12話 元死刑囚の相棒
今、俺はとても後悔している。フィーリンに応援してくれと言ったのは間違いだった。こうなるんだったらただの落ちこぼれでいた方が良かったまである。
「暗いから足元に気を付けてついてこいよ」
団長を追う先は地下室。団長室に訪れた後、先に団長自ら俺に説明したい事があると言われた。何やらスゥに見せたいものがあるそうだが、もう嫌な予感しかしない。既に血の気が引いているが、このままいくと全身の血が足に溜まるのではないか。
「痛っ!やっぱりここはまだ慣れませんね」
俺の後ろからはヨツキ副団長がゆっくりとついてきている。ロビンとオルメルは先に仕事に戻ったそうだが、あとで俺を迎えに来てくれるそうだ。
じめじめとした空気が流れる石畳の階段を僅かな明かりを頼りにしばらく降りていくと、ようやく地下室に着いたようだった。しかし、辺りを見渡すと想像した地下室とは全く違っていた。
「ただの落ちこぼれ騎士団の駐屯地に監禁拷問部屋と牢獄があるなんて驚きだよな!」
あははと笑うルヴィウス団長が怖い。牢があるのは百歩譲って分かるが、監禁と拷問専用の部屋は笑えない。
「でも使う頻度はあまり高くないですよね」
うーんと首を傾げながらヨツキ副団長が返す。頻度とかそういう問題なのだろうか。
「着いたぞ、ここだ」
重そうな鉄の扉の前で団長が立ち止まる。一体何がこの先にあるのだろうかと団長の顔を不安げに見ると、それに気づいたのか俺に優しく微笑み掛けた。
「心配するな、この先にいるのは君の『相棒』となる存在だ」
「……相棒?」
この荒涼とした場所で「相棒」という場違いな言葉が出てくるとは思っていなかった。ていうか相棒って何だ?
全く理解できず困惑するスゥの気持ちを汲み取ったのかヨツキ副団長が答えてくれる。
「この第6騎士団ではある制度を取り入れているのですよ、それが『相棒制度』です。相棒とは君の仕事での同僚であり、行動を共にする一番の仲間でもあります。君の相棒となる人をルヴィウスが厳選して見つけてくれました。」
厳選?この牢の中に?何故?
「我々の仕事は二人組で行った方が効率も良いし仕事の質も上がる。俺とヨツキ、ロビンとオルメルも相棒制度で決められた二人組だな。あともう二人うちの騎士団には居るが、今は忙しいだろうからまた今度紹介しよう」
本当に普通の人では無いんだな、この人達は。
「ところで、何故その相棒は牢の中に居るんですか……?」
この場に初めて来た者なら誰もが疑問に思うだろうことを聞いてみた。
「それは、彼が元死刑囚だからかな」
……笑えない、本当に笑えない。それは相棒と言える存在ではない。無理だ、全然無理。何故、死刑囚を選んだのか。厳選して元死刑囚ってどういうことだ。
「元、死刑囚」
「さぁ、ここでずっと突っ立っている訳にもいかない。早速入ろうか」
そう言って錠に鍵が差し込まれる。ガチャリという音が響き、得も言われぬ緊張感がせり上がってきた。
ガシャンと重い金属音を立てて扉が開くと、そこには両手を鉄の鎖で縛られた金髪の男が跪いていた。傷んだ長い金髪から覗く冷たそうな赤い目がこちらを睨んでいる。
「よう、元気だったかラヴェル」
「元気なワケあるかよ」
「ふむ、この状態を考えると確かに元気そうには見えませんね」
この団長と副団長がいると調子が狂うな……。
「……ん?コイツだれ?」
赤い目がギロリとスゥへ向けられる。突然声を掛けられたためビクッと肩を揺らしてしまう。
「ああ、紹介しようお前の相棒となるスゥだ。これから仲良くしろよ」
そう言ってルヴィウスは俺の背中を押して金髪の男もといラヴェルの前へと出された。
「……スゥだ、よろしく」
「何だか弱そうなヤツだな。すぐ死んじまうんじゃねェか?いや、先にオレが殺してしまうなァ」
は?なんだこいつ、初対面の人への最初の言葉が何だか弱そうなヤツ?死ぬ?殺す?いや、元死刑囚ならこれくらい言うかもしれないが、これから俺はこいつを相棒として仕事しなきゃいけないのか?無理だ。
上手くやっていける訳が無い。
「相変わらず難儀な性格ですね、治るものなのですかね」
副団長は細い腕を組み、考え込みながらつぶやく。
「流石に人格矯正は不味いな!時間が掛かりすぎる!あっはっは!」
ブラックジョーク過ぎやしないか?仕事のしすぎで壊れてしまっているとかか?
