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24話 強い生徒


「サッサとかかって来いよ!テメェら臆病者かァ!」


「言葉遣いを考えろ!あと、そっちに2人行ったぞ」


ラヴェルは切りかかってくる生徒を剣で切り伏せながら、足を使って他の生徒を蹴り飛ばす。切られた生徒は護符が発動し、致命傷は免れたようだった。


護符があるなんて聞いてない。確かに生徒に怪我させる訳にはいけない、が、俺たちには護符なんてない。冒険者にはいくら怪我をさせてもいいというのか。考えても仕方がない、攻撃を受けなければ良いのだから。


双剣は長剣よりもリーチが短いのが短所ではあるが、複数人を相手にすることに関しては幾分かやり易さがある。左で剣を受け止め右で下から相手の胴を切り上げる。これで6人目だが、あと数倍もの生徒がいる。


生徒達を相手取りながら冷静に彼らを分析する。動揺を隠せず突撃する者、仲間と話し合いながらこちらの様子を見守る者、切りかかった仲間の剣に弾き飛ばされて苦し気な表情を浮かべる者。どれも新参者にしか見えなかった。


黒の制服を見ると入団試験を思い出す。あの時の学院上がり……フィーリンはここの生徒たちよりも断然強かった。俺は最初、学院にはフィーリンのような奴がゴロゴロいるのかと戦々恐々としていたが、流石に彼女のような天才はそう多くいないのだと知って安心した。


だが、中には良い剣筋の生徒もおり今後の成長次第で強い剣士になるだろうとも感じる。


「っ!!」


急に真横から剣が差し込まれ俺は危機一髪それを避ける。

見るとそれはイシュリーの剣であった。


「どうしたのかしら?私の剣を恐れたのかしら?」


視界の端で捉えた彼女の顔には好戦的な笑みが浮かんでいたが目は笑っておらず真剣そのものだ。


「調子に乗るのはまだ早いんじゃないか?」


ヒヤリとしたが、これでも死線を潜り抜けて来た冒険者の自負がある。このままでは終われないし、少しヒヤリとするぐらいが『楽しい』ものだ。


「来ないならこっちから行くぞ!」


俺はイシュリーへ真正面から襲い掛かる。右の剣を押し付け相手の長剣を封じ、左で胴体を狙う。しかし、いち早くそれを察知したのかイシュリーは身体を後ろへ倒し剣を振る余裕を作り逆に反転を狙っている。


これは冒険者時代に出会った熟達の剣士たちにも引けを取らない腕前ではないだろうか。

などと考えている暇はない!冒険者に引けを取らないということは俺の命が危ないということに他ならない!


構え直した剣を俺の顔面目掛けて突き刺そうとした瞬間にそれを弾き、回避する。


「本当は、一対一の決闘がしたいけれどしかたないわ!」


イシュリーは迷うことなく次から次へと切りかかってきた。なんとかそれを受け止めるが、このままでは押し負けてしまう。


そう俺の直感が言っている。




だが、


———だが、俺は知っている。此奴の弱点を。『騎士』としては問題無かろうとも、戦いにおいては生死を分け隔てる程の才能の欠如を。


この戦いでは何をやってもいい。つまり、容赦は要らない。いやまず、本物の戦いに容赦など存在し得ない。どうすれば少ない犠牲で敵を殺せるか、それが全てだ。俺は騎士のおままごとに付き合うつもりはさらさらない。


そして、だからこそどんな汚い手でも使う。情があっても情だけじゃ食っていけない。情を切り捨て、利を求めることこそ生きる術であり、世の常だ。それに、それを知らないほどこいつも子供じゃないだろう。


……なんて、こんなこと今までも思っていたはずなのに、無意識にこれを使うことを躊躇っていた。卑怯だと思っていたからなのか、可哀そうだと思っていたのか、優しさからなのか、ただただそんな勇気が無かったからなのか、自分でも分からない。


