10話 騎士団とは
「素直に喜んでる?」
オルメルは俺の顔を覗き込むようにして問う。少なくとも、俺のことを詳しく知っている訳ではなさそうだ。その点でいえば喜ばしいことだろう。
「……」
だが、今はもう何も答えないと決めたんだ。笑いものになるなんて御免だからな。顔をオルメルから逸ら
して犇めき合う群衆を見つめる。
「まあ、いいさ。じゃ、早速明日から第6に来てもらうからね!はい、これは第6の駐屯地がある場所、迷わず来られるよね?」
オルメルはこの様子を見てあっさりと身を引き、一枚の紙切れを渡してきた。見ると、手書きで書かれた簡素な地図であり、駐屯地は闘技場からも近そうであった。
「また明日スゥに会えるのを楽しみにしているよ!」
俺が返事をする前にそう言うとオルメルは背を向けて駆け足で闘技場内へ向かって行った。その背が見えなくなるまで目で追っていると門の前にはロビンが立っていた。どうやら、オルメルを待っていたようだ。
仲がいいんだな。
「ねえ、さっきの灰色の制服って……」
「そうよ、噂の落ちこぼれ騎士団のだわ。何故こんな所にいたのかしら」
「俺だったらあの騎士団服じゃ、町の中を歩きたくもないな」
オルメルが去った途端、騒めきが起こる。空気が濁っているように感じ、足早に人気の少ない日陰へ逃げ込む。
……嫌な気分だ。
第6に関する話題について悪気無く語る者もいるのだろうが、嫌悪感を隠さずに語る者も多い。考え込むように俯いていると、足音がどこからともなく近づいてくる。
「ここにいましたか、探しましたよ」
顔を上げるとそこには前と同じ学院の黒い制服を着たフィーリンがいた。
「第6だったらしいですね」
「あぁ」
至って真剣なフィーリンの表情から憤りが感じられるのは気のせいだろうか。特に何も言わない俺を見て限界に達したのかフィーリンは口を開き、
「何故、抗議しないのですか?貴方が第6なんて納得いきません!」
怒りを顕わにしてそう叫ぶように言ったので、声が大きいと身振り手振りで伝える。人通りが少ないと言っても人が全くいない訳ではない。それに気づいたのか、フィーリンはすぐに口を噤む。
「怒ってくれて嬉しいが、これは自業自得でもあるんだ……」
抗議した気持ちは無くもないが、この件で変に注目を浴びるのも嫌だ。
肩を落として残念そうに言うとフィーリンは落ち着いたのか、静かに話し始めた。
「自業自得?それは一体どういう事ですか?」
「色々あったんだ。本当に気にしないでくれ……ところでそういうフィーリンはどうだったんだ?どこの騎士団に配属されることになったんだよ」
「私?私は第2騎士団ですよ。早く、他の第2騎士団員と手合わせしたいものです!」
第2の話になった途端、嬉しそうに目を輝かせはじめた。第6の話はなるべくしたく無い。楽しそうで何よりである。
「そういえば第2騎士団って『黒鷲の騎士団』って呼ばれていたな」
冒険者が集まる酒場でそう聞いたことがあった。
「そうですね。騎士団には誰がつけたかも分からない異名がそれぞれありますし。確か、騎士団服の色から着想を得ているのではなかったでしょうか」
冒険者として生活していた頃にもたまに異名は噂で聞いていたが、全ての騎士団に異名があるとは知らなかった。
「へえ、初めて知ったな。俺はまず騎士団についてよく知らないからな」
「え?騎士志望なのに騎士団のことよく知らないのですか!?そんなことないですよね?……それぞれの騎士団の職務内容とかもですか!?」
気まずそうに頷くとフィーリンは、信じられないものを見るように俺を見た。
「いや、まあ、そういうことだ」
返す言葉もない。フィーリンは深いため息をつき、こちらを見据える。
「はぁ、分かりました。そのような貴方に私から簡単に説明してあげましょう」
半ば呆れたようにそう言うとフィーリンは騎士団について説明し始めた。
彼女の説明によると帝国の騎士団は六つに分かれているという。
一つ目の第1騎士団は『白獅子の騎士団』と呼ばれ、宮廷に赴き、主に皇帝一族に仕える騎士団である。戦いの腕前はもちろん、貴族社会での立ち振る舞いも求められるので狭き門だという。
しかし、最も狭き門だと言われているのは第2騎士団『黒鷲の騎士団』。対人戦、魔獣戦においてこの騎士団に勝る騎士団は無く、入団試験において上位の成績を納めた者しか入団は許されないらしい。
第3騎士団『赫狼の騎士団』は第2騎士団と同じく対人戦、魔獣戦を主に行うが、その強さは第2騎士団に劣る。しかし、決して弱い訳ではないという。時間の関係で第2騎士団が行えない任務を請負うこともあり、いつも第2の良き好敵手でいるそうだ。
そして第4騎士団『紫蝶の騎士団』は少々特殊な騎士団のようだ。騎士団といえどもここに所属する者は殆どが魔法使いであり、戦いの場に赴くことは少ないが主に魔法や魔道具の研究を行っているという。
第5騎士団『蒼虎の騎士団』は最も多くの騎士が所属する国全体を警備するための騎士団である。縁の下の力持ちという言葉がぴったりな騎士団で、帝国内のどこへ行ってもここの制服を着た騎士が一番見かけやすいだろう。
最後に第6騎士団『灰狐の騎士団』、ここは……殆ど良く分かっていない。他の騎士団の雑務を引き受けていることは分かっているようだが……なんせ所属する人があまりにも少ないのだ。職務もただの雑務だけらしく……そのため人気も無ければ、名聞も無いという。
途中まではまるで物語に聞き入ってしまうほどの面白さがあったのに、最後でその気持ちは霧散してしまった。
「……分かりやすい説明ありがとう、知らなかったから助かった」
「どういたしまして。……で、本当に第6騎士団でいいのですか?あなたには抗議する権利があると思いますが」
心配そうにスゥの様子を窺うフィーリンに大丈夫だと返すがあまり気が晴れないようだ。
「貴方がよくても私は許せないですよ。過小評価にも程があります!」
「そう言わないでくれ。騎士団は必要とされているから存在している。それは第6も同じはずだ。他の騎士団ではできないことを代わりに行うのも立派な仕事だと思うぞ。それにフィーリンもあいつらと同じように第6騎士団を落ちこぼれだと貶すのか?」
そう言って、遠くに見える受験者の人ごみを指さす。
「それは私の騎士道精神に反します!国の為に働く騎士を貶すことなどできません!」
「なら、俺のことを応援してくれ。落ちこぼれだと言われようとも騎士であるのに変わりは無い」
腑に落ちないという顔をしながらもフィーリンは俺の言葉に頷き返す。
「……分かりました。貴方がそう言うのなら」
最後は納得してくれたようだ。一件落着だな。
「さ、明日から忙しくなるだろ?もう帰った方が良さそうだ」
そう言って俺は日陰から日向へ一歩踏み出し彼女に振り返る。フィーリンはスゥを見て諦めたように笑うとスゥの後ろを追うように歩き出したのだった。