「オレに拷問をしようが仕置きをしようが精神までは思い通りにならねェぞ、くそ狐」
ニヤリとラヴェルが不敵な笑みを浮かべ挑発すると、ヨツキ副団長がゆっくり一歩前へ出て、ラヴェルの傍にしゃがみ込んだ。
「やってみましょうか?貴方のように強気な人を拷問するのが好きなのですよ、私は」
副団長は長く鋭い爪をラヴェルの首に這わし少し力を込めると、急に鷲掴みする。ラヴェルの顔が苦痛で歪む。
ここからでは副団長の顔が見えないが、声のトーンの低さで何となく状況を察する。
一番怒らせないほうがいい人物は副団長っと
心の中でメモをとる。
「止めとけヨツキ。またお前のご自慢の白い毛が血で汚れたとか何とかでぶつぶつ文句を言う未来が易々と想像できるぞ」
両腕を組んで様子を見守っていた団長は呆れたように副団長を見る。
「はいはい分かっていますよ、ただの脅しですから気にしないでください」
「ゔぅ……ぐ……カハッ」
団長の言葉を聞き、あっさりと手を離す。ラヴェルはさっきとは打って変わって大人しくなったが、未だに俺たちを睨んでいる。
「一つ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
ここまでで気になった事があるため、思い切って団長に聞いてみることにした。
「ん?なんだ?何でも聞いてくれ」
「何故、元死刑囚を起用したのですか?」
「あーそれは死人に口なしだからな。死刑囚だからもし死んでも社会的な問題にならないし、こいつから情報が敵に流れそうになってもこいつを殺せば全て無かったことになるからな。それにこいつは良い戦力に成り得る」
恐ろしい。国家の裏顔がこんなにも無慈悲だとは。自分も殺されないように頑張ろう……。だが、そう聞くとラヴェルに同情してしまう自分もいる。
「でも、それだとあまりに可哀そうではありませんか?」
「目の前にいるのは元死刑囚ですよ。わざわざ死刑を取り下げてもらってここにいるのです。これはあくまで死刑執行の代わりなのですから、寧ろ待遇が良い方ですよ」
ヨツキ副団長は俺の肩に手を置くと諭すように話した。
「では、ラヴェルは俺の相棒としてこれから一緒に仕事をするってことになるんですよね?逃げ出したり、危害を加えて来たりしないか心配なんですけど」
「ああ、その点に関しては安心してくれ、こいつの背中に特殊な刺青を彫らせておいた。身勝手な逃亡と第6騎士団員への攻撃を禁止するように魔法で命令してある」
ラヴェルの背中をそれとなく見ると魔方陣が刻まれていた。……刺青、特殊な魔方陣、命令……成程。第4騎士団『紫蝶の騎士団』の研究の賜物だろうか。魔方陣を刻んだ魔道具は世の中に沢山出回っているが、人に刻むことができるとは驚きだ。普通は奴隷の首輪などにそのような魔法を刻んでおくのが定石だが、直接人肌に彫るのか。道徳的倫理的にはどうかと思うが効果はかなりありそうだ。
「そんな事もできるとは驚きました」
団長の顔を見てそう返すと、団長は俺の顔を見て一瞬苦々しい表情を浮かべたがすぐに笑みを張り付けてしまった。
「流石は大帝国様だな」
そう零したルヴィウス団長の言葉はどこか皮肉めいているように感じた。




