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19話 学院へ赴く


「え……調査ですか?」


「そうだ、スゥ君とラヴェルには帝国立ベルベット学院の調査に向かって貰う。調査が終わるまではここに帰って来なくていいぞ、特別に学院寮への宿泊が許されたからな」


朝早くに団長室へ呼び出されたかと思ったら、急に出張かよ。……って、学院?あの入団試験にいた『学院上がり』の学院か?


ルヴィウス団長は手元の資料に視線を落としながら説明を続ける。


「最近、獣人による襲撃が増加しているが、学院でもそれが起き始めてな。襲撃犯を処理しても次から次へと新たな襲撃が『学院内』で起きているそうだ。」


「つまり内部にも犯人がいると……」


「まぁ、普通に考えたらそうなるな~」


書類を雑に机へ放り投げた団長は明らかに面倒くさそうだ。


「学院は市民から貴族まで多くの少年少女が集う学び舎だが、学院に入学できる者は優れた能力を持つ者か金がある者しかいない。つまり、学院に通っている者は将来の官僚候補と金蔓という訳だ」


言い方に少々問題があるが、それ程帝国にとっては重要な機関なのだろう。


「ダンチョーが調査をやらなきゃいけねェってコトは、依頼主は皇帝サマか?」


さっきからラヴェルは革製の来客用ソファで寛いでいる。こいつは本当にお気楽だな。


「ああ、こういった依頼は他の騎士団はして来ない。それに皇帝が直々に第6へと依頼を出したということは、この調査はあくまで国家機密ものだ。ま、そうはいっても学院を調査するのに人目は避けられない。そのため君たちには特別外部指導教員として学院へと潜入してもらう」


「ハァ?教員?オレがそんな玉にみえるかよ」


「確かにそうだな、だが今回は騎士団員として向かってもらうのではなく、君達には『冒険者』としての教員になって貰う。」


「冒険者、ですか」


「ああ、騎士としての身分で行ってしまったら生徒たちからどんな目で見られるか、分かるな?だいたいこういったことは第1か第2がやるもんだからな~それに、君らが持っている戦いの技術はどちらかと言うと冒険者のような独学の戦い方だろう?学院の騎士科に所属する生徒たちは冒険者の教員からも実戦経験を積む。今回はそれを上手く利用しようということだ、スゥ君は冒険者登録してあるようだし、まあ頑張れよ!!」


団長はニカッと爽やかな笑みを浮かべて親指を立てた。


「上手くいく気がしないのですが……」


上手くいく保障なんてどこにも無い、ただ俺の前職が冒険者だったってことだけだ。

しかし、皇帝命令の調査を無視することはできない、気が遠くなりそうだが仕方ない、やれるだけやってみるか。




    —————————————————————————————————————




かれこれ数日経ち、俺たちは今、学院の正門の前に立っている。もう既に太陽は頭上に昇っている。この時間帯の生徒たちは学院内の食堂で優雅に昼食をとっていることだろう。


学院の外装は青と黒を基調としたシンプルな色合いだが、細やかな装飾が施されているのを見ると、流石帝国立なだけあるなという感想だ。見た目で言えば何処かのお城と言っても過言ではない、よく童話で出て来るアレだ。


「そういえばお前、ギルドの冒険者証明書持ってんの?」


隣にはラヴェルが太々しく立っている。如何にも教職が似合わない男だ。見た目だけなら十二分に似合うだろう。だが、この性格が割に合わなさ過ぎる。


「ああ。昨日、会いたくもねェ副団長を保証人として登録してきたんだが、『勝手なことはするな、余計なことを喋るな』つってアイツに散々言い聞かされたンだからな!分かってることを何度も言う必要ねェだろ!」


ラヴェルがイライラしているのを見ると、昨夜はヨツキ副団長との地獄の授業があったのだろう。ラヴェルと副団長は偶に行動を共にし、帰って来る度に凄んだ目で俺を睨みつけてくるようになった。きっと八つ当たりなのだろうが、正直言って可哀そうだ。俺でも辛いだろうし。