手に魔力を纏わせ、切っ先へと流し込む。


ビリビリと刃が揺れる。


「うっ、何よこれは!」


異変に気づいたのかイシュリーは目を見開いた。


気づくのが遅い。


一気に解放する。火花が散ったと思ったその瞬間大爆発が俺たちを巻き込み、視界を赤く染め上げた。


爆発と同時に結界を張り防御を取るが、視界の端には爆発の風に吹っ飛ばされながらも自ら結界を張り持ち堪える生徒たちの姿が見えた。


暫くして爆発の中心から煙が消えていくと共に、影が浮かび上がる。


意識を失っているのか、一人の女子生徒がピクリとも動かず倒れ込んでいる。懐から見える護符は既に発動し燃え尽きていた。


「そこまで!!」


オリバーは顔色変えずに凛とした態度で辺りを見回す。


他の生徒がイシュリーを運び出す。意識は無いが護符のおかげか命に別状はないようだ。


入団試験時の彼らの強さは尋常じゃなかった。


けれど、


魔法を使ったとはいえ、ここまでとは。

まるで、今年の生徒たちは不作だとでも言うような感覚だ。


背後からはラヴェルが生徒たちを殴り倒す音が聞こえた。既に終っているというのに止める気配が微塵もない。それに互いに何でもありだと言ったが、やってることは一方的な蹂躙に他ならなかった。見かねて様子見していた生徒がオリバーへと視線を投げるも、彼は目を見張ったまま生徒たちに見向きもせず、ラヴェルを凝視している。


仕方無しにラヴェルへと近寄る。


「……おい、もう辞めろ。それ以上やっても意味が無いだろ」


生徒の胸倉を掴んだまま振り向いたラヴェルはニンマリと犬歯を見せるように笑う。


「意味はあンだろ?こうして力の差を見せつけてやってンだ、よっ!」


掴んでいた生徒を呆然と立ち尽くしていた生徒に投げつける。頭がおかしいのかもしれない、医者に見せたら良い被験者になるのでは?


「流石に酷すぎる、お前のやってることは」


「テメェの魔法も容赦無かったんじゃねェか?」


ああ言えばこう言う。が、一理あると思ってしまうのは、心が弱くなった証か。


「とにかく狂戦士じゃあるまいし、聞き分けの無い奴等だと思われても癪だ」


「ハッ冒険者なんて聞き分けが無くて結構さァ」


そう言いながらも剣を鞘に仕舞う。機嫌が良さそうだ。


「……以前何処かで貴殿と会ったことがあっただろうか?」


いつの間に来たのかラヴェルに近寄るとオリバーは神妙な顔をして聞く。


「すまねェがセンセーの顔は一度たりとも見た事がねェなァ」


「……そうか、いやなら良いのだ」


そうは言いながら煮え切らなさそうな表情は何故なのだろうか。ラヴェルに、似た誰かをかさねているのだろうか。


「まァいい、もう授業も終ってンだろ?帰ろーぜ、久々に疲れちまったからなァ」


「うむ、諸君今日はここまでだ!」


疲れ切った生徒たちは隊列を組むと、ぞろぞろと学舎へと歩を進め出した。教師もそれに付いていく様にこちらへ背を向けようとした所を引き留める。


「先生!少々時間を頂いても?」


背を向けたオリバーへ問いかけると、振り返って眉を上げこちらを見た。


「セベス殿、どのような用事かな?」


「毎年、このような生徒たちばかりなのですか?」


「何を仰りたいのですかな?」


聞いてはいけないことだったのか、オリバーは眉を顰める。


「手合わせした限り、生徒の中には今後の成長が楽しみな者もいましたが、正直、もっと強いと思っていたんですよ」


挑発ととられてもおかしくなかったが、伝えなければ知りたいことも知れないだろう。


「そのことですか」


オリバーは気にも留めない様子で答えた。


「実は獣人による襲撃事件が多発しているのを受けて、騎士科の成績優秀者は高位貴族の子息令嬢や他国から留学しに来ている王族と同じ授業を受けてもらっているのですよ」


「それは安全面を考えてのことと捉えていいのですか?」


「ああ。貴人に怪我をさせるようなことがあれば大問題だからと、上層部は騎士科に目を付けたようでね。卒業生の多くはそのまま帝国騎士団に入団することもあって、実力者が多い。それに他の学科に比べて実践訓練も積んでいるといことも理由の一つでしょうな」


