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二人の姉様

「今日は君に客が来ているぞ」


通信の講義が終わった私に、クロエ様がそう仰ってくれました。

彼女に導かれて広間に向かうと、私は驚きの余り目を見開いてしまいました。


深緑のジャケットを纏い、シンプルでいて気品と厳格さが見て取れるドレス。

私と同じ黒髪を後頭部の高い位置で纏めた、釣り目の女性。

その姿はまさしく、我が国を代表する国際弁護士でもあるロザムンデ姉様その人でした。


「姉様!」

「ああ……可愛い私のライラぁ……ッ」


私が声をかけたその瞬間に、姉様は私の方へと駆け寄ってきました。

気付けば全身を凄まじく圧迫され、姉様から熱烈なハグをされたのだと気づいた時には、私窒息寸前でした。


「クロエから全部聞いたわ。本当にごめんなさい……デイヴィッドなんかと二人にしてしまって……あそこまでクソだとは知らなかったわ……ああ、可哀そうに。辛かったでしょうね……」

「う゛……ね、ねえさまっ、も、大丈夫ですから……取り敢えず、離して……」


なんとか背中に手を回して、パンパンとそこを叩くと、姉様ははっとして体を離してくれました。私や兄様と同じ緑の瞳から溢れる涙をぬぐい、横にいたクロエ様、並びにヒューゴ様に礼を述べました。


「積もる話はあるけれど、ありがとうクロエ。ヒューゴ、あなたもありがとう。クロエと一緒にライラを守ってくれて」

「……いいえ、私は、なにも」


ヒューゴ様は未だに領地以外の女性が苦手なようで、照れくさそうに俯きがちになって頭を掻いている。


そして私たちは姉様も加えてランチをすることになった。

グリーンピースをすり潰して丁寧に裏ごしした口当たりの良いポタージュ。シャキシャキとしていて瑞々しいレタスにアンチョビと粉チーズをまぶしたサラダ。蜂蜜とマスタードのソースを添えた羊肉の香ばしいグリル。そしてデザートには甘酸っぱいベリーを添えたプリン。


姉様はその全てに感動してくれていた。


「ああ……やっぱりどれもとても美味しいわ」

「ありがとうございます。どれもこの領地で採れたものでして、そう仰っていただけるとベミリオン家の者としても光栄です」

「国外のみんなも褒めるのも当然ね。ねえ、ライラ」

「ええ。そうだ、姉様。あのポタージュとデザートのプリンのレシピを考えたのはヒューゴ様なんですよ? レタスや羊の肉質も、ヒューゴ様が改良なさったんです」


話を向けられると、私はヒューゴ様の功績を姉様に伝えた。

味を保ちつつ丈夫な葉野菜が出来たのも、羊の臭みを減らす飼料を開発したのも全てヒューゴ様だ。また、農民が普段でも作れるやり方で美味しい料理を食べられるレシピを考えたのも彼だ。


「そうなのね。噂以上の功績だわ。いい弟君を持ったわね、クロエ」

「ああ。私も鼻が高いよ」


ロザムンデ姉様とクロエ様。

二人にそう褒められて、ヒューゴ様ははにかみながら頭を下げた。その姿を見ると私も誇らしい気持ちになりました。


「ライラ。ちょっとクロエと話があるから、その後で二人で話したいのだけれどいい?」

「はい。今日はもう講義もありませんし」


ランチが終わった後、姉様はクロエ様の執務室へと向かいました。


御多忙な姉様が私に会いに来たのは、妹を心配したのもあるだろうけどそれだけではないはずだ。

あの日、姉様に送ったタリスマン。そこに記録された兄様、並びに王太子殿下たちによる凶行。

兄様を裁いて欲しいという思いだけでなく、コーデル家だけでは済まされない大問題になるとしても、公平であり、国の司法の要である姉様への誠意として送った。

そして今日、姉様は私に、そして陰で国を守っている組織の長であるクロエ様に会いに来た。


「ロザムンデ様には初めて会いますが、いいお方ですね」


復習を兼ねて歴史書を読んでいると、ヒューゴ様が声をかけてきた。


「ええ。自慢の姉様です……髪と目の色が同じでも、私とは似ても似つかないでしょう?」


つい、そんなことを口にしてしまった。


この国きっての女傑である姉様の妹ということで、私はロザムンデ姉様とはよく比べられてきた。

両親はそんな態度を取ったことはないが、私が物心つく頃には神童と謳われていたのもあって、肉親以外の周囲の大人たちは事あるごとに姉様の名前を出していた。


『君はお姉様と比べたら大人しいね』

『君はロザムンデ嬢よりも控えめだね。将来が楽しみだ』

『無理はしなくていいのですよ。あなたはロザムンデ様とは違うのですから』


また、同じ立場である兄様もこんなことを言っていたっけ……


『お前は姉様と違って華がないな。しみったれで見ていて陰気になってくる』


……まあアレは姉様への嫉妬もあって、彼女と同性である私に八つ当たりしてたんでしょうね。

そう分析できるくらいには、いまは心に余裕が持てます。


「確かに、お二人は雰囲気は似てはいません。でもそれを言うなら姉上と私だってそうでしょう?」

「それは、そうですね」

「昔はよく『これで男女が逆だったら』なんて言われましたが……もう気にもしてません。それに、似ていないからと言ってどっちがどっちより劣っているわけではないじゃないですか。それと同じですよ」


大柄だけど威圧感を感じさせない、穏やかな空気を纏ってそう彼は笑う。

何故だろう、触れているわけでもないのに彼の言葉が、その存在が、側にいるだけで体が内側から温かくなる。


「ふふ……私たち、似た者同士みたいですね」

「え、ああ……そうかも、しれませんね……」


そういうとまた顔を真っ赤にして、資料の束に顔を埋めた。

白銀の髪をしているヒューゴ様は、赤面していると遠くからでもわかりやすい。

もう同棲してかなり経つのに未だに初々しい態度を変えない彼が、非常に愛らしくて堪らない心地になる。




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