「それは災難だったな、でもこれからしばらくは顔を合わせなくても良いから機嫌を直せ、その調子だと俺らの調査がバレるだろ?そしたら副団長の説教だけでは済まないと思うからな」


そう言い切る前にラヴェルは顰めっ面を此方へ向けた。


「オマエまでオレにそんなコト言うのかァ?……ハァ、分かった分かった、学院のヤツらの前では余計なコトは言わねェし、澄まし顔でいてやるさ」


どうやら多少の罪悪感があるのか、諦めなのか溜め息をついて苛立ちを抑えるように、服装を指先で弄んでいる。如何にも冒険者といった服だがこれも副団長に着せられたものだろうことは容易に想像できた。


俺も冒険者らしく、と言っても前職が冒険者だったため、服はかつて使っていたものをそのまま着ているだけだが、まあしっかりと変装できているはずだ。


「分かってもらえたなら良し。さあ行くぞ」


荘厳な出で立ちの門をくぐり、門番に特別指導教員の件を伝え学院長室を聞き出す。有り難いことに門番は難癖つけることもなく平然と場所を教えてくれた。


敷地内には主な学び舎である城もどき以外にも歴史を感じられる建物が多く建っているが、俺たちが向かうべき学院長室はやはりあの城にあるらしかった。





「ハァ……長くねェか?この廊下」


「確かにそれはそうだな……」


学舎内の廊下を進むが行けども行けども景色が変わらない気がする。床は大理石、壁には動植物の絵画や人物画が金色の額縁に納められ掛けられている。金の匂いがぷんぷんする、貴族や富豪からの寄付もあるのだろう。



暫く歩くとちらほらと例の黒い制服姿の生徒たちが現れ始めた。どうやら此処は教室付近なのだろう。好奇心が見え隠れする目で見つめる者もいれば、我関せずといった態度の者もいた。だが、廊下を進みゆくうちにじっと此方を見定めるような視線を感じ、視線を向けると帯剣した一人の女子生徒が廊下の端へ避けるように立っていた。



きっと俺らの格好から特別外部指導教員だとわかったのだろう、とすると彼女は騎士科の生徒に違いない。ショートボブの柔らかそうな藍色の髪と切れ長の蒼の目が特徴的でその表情からは少なくとも友好的では無いことが分かる。


そのまま彼女の横を通り過ぎ、角を曲がり階段を上がった。


「アイツ、思いっきしガン飛ばしてたなァ」


周りに人がいないことを確認すると、ラヴェルは嬉しそうに上擦った声色で囁いた。


「騎士科の生徒だからだろう、現役の冒険者との実戦なんて上流階級には無いんだろうから気を張っているのかもな」


「ここには平民もいンだろ?中には小遣い稼ぎに冒険者もやっているヤツ位いそうだがなァ」


「居なくは無いだろうけど、平民だからといって騎士科に属しているとは限らないし、魔力持ちの優秀な平民は幼い頃から貴族の家に養子として入っていることも多いから、殆ど居ないんじゃないか?」


「へェーそんなもんかァ……」


珍しくラヴェルが興味深そうに首を傾げた。何か思うところがあるのだろうか、こいつ平民とか貴族とか全く気にしそうに無いのに。


「そう言っている内に、目的地に来たぞ」


目前の木製扉には学院長室と書かれているプレートが掛けられている。

俺たちは顔を見合わせ少し、間を置いてからノックする。


「入れ!」


イメージよりも随分若々しい声が扉の向こうから聞こえた。


「失礼します!特別外部指導教員のセベスとルークです」


流石に変装してまでの調査の為、偽名を使うことにした。俺がセベス、ラヴェルがルークとここでは名乗る。



部屋に入ると、そこには様々な魔道具と思われる機械が溢れ返っていた。天井から吊り下げられているものもあれば、一種の家具のように床に置かれ部屋を圧迫しているものもある。学院長の執務机の机上には魔法人形や腕輪、不思議な形の懐中時計など色とりどりの細やかな魔道具が雑多に置かれている。これでは怪しい骨董品店と思われてもおかしくない。



