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2話 はじまり

雄大な平原に位置するエルアデス帝国は世界有数の軍事国家であり、様々な国に戦争を吹っかけては勝利を収め、国を大きくしてきた歴史がある。4年前にはエルアデスのすぐ南に位置するティオラン王国を服属させるまで追い込み現在は帝国に統合するまでに至った。

ティオラン王国との戦争は約2年間続いたが、帝国は徐々に王国の首を絞めつけて戦争を終わらせた。

そんな帝国の主な軍事力は1から6まで存在する騎士団である。それぞれに特異な特徴があり、業務内容も異なってくる。それゆえ帝国の騎士団には人気、不人気が存在し入団試験で優秀な成績を収めた者ほど花形の騎士団への入団が決まりやすいという。

そして丁度一か月前、スゥもその入団試験を受けていた。


 「エルアデスに来たのは久しぶりだな」


最後に訪れたのはたしか3年前だったか。当時は戦争が終わった直後で人手が足りなかったからか、冒険者にも復興事業の依頼がきていたのを思い出す。その頃、俺は世界各地を放浪しながら一生懸命に薬草を集める日々を送っていて、会う人会う人に薬草臭いと顔を顰められていたが。


試験会場である闘技場までの街道には様々な出店が並んでいる。新鮮な果物や香ばしい肉料理が店先に並び、溢れかえる程居る人々の興味を引き付けているが、その中でもっぱら目に付くのが様々な形状をした魔道具(アーティファクト)だ。


「そこの兄さん!魔物除けの腕輪はどうだい?今ならまけとくよ!」

エルアデス特有の伝統模様が彫られた金属製の腕輪を中年の女性が俺に差し出してくる。


「ありがとう。でも魔物除けの魔道具は間に合っているんだ」

俺はやんわりと断りを入れ闘技場を目指した。


帝国は工業国としても有名だ。魔道具に加えて武器の生産や鉄鋼業も発達しており、あたりを見渡すと町の至る所に工房が建っているのが見える。

足の踏み場に困る程の人ごみを抜けると、荘厳なる闘技場が見えた。大小さまざまな岩を組み合わせて建てられたと思われる外壁は帝国の長い歴史を感じさせる。


闘技場の入り口に着くと既に入団試験を待つ若者で溢れ返っているのが分かった。


「俺の長剣を見ろよ!今回の為に新調したんだぜ」

「いいなぁ僕も新しい槍がほしいよ……」


各々自分の武器を持参しても良いと試験の規則で決まっているが、試験会場で借りることも可能である。と言ってもここ王都は武器工房が至る所にあり、「冒険者が一度王都に来たならば装備を一新すべし」とも言われるほどだから、武器を試験に持ってこない人の方が少ないだろう。俺はしげしげと受験者たちの様子を眺め会場前をうろついていると小声の会話がすぐ傍から聞こえてきた。


「おい、あいつらを見ろよ」

「あの黒い制服は学院上がりだな」

「あぁ、どうせ今年もあいつらに第2騎士団の席を搔っ攫われるんだろうな」

「ここにいるほとんどが第2に入りたがっているのにな」


そう話した後二人は溜め息をつき肩を落とした。どうやら「学院上がり」と呼ばれているやつらがこの試験の成績上位者になりそうだ。二人の視線の先には十数人が立ち話をしており、きっちりとした黒い制服を身に纏い、愛用していると思われる武器を引っ提げている。その出で立ちと醸し出す空気から戦闘慣れしていることは分かった。


(俺は別に騎士団に入れさえすればいいからどうでもいいな)


人ごみの中でも一際目立っている「学院上がり」を横目に俺はその場から少し離れ、外壁に寄りかかって闘技場が開門するのを待つことにした。


今の俺は腰に双剣を携え古びた外套を着こんでおり見るからに冒険者だと言えるだろう。それもそのはず、俺は6年ほどさすらいの冒険者として生活していた。泥臭く生きて来た冒険者なら使い慣れた武器と動きやすい服装さえあれば十分に試験を臨めるはずだ。


強い日差しが灰色の髪に鈍く反射し、アメジストよりも深い紫色を湛える耳飾りは薄暗く光を帯びた。今日は特に天気が良い。試験日和だな。


しばらく大勢の受験者の話し声に静かに耳を傾けていると、突然ゴゴゴと闘技場の門が開き始めた。完全に扉が開くと中から騎士団の制服を着た男が奥から急ぎ足で出てくる。辺りは静まり返り、みな騎士に注目していた。


「これより試験会場を開放する。手続きを終えた受験者から速やかに闘技場内へ移動し各自試験準備を行うこと。質問は試験会場で受けつける。闘技場内は私闘厳禁だ。気を付けるように。以上」


騎士はそう言い切るとすぐに闘技場内へ消えて行った。

しばらくして失われた喧噪が蘇ってくる。受験者たちは手続きを行い、それぞれ闘技場内へと向かって行った。



さて俺も行くとしよう。俺の望みのため、俺は騎士になる。

暖かな日差しで不気味な光を湛える耳飾りを触りながら俺は一歩踏み出した。


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