23話 授業
流石に、もうこれ以上は調べても何も出ないだろうと思い、俺たちは食堂に寄って朝食を取ってからもう一度訓練場に戻ってきた。
「好きなモンを好きなだけ食えるとか流石金持ちの学校だなァ」
オムレツにサンドウィッチ、香高い紅茶と、俺たち庶民には豪華すぎる朝食を取ったが、おかわりも自由にできたため一流のシェフが調理した料理を朝っぱらから心行くまで楽しんだ。
「ああ、あれほどの料理はそこらの料亭で味わえないくらいの出来だったな……さぁ腹も満たせたことだし身体を動かしておくとするか」
普段から剣の素振りや体力作りなどの日課はラヴェルと一緒に行っている。こいつの性格だと俺と一緒に行うとは心底考えられなかったが、それとなく聞いてみたところ副団長に一緒にやれと命令されていたようだった。
「めんどくせェ……」
と、言いながらもしっかり準備運動から始め、走ったり筋力を付けたり、いつも通り鍛錬していることから意外とラヴェルが真面目であることも最近分かってきた。
「じゃ、剣の相手になってくれ」
授業が始まるまであと数十分の余裕があると見て、俺たちは剣の鍛錬に移った。
今日から騎士の卵たちと剣を交えることになるため、ラヴェルは長剣を腰に引っ提げて来たようだ。だが、ラヴェルが長剣を使っていたところを今まで見たことが無く、何だか違和感がある。
「いつもは投げナイフだけど今回は長剣を使うんだな」
双剣を腰から取り外す。
ていうか長剣なんて扱えたんだな。意外と器用なもんだ、なんかムカつくが。
「ナイフは消耗品だからもったいねェ」
そう言って鞘から剣を抜くと体の前に構え俺を見据えた。
「いくぞ」
甲高い金属音が訓練場に響き渡る。双剣は振り下ろされた長剣を受け止め、すぐさま流す。そして隙を見つけては双剣を滑り込まし、ラヴェルの身体へ迫る。だが、ラヴェルはそれを許さず直ぐに防御の体勢へ移り俺の剣を止めた。こいつの剣筋は所々荒々しいが、芯にはしっかりとした型があった。
予想だが、剣の扱い方を習ったことがあるのだろう。けれど剣術以外に体術も混ぜてかかってくるところから、独自の戦い方を身に付けてきたのだと肌身で感じた。砂埃が立ち上る中、火花を散らし刃が交わり、暫く攻防が続いた。
「……よし、ここまでにしておこう」
軽く身体が温まった所でラヴェルに制止を掛ける。
「丁度だなァ」
口角を上げてラヴェルは視線を遠くに遣る。視線の先を追うと黒い塊がぞろぞろと此方へ向かってくるのが見える。近づくにつれてそれが黒制服を身に付けた数十人の生徒たちであることが分かった。
集団の先頭には筋肉質な大男がおり、そいつが騎士科の教師であると一目で分かった。
「ご機嫌いかがかな、セベス先生ルーク先生、今日からうちの生徒達がお世話になる担当教員のオリバーだ。諸君、特別外部指導教員のセベス先生とルーク先生だ挨拶を」
俺たちの目の前で大男オリバーが止まるとその後ろに足並みを完璧に揃えていた生徒たちも即座に歩みを止め、俺たちに礼をする。
生徒たちの顔を見渡すと険しい表情を浮かべる者もいればうんざりだと言い出しそうな顔で此方を見据える者もいた。そして、その中に挑戦的な笑みを湛える生徒が一人いた、イシュリーである。
嫌われたもんだなあ……
「宜しくなァセンセ?」
ラヴェルは一歩前に出るとオリバーに手を差し出した。
自ら握手を求めるとは珍しい。
オリバーは迷うことなく手をとると、ラヴェルの目を見て話しだす。
「今回の冒険者殿は想像より礼儀があるようですな」
鼻の下に伸びたチョビ髭が特徴的な中年の教師は腰に長剣を帯び、背筋を伸ばして立ち、ラヴェルを頭からつま先まで値踏みした。
これまでの冒険者は荒々しい奴らばっかりだったのだろう。貴族や富裕層には冒険者など未知の生物でしかないし、興味本位で会うことも間々あるらしい。俺らは見世物んじゃないけどな。
「それはどうも、冒険者の全員が全員礼儀知らずって訳じゃないので」
ラヴェルに見習って俺もオリバーと握手をする。
「さて、早速実戦授業に移りたいが、生徒たちにも肩慣らしが必要なものでね。先生方はどうやら先に済ませたとお見受けするが?」
「ああ、先に済ませてもらった。俺たちは置いといてそちらに専念して貰って構わない」
「それはありがたい。諸君、いつものように始め給え」
オリバーの号令がかかると、生徒たちは一斉に訓練場に散らばり、各々で身体を動かし始めた。素振りや体術の練習、錘を持ち上げて投げたりと様々なやり方で準備運動を行うらしい。
オリバーは生徒たちを見て回りながら、所々で指導に入っている。
俺たちはその様子を少し離れた場所でしげしげと観察していた。
「……言っておくがアイツは内部犯じゃねェ」
突然ラヴェルが俺に耳打ちしてきた。
「え?」
「あの教師の魔力は魔方陣の魔力じゃねェってコトだ」
珍しくラヴェルが握手したと思ったらそういうことだったのか。
「騎士科の人物の可能性が低いことはさっき分かったし、妥当な結果だよ」
「ったく……ハァ早く終わンねェかなァ」
面倒臭そうに溜め息をつくと頭の後ろに両手を当て、生徒たちの準備運動が終わるの待っていた。
「待たせてしまって申し訳ない、ではそろそろ始めるとしましょう」
暫くしてオリバーが俺たちに話しかけて来ると、生徒たちも一斉にこちらへ駆け寄り、隊列を組んだ。
「実はどのような方式で実戦するか未だに決めていないのだが、先生方はどう思われるかな?」
オリバーは顎に手を当て考え込む仕草で問いかけて来た。俺はそれならと笑みを浮かべて答える。
「方式なんて要りませんよ、冒険者の戦闘は突然始まるものですから。前提もなにも必要としない『乱闘』でいいのでは?」
オリバーの眉がピクリと動き、生徒たちはざわざわとし始めた。
「乱闘ってことは、冒険者2人に対して僕ら全員ってことだよな」
「これなら勝てるんじゃないか?」
「直ぐ終わってしまうような気もするけど……」
「舐めないほうが良いんじゃないか?腐っても学校が認めた冒険者だし」
生徒たちは驚いた反応を口々に呟いていたが、オリバーがサッと手で制止する合図を送ると彼らは一斉に口を閉ざした。
「乱闘か……なるほど今年の入団試験と同じですな。うむ、それは良い経験となりましょう……乱闘に決定だ諸君、諸君らの今までの努力を証明して見せよ!」
オリバーが腹から声を出し生徒たちを鼓舞すると、生徒たちも胸に拳を当て猛々しく呼応した。
「オレたちに遠慮はいらねェからな、仲間と協力して掛かってくるも良し、単独で切り込んで来るも良しだ。好きにしろ」
生徒たちは黙ってラヴェルの言葉を聞いていたが、イシュリーは何か言いたそうに俺たちに視線を送っていた。
オリバーが観客席に移動すると、俺たちは武器を鞘から取り出し、生徒たちもそれに倣う。
「それでは、準備は宜しいか?」
辺りを見渡し全員が武器を構えていることを確認する。
「……では、始め!!」
訓練場に勇ましい開始の合図が響き渡った。