「よく来たな小僧ども!冒険者が教員を引き受けてくれるなぞ大いに助かる!」


幼い声の方向へ視線を下げる。そこには齢8歳程の幼女がぶかぶかの黒いローブを着こみ、金色のピアスや指輪、珊瑚のネックレスなどをジャラジャラと身に付けているではないか。


誰だ?まさか、この幼女が……いやそんなこと、


「?……学院長は何処だ、ガキ」


ラヴェルでさえ眉を寄せ、困惑した声を上げる。


「ガキ!?何だと!見てわからぬか愚か者ども!わしこそが学院長、学院長ゼーラであるぞ」


自称学園長ゼーラはキリっとした決め顔でこちらを見上げた。


「はぁ、貴方が学園長ですか、到底そうには見えないんですけど」


あまりにも学院長のイメージからかけ離れているからか、気の抜けた応答をしてしまった。


「不敬な!こう見えて紫蝶の魔女よりも年上の崇高なる魔女なのだぞ!」


ゼーラは顔を赤くして地団太を踏んだ。


……紫蝶の魔女?どこかで聞いたような気がする。確か、フィーリンが騎士団について説明してくれた時に、『紫蝶』って……


「紫蝶の魔女、第4騎士団長か、ならオマエ相当なババアだなァ」


なるほど、第4騎士団長か。例の薬とラヴェルの背中に彫られた魔方陣を生み出した騎士団、そのトップが魔女なのか。



実は魔女を名乗るのは容易なことではない。ここ、帝国から遠く離れた北東に大きな島国がある。その名はユロリア王国、彼の国は全てのものが魔法で動いていると言われており、入れる者は魔力をその身に宿す者のみ、即ち魔法至上主義の国家である。そしてその国には魔法大学校なるものが存在し、学校を無事に卒業出来た者だけが魔導士、または魔女と名乗る権利が与えられるのだという。学校に入学するのでさえ困難とされている学校だ。卒業となるとさらに難しくなるはずである。



冒険者として暮らしていた時にも魔女や魔導士を見たことがあるが、彼らほどプライドが高く付き合いづらい人は居なかった、という印象だ。だが、確かに魔法を専門的に使用できる人材は貴重で、冒険者たちも彼らの助けを必要とすることが多かったのも事実だ。それ故にどれだけ扱いづらい魔導士でもなんとか付き合っていたというわけである。



また、その身に内包する魔力量が多ければ多いほど年を取るのが遅くなる、そのため魔導士や魔女は見た目で年齢は判断できない。どうやらラヴェルの言う「紫蝶の魔女」とやらは相当高齢な魔女と見た。その魔女よりもこの幼女が年上だとは俄かに信じがたい話だが、もし本当ならゼーラは魔女の中でも歴代屈指の優秀な魔女になる。



「婆で結構!かの有名な魔法の国ユロリアでわしは魔道具を専門に研究していたこともあったのだぞ!敬え若人!称えろ愚者ども!」


学院長ゼーラは精一杯に手を広げ、プルプルと震えている。これが彼女の思う最も威厳のある姿なのだろうが、俺の目には野生の小動物の威嚇にしか見えない。


「オマエの凄さは分かったが、態度のデカさはガキ並みじゃねェか」


ゼーラの様子に流石のラヴェルも呆れている。


「もう結構!これだから生意気な冒険者は!口が減らぬ奴らめ……コホン!斯様な低俗極まりない揉め事に意味は無い、さて本題に入ろうではないか」


どうやらこの言い合いは不毛だと判断したのかゼーラは俺たちに向き直り、改まって今回の仕事について語り始めた。






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