えて言う。


「魔法に対抗できるのは基本魔法だ。魔法が使えない者がそれに対抗するべく魔道具を持つことは卑怯でも何でもない。戦場じゃそんなこと言ってられないからね。用意周到であることも騎士の実力の内と思わないか?」


「そ、そうかもしれないけれど……」


イシュリーは納得いかないと言うように唸る。


「まあ、魔法以外の技術を磨いておくことに意味が無い訳じゃないけどね」


「だったら、それを教えなさいよ」


「え?」


「貴方たちは、冒険者として生きてきたのでしょう?剣術でも体術でも優れた技術の持ち主なのでしょう?なら、それを私に教えなさいよ!」


投げやりに言い放ったイシュリーは、力を貪欲に求める狂戦士のようだった。


どう返そうか、返答に困っていると横からラヴェルが口を出す。


「そこまで必死なら付き合っても良いぜ、その特訓」


イシュリーの顔をじっくりと見て、面白そうに頷くとラヴェルは歩き出してしまう。


「お前、どうする気だ?」


俺はラヴェルを追いかけるように横を歩く。


「どうするって、ただ教えるだけだろ。何渋ってンだよ、俺たちゃセンセイなンだろ?」


「……分かった」


ラヴェルにそう言われてしまったなら仕方がない。


俺は立ち止まって後ろを振り返る。


「行くぞ、時間がもったいない。強くなりたいんだろ?」


イシュリーは呆然と立ちすくんでいたが、ハッとして俺たちの方へ足を踏み出した。









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