9話 落ちこぼれの騎士団
闘技場前はざわざわと人で溢れ返っている。先程の出来事が頭から離れず気分が悪いながらも人ごみの中を泳ぐようにして門を目指す。が、上手く前へ進めない。
門の前には数人の騎士が何やら大きな板を運び、立て掛けようとしているのが群衆の頭上から辛うじて見えた。どうやらその板に合否やら配属先の騎士団やらが書いてあるらしい。
「おい!押すな!順番だぞ!」
「はあ?誰もそんなこと言ってねぇよ!どけ俺が先だ!」
「痛いって!足を踏まないで!」
早速、阿鼻叫喚である。この人ごみを力ずくで抜けるのは無理だろう。諦めて、流れに身を任せる。数十分そうしていると徐々に板に近づいてきた。チャンスが来たと思い、身を捩って前の人を追い越し、やっとのことで人ごみを抜けると目の前に大きな看板があった。
よく見ると人の名前がずらっと並んでおり、その横に騎士団の数字が振られているのが分かる。
えっとスゥはどこだ……あ、あった!
名前順になっていたようでありがたいことにすぐに見つけられた。だが、問題は合格しているかどうかだ。もし不合格ならば、名前の横には何も書かれていないらしい。
どきどきしながら視線をスライドさせる。
「6……?」
嬉しさよりも疑問が先に来た。そういえば第6騎士団の話は聞いたことがない。どんな騎士団なのだろうか。
「やったー第1だ!将来安泰すぎるー!」
「はぁ第3……か、第2に行きたかったのに……」
「俺なんて第5だぞ!一番平凡な騎士団なんだが?」
隣には喜びに満ち溢れる者もいれば泣き崩れる者もいる。中には近くの騎士へ抗議している者もいた。
「平凡なだけいいじゃないか?だって今年はアレが出たみたいだしな」
「はあ?なんだ?アレって」
「お前知らないのか?よく見るとどうやら第6がいるらしいぞ」
「第6って……あの第6か!?」
「そうそうあの『落ちこぼれ』騎士団!」
落ちこぼれ?そんな噂聞いたことが無い。第1から第6までの騎士団が存在しているのは知っていたし、人気で入団が難しい騎士団があるのも知っていた。騎士団に入れるならどこでもいいと思ってはいたが、流石に落ちこぼれは……。いや、それに試験ではそれなりに良い成績を納めたはずだ。自分より点数が低い者も沢山いたはずだ。
もう一度看板に目を通すが他に第6と書かれた者はいない。隅々まで確認するが事実は変わらない。何かがおかしい。そうとしか言いようがない。
……何故、俺だけなんだ……
周りはお祭り騒ぎなのに自分だけ仲間外れにさせられているように感じる。
「なんで……」
「だって入りたくない騎士団は無いんでしょ?」
トントンと肩を叩かれる。恐る恐る振り返るといつも通り微笑みを浮かべるオルメルがいた。手汗でじわりと手のひらが湿る。なんなんだ、こいつらの目的は一体何なんだ。
「前、言ったよね?」
笑っているはずなのになんだか圧を感じる。しばらくじっとその顔を眺めて真意を探ろうと試みる。……
あっ、そういえば——記憶がスルスルと蘇る。
……あー、なるほど。
騎士団の制服、受験者に紛れていた二人、『入りたくない騎士団』、……そうか。
「言ったけど……」
「けど?」
「『落ちこぼれ』だとは聞いていない」
明らかに嫌そうな顔でオルメルにそう言うと、彼は途端に笑い出す。
「あはは!あんなに警戒心が高そうだったのに『落ちこぼれ』の騎士団の噂を聞いたことが無かったなんて!ほんとうに凄いなあ!スゥは」
自分が噂を知らなかったのも悪かっただろうが、そんなに笑う必要も無いだろう。
「……確かに入りたくない騎士団なんて無いと答えたけどまさかこうなるとは思わなかったんだ」
「あっはは!くふふ……はぁ、知らなかったのはしょうがないよ。でも騎士団に入れたのは良かったんじゃないかな?」
笑いをなんとか堪えたのか、深呼吸をしてからオルメルは話を続けた。
「腑に落ちないけど、そうかもしれないな」
これ以上何か言えば笑いの種にされそうで嫌だ。もう喋らないでおこう。
「君をウチの騎士団に入れることにしたのは正解だったみたいだね、ようこそ第6騎士団へ、今日からスゥは僕らの仲間だ」
オルメルは嬉しそうに耳打ちするとスゥの頭に手を伸ばしポンポンと撫でて笑った。