本当にそれでいいのだろうか。


強い生徒がいるからこそ生徒たちは切磋琢磨できるのではないだろうか。


今見た生徒たちの中に強者へと至りたいという野心家がいるとすればイシュリーを加えて片手数えるほどだ。ほとんどの生徒たちは保守的で食って掛かるような性格では無かった。


彼らの多くが育ちの良い貴族や富裕層出身の生徒たちだとしてもただ礼儀正しくしていればいいという訳ではない。


騎士の仕事はあくまでも敵と戦うことであり、イイ子にしていれば騎士になれるのではないのだ。


野心家になれとまでは言わないが、折角学院に入学できたのだ。きっとその身の内には思いもよらない才能が眠っているだろう。宝の持ち腐れにさせるには勿体ない。


「勿体ないですね、意欲的な生徒たちと共に授業を受ければ多少は志を持つと思うのですが……」


「もっと貪欲になって貰わないと困る、という意味ではその通りだと言わざるを得ませんな」


オリバーも腕を組んで困ったように溜め息をついた。


「五年生はまだ良い方でね、今の一年生は手本となるような優秀な先輩と手合わせさえすることもなく、やる気を引き出すのに苦労しているところですよ。ここに入学してくる多くが卒業生の現第2騎士団長や第1騎士団長に憧れて入ってくるのだからね、優秀な先輩を見て奮起するのも無理は無いでしょうな」


「なるほど……」


騎士団長が卒業生とは、そりゃ人気があるはずだろう。


ならば、早くこの襲撃事件を終わらせるべきだ。彼らがいつも通りの学校生活を送れるようになれば、この状況も良くなっていくだろう。


「意欲的とは言うが、セベス殿も意欲的とは言えないだろう?」


「どういう意味です?」


「ハハハ、気を悪くさせてしまったのなら申し訳ない。いや、ルーク殿は初めから生徒に容赦が無かったが、貴殿は追い詰められて漸く魔法を使ったではありませんか。実は剣よりも魔法の方が得意なのでしょう?見ていれば分かりますよ。魔法という切り札を持つ貴方には余裕があったとはいえ、全力で取り組まないのは如何と思いましてね」


彼は眉を下げて笑ったが、その視線は鋭く俺を貫いた。


「……それは、申し訳ありませんでした」


「別に責める気はないですよ。若い頃の私を見ているようで少々心配してしまっただけでね。貴方はもっと貪欲になっていい。」


そう言ったオリバーは生徒を見つめる目で俺を捉えた。


こちらから相手の痛い所を突いたと思ったら、むしろこちらが突かれてしまったな。


……貪欲か、まず貪欲になろうとも何に貪欲になるべきか分からない。それに自分の持つ全てを投げ打ってでも何かを為そうとする意欲も湧かない。


「はい、ありがとうございます……ところでイシュリーは大丈夫ですか?」


「ああ、今は医務室で寝ているそうだよ、怪我も見られない。それに騎士科にいれば怪我なんぞ日常茶飯事ですからな」


「そうですか、安心しました」


イシュリーを傷つけてしまった。けれどそれを後悔はしていない。彼女は本気で俺に剣を向けたのだから、傷つく覚悟はあったはずだ。


けれど、俺は彼女の本気に応えられていなかった。本気で応える志を欠いていた。


イシュリーは今どんな気持ちでいるのだろうか。彼女はどう自身を駆り立てているのだろうか。彼女の野心の底には何があるのだろうか。


それが何であっても俺には無いものだろう。


だから、貪欲に力を求める彼女が俺には眩しく感じた。羨ましく思った。


どうすれば、どうしたら、とぐるぐる低回する思考に飽き飽きする。


やりたいこと、知りたいことはあるけれど、その先に何が待っているのか分からない。分からないままに全てを捧げて全力で走り切るのは怖い。



……もし、思っても見ない結末であったら、絶対に後悔すると思うから。









